第105魚 2月14日~3月24日⑬
ダゴンから与えられた触手取得試練を終えた次の日は世間一般ではホワイトデーと呼ばれる日だ。
洋は、先月、葉月やメリエル、その他からホワイトデーのチョコを貰っていたので、その数日後から昨日にかけてはアルバイトをしてお返しを買う為の資金を稼いでいた。
「うーん。あの二人に返すなら何が良いのだろうか?あの二人には日頃お世話になっているからな。ちゃんとしたものを返しておきたい」
ちなみに幼馴染の智香などその他数人から義理?としてもらったものに対しては同じようなものを纏め買いしてお返しを既に購入している。問題はやはりこの二人に返す分なのである。
『あら?海島さんこんな所で何をしてるのですか?』
その声に振り向くとフレアさん……ではなく陽華さんである。ここ最近というか武闘祭以降ゲーム内ではあっていないが、リアルでは度々出会っているのである。
「あっ、陽華さんじゃないですか!丁度良かった。少し相談があるんっすけどいいですか?」
『ん?……あぁ、ホワイトデーのお返しを決めかけているのね?』
「あ~やっぱわかりますか?」
『そりゃあ、目の前にホワイトデーコーナーがあってその前で悩んでいたら見当位つくでしょう?』
「むっ!?それは盲点だった!」
端から見れば丸分かりのことだがそれにも気づかないほど熱中していたことに少し恥ずかしさを感じたが、的を得た発言をされたので諦めもつくと言うものである。
「そういうわけでフラグメントでもリアルでも仲良くしている彼女達にお返しをしたいんですけど、恥ずかしながら今までこういったことに無縁だったんで何をかえば良いのか分からないんですよ」
『あら?海島さんは良い男だから、手慣れているのかと思っていたわ?人は見かけによらないのね~』
「いやいや、俺が手慣れているように見えるって、陽華さんの目がおかしいんですよ~ははは~」
『むかぁっ!海島さん失礼ですね?そんな失礼な人には助言なんてしませんよ?』
「今時、口でむかぁっと言う人も早々いませんよ……」
そのようなやり取りをしたが陽華さんは俺の相談にのってくれて、俺から聞いた葉月やメリエルのイメージから色々なものお勧めしてくれた。
数時間迷うことになったが、漸くお返しを買うことができたので陽華さんにお礼の代わりに食事……を食べるには中途半端だったので、スイーツショップでデザートをご馳走することにした。
陽華さんは喜んでいたのだが『た、体重が……』ともいっていたので、少しぽっちゃりしても陽華さんは十分綺麗ですよと言うと褒めたはずなのに赤い顔で殴られた。解せぬ……。
陽華さんと別れた後、洋はお返しを渡す為、会いたい旨を葉月にメールで連絡してみるとすぐに返信が来たのでそれを開く。
『今日はメリエルともども一日家にいるので、お待ちしてますね』とあったので 俺は電車を乗り継ぎ、数回来たことのある葉月の家に向かうのだった。
『あっ!洋さん。今日はわざわざご足労頂いてありがとうございます。どうぞ上がってください』
「こんちは~。今日はいきなり会いたいと言って悪かったな」
『そ、そんなことないですよ~。……私も会えると嬉しいですし』
最後の方は聞こえなかったが、俺が来る事を嫌がってはいないようなのでほっと胸をなでおろすと洋は葉月の家のリビングに通される。
そこにはメリエルの姿があり、洋が入ると立ち上がりいつもの洗礼の言葉を投げかけてきたのだった。
『洋!アンタ当日にいきなり私達に会いたいなんていう連絡をするなんて何を考えてるのよっ!今日は偶々あいてたから良かったけど、私達はこの時間帯は習い事関係で忙しいんだからねっ?』
「あ~悪い?忙しかったらまずいと思ったから確認のメールを送ったつもりだったんだが……」
いつもながらきつい言葉をかけてくるメリエルだがその顔は全く怒っていない……と言うか満面の笑みを浮かべているので今一怒っているのか喜んでいるのか判断が難しい所だぜ。
そう感じているとやっぱり空気の読めるマイエンジェル(勿論俺が勝手にそう思っているだけだぜ?)の葉月がフォローを入れてくれたのだ。
『ふふっ、洋さん。メリエルは今日は偶々と言ってますけど、ほんとは私達今日一日予定を入れてなかったんですよ。洋さんならきっと今日中に連絡を入れてくると思っていましたから……それに今洋さんがメリエルに思っている内容はきっと後者が正解ですね』
『もうっ!葉月いつも余計なことばっかり言わないでよ!黙ってれば分からないんだから』
「は、葉月はエスパーなのか!?」
『そんなことありませんよ~。洋さんならきっとこういうこと感じてるんだろうな~っていう憶測ですから』
その後、洋たち3人は当たり障りのないリアルのこと、フラグメントのことを話し合いその流れで、洋が掲示板にあげたダゴンの妖艶なSSについて色々聞かれた。
『今度、その魔王さんに会わせて下さいね?』
こう発言したときの葉月の顔は凄く怖かったとだけ言っておこう。
葉月の家で夕食をご馳走になった後は解散となり、あとでフラグメントで会おうということになった。というのも、ダゴン関連の流れからダゴンの触手を食べることでタルトがそろそろ進化することを口にしたところ、二人が口をそろえて見たい!と言い出したので、夜に待ち合わせてタルトに進化してもらおうということになったのである。
そして帰宅後、葉月宅でご馳走になった事は既に母親に連絡済だったので手早く風呂に入るとフラグメントにログインした。
ログインするとハヅキたち二人だけでなく、ベルやウルド、スクルドの三姉妹にマーシャルの奴まで集まってきていた。ぶっちゃけ全員集まっていると言うことである。
「おろっ?何故ベル達までいるんだ?」
『もちろん、タルトちゃんの進化を見るために決まってるわよ』
ヒロの質問にベルが答え、続けてマーシャルが発言する。
『僕としては狩りをしていたかったんだけど、ウルドさんに連れてこられて……』
「あ~それは、ご愁傷様?……だがまあ、滅多に見れるものじゃないんだし、どうせ何だしみていけばいいさ」
『そうですね。せっかく来たのでちゃんと見届けますよ』
当初、ハヅキとメリルの2人だけの予定だった為、海中を移動しようと思ったのだがベル達がいる以上その手は使えないので、魚神島までは船を使うことにした。勿論、陣営メンバーへ初披露の機械船である。
『すごい!?何よこの船!砲撃が12基もついてるし、その攻撃力が凄いことになってる!耐久力も並大抵の攻撃じゃ沈まないわね』
『ヒロさんいつの間にこんな凄いものを……』
『これはすごいですね……』
『お兄ちゃん!もっと早く教えてくれたらよかったのに!』
『この船って少し前にダンジョンに行くときに使ったものよね?そう考えると改造速度が凄いのね』
概ねいい反応をしてくれているので嬉しいと思える。なるほどこれが生産者としての喜びなのかもしれない。人に褒められる仕事をするとやる気が起きるよな。
「まあとりあえず乗れ乗れ!」
気を良くしたヒロは、全員を船に乗せると、一路魚神島へ。
到着した魚神島にはクトゥルフの姿があった。クトゥルフはその巨大な魚体でヒロの船に近づくといらぬ発言をしてきたのだ。
『あらあら?ダーリンじゃないの!この時間に島に来るのは久しぶりね』
勿論これに反応したのはヒロ……ではなくハヅキとメリルだ。
『だ、ダーリン?』
『ヒロさん?これはどういうことでしょうか?説明をお願いします』
ヴァーチャルなのに冷や汗が流れている気がする……別に疚しい事なんて何もないんだしそのまま言えばきっと大丈夫だよな? ヒロは一生懸命、誤解を解くべくヒロとクトゥルフ、そしてタルトにヤトとの関係を伝えた。
『ひとまずは信じますけど、あまりこういう隠し事はしないでくださいね。心臓に悪いです……』
「ひとまずも何も疚しい事なんて何も無いから!100%信じてくれていいんだからな?」
『だってヒロだし……』
『そうですね……』
「ぐぅ、何で信じてくれないんだっ!」
ヒロは悲しさのあまり浜辺にへたり込んでいる。なお、ベルたちはというとその修羅場?を面白そうに眺めているだけである。
『ところでダーリンは何をしに島に来たの?』
「タルトが進化するためのエサがそろったから進化してもらおうと思ってな」
『あらら?じゃああの駄々っ子ダゴンちゃんから触手をもらえたのねぇ。そういうことなら遺跡の棺を使うといいわよ?えっと確か《滅天の棺》・《秘精の棺》・《転義の棺》にヤトちゃんに使った《生誕の棺》があるのを覚えてるわね?タルトちゃんに資格があれば、【転義】か【秘精】辺りが反応するんじゃないかしら?』
「反応がなかったら普通にフィールドで進化させれば良いのか?」
『そうなるわね。でもまあダゴンちゃんに認められてるんだしその辺は心配ないとおもうわ?』
「サンキュ。早速いってみるわ」
クトゥルフと別れたヒロ達は、タルト達の待つ遺跡最深部と到達。
『キュルルンン!(パパさん。僕大きくなっても良いの?)』
「おう。そのためにきたからな。いっぱい食べて大きくなってくれよ」
「キュピィーン(わーい)』
ヒロは会話をしながらダゴンの触手を含めたレア食材をタルトにあげるとそれをバクバク食べ始めるタルト。タルトが食べてる間、どれかの棺が反応するのを期待してみていると《秘精の棺》の棺が輝きだしたのだ。
「あれは……たしか《秘精の棺》だな。棺に秘められた能力はっと……」
ヒロが【神眼】となったスキルを発動すると処理しきれないほどの歴史やらなんやらの情報が流れ込んできたので、膨大な情報量に耐え切れなくなりスキルをキャンセル。棺の成長情報だけに絞ってみてみたところ、どうやらこの《秘精の棺》にはタイラントタートルであるタルトを《蒼海亀王》に進化させる能力があるらしい。
《蒼海亀王》の種族特性は、やはり防御と魔力に特化された種族らしい。タルトがそういう育成方針だったしそうなる予想はしていたけどな。
「タルト。あの光っている棺に入るんだ」
『キュルォ!(わかったぁ)』
いわれるままタルトが《秘精の棺》に近づくとその体は棺に吸い込まれある表示が出現した。
《成長完了まであと2時間。レア度の高い素材を奉納することで時間が短縮されます。時と場合によっては能力の強化に働くこともあります》
棺の情報をみんなに相談した所、それぞれが持っていたレア素材を分けてくれた。もちろんヒロもまだ大量に余っているダゴンの触手を含め幾つかを奉納。
《成長完了まで後2分》
《成長完了まで後1分》
《成長完了まで後30秒》
《成長完了まで後10秒》
『もうすぐ進化したタルトちゃんが出てくるのね?愉しみ!』
実は亀好きだというベルとウルドが非常にワクワクとした表所で棺を見ている。
《成長完了まで後5秒》
《成長完了まで後……》
《成長過程に、本人の意思に対して強力な力が働き、本来とは違った存在に進化しました》
「へ?ちょぃまてぇ!?」
『ど、どういうこと?』
『一体どうしたんでしょう?』
棺が輝き現れたのは亀の甲羅を背負った人型の少年。少年は目を開けるとヒロに向かって一言。
『おはようございます。パパさん!』
その場にいた俺含め全員呆気に取られた顔をしていた。




