もう一度
あっぷ
「・・・か・りま・・か?」
何か遠くの方で女の人の声が聞こえる。
なんともきれいな声だ。
どこかで聞いたことが・・・。
僕はハッとして目を開けた。そこは真っ白な壁に蛍光灯がならんでいるあの色彩のない部屋の中だった。
「わかりますか?」
今度はっきりと聞こえた。そしてはっきりと彼女を認知した。
目の前にはスーツをかっちり着こなした,カウンターレディのような美しい女性が立っていた。
「いかがでしたか?素敵な一日をお過ごしになれましたか?」
彼女は僕に対してそう問いかけて来た。
素敵も何も,ものすごく胸くそ悪い一日だったよ・・・。
意外とリバースするの辛いんだよ。あれ。
そういう思いを告げるべく僕は口を動かそうとした時,
彼女は手でその発言を制止させて続けて言った。
「おっしゃりたいことはわかっています。そこまで気に行っていただけなかったようですね。表情を見ればわかります。・・・まぁほかにも理由はあるのですが」
などと含みのある事を言いつつ女性はある提案を持ち出してきた。
「どうでしょうか。ある条件を受け入れていただけるとおっしゃるのであれば,もう一度菊池亮輔になって4月15日の日記帳に記載してあった内容からやり直してみませんか?」
そう彼女は言った。
やり直せるのかよ!
と言ってもやり直したところで何も変わらないのではなかろうか。
そんな僕も考えがわかったのか彼女はもう一つ付け加えた。
「日記帳の注意事項にもありましたが,あなたご自身の行動一つで改変は可能なのです。もともと,菊池亮輔ではなかったあなたは今回の巻き戻しだけでは,あまり体になれなかったようなのですが,二回目になると少しは・・・」
なるほど。つまりはだ。体になれていなかったっていうのは,自分の記憶中心に行っていたので,あまり体のコントロールが利かずに,本来持っているであろう能力,体力であったり忍耐力,思考能力と言ったものが完全に僕の手の内に入っていなかった。
ってなことかな?
「その通りです。・・・あ」
っといきなり女性は言った。「・・・あ」ってなんだよ。もしかして僕の考えていることがわかってんのかよ。
「失言でした。気になさらないでください」
「いや。気になるから。そう言えば,最初にも顔を見ただけで僕が思っていることが分かっている風に言っていましたよね。ついでにほかにも理由があるって」
そう僕は女性に疑問を投げかけた。
「・・・申し訳ありませんがその質問にはお答えできません。
答えられない理由も,無論のことですが」
そう言った彼女の表情は少し影を感じるようなそぶりを見せたが,
すぐにいつもの顔に戻り
「今決めかねているのでしたら,一日待って再度確認させて頂きます。なお、お気持ちが固まりもう一度やり直されるのであれば,日記帳に追加記載されている注意事項をご覧になってから再度チェックを入れてください」
そう告げられた途端,意識が薄れて行き,僕はその部屋から意識を消して行った。
*
目が覚めた。覚めたのはいいけど,僕はちょっとした不安があった。
ここは僕のもといた部屋なのか。っと。
目を開いて天井を見て見ると,暇な時間が多くて転びながら,木目の数を数えて行ってその形状はほぼ暗記していた,間違いようのない自分のねぐらに帰ってこれた。
「よかった~。ここでまたあのリッチな部屋だったらどうしようかと思った」
そう呟き目覚まし時計を見たら,案の定タイマーの一時間前ちょうどだった。
ついでに,日にちを確認すると,元の日にちになっていた。
やっぱり家だとこんなもんか。
そう思っていて,はっ!と夢の中の事を思い出した。
そう言えば日記に追加の注意事項がなんたらって言ってたな。
僕は机の上にこれまたページがめくられたままの日記を確認しに行った。
日記には少し変わったところと大幅に変わったところの二つがあった。
まず4月15日の内容だった
<4月15日
今日は彼女との初デートで遊園地に行ってきた。・・・だけど俺はジェットコースタに乗ってはへばってしまいTカップに乗ったらおう吐してしまった。そんな俺を見て嫌気がさしたのか彼女は俺と距離をとりたいと連絡があった。もう最悪な一日だったよ。>
驚いたことに日記には僕がかかわった内容に書き名をされていた。
しかも赤字ではなく黒字で。
昨日僕がかかわってひき起こしてしまった内容が日記には書いてあった。
黒字になっているという事はもう決定事項になったという事なんだろうか。
だったら,あの夢の中の彼女が言ったことはいったい・・・。
その疑問の回答は注意書きに書いてあった
<なお,この内容の改変の機会が欲しいのでございましたら,筆者の時間を担保にもう一度だけやり直せます。>
そう記載されていた。
彼女が言っていたある条件と言うのはどうやらこの"筆者の時間"と言う事らしいな。
時間と言ってもどのような意味の時間なのかは詳しく書いていないからわからないが,
まぁ僕のこの暇な時間ぐらいなら,何ぼでもくれてやる!
そう思ってぼくはその注意事項の下にあった□にチェックを入れた。
そうして,僕はまた,暇な一日を過ごし眠りに着いた。
次どんなんにしようか悩み中です。
…………また血へど地獄か~。