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第九話 合一祭の開幕*

 新年度最初の透き通った朝日が、首都の中央に建つ行政の頂、統治府本部を正面から厳かに照らしている。

 伊達派で最も高い建物であるこの統治府本部庁舎は十二階建て、三九メートル。窓が幾つも並ぶ十一階まではどっしりとした直方体で、正面の外壁はそれぞれ縦向きに、真ん中が白く、左右は赤く同じ幅で塗られている。中央の白い帯の上に、赤いドームをかぶった、窓がなく四方が白い横長の部屋が一つ頭を出している。これが十二階、歴代の大王や勤のような摂政が支配を行ってきた執政室である。そのど真ん中から突き出た赤ドームの下、縦に白く塗装されたラインには、執政室の他にも、三階に花で飾られた弧を描く手摺が印象的なテラスと、一階に大きな木製の扉がある。

 四月一日の朝八時四十分。この正面に半円形に広がる朱雀広場は、多くの人でごった返していた。

 いや、それだけではない。

 東を向く市門からこの広場に繋がる朱雀大路と、広場から市の南端にある氷野宮までを真っ直ぐ結ぶ南大路には、所狭しと多種多様な屋台が並び、九時の記念祭開始に向けて、どこも総出で直前の準備に励んでいる。そして、その九十度に曲がる二つの大通りの間、扇の中を埋める各省庁本部や司法局、裁判所も、各々の建物の前に何かしらブースを用意し、祭りに便乗して臣民からの支持・信頼を得ようと着々と準備を進めている。

 記念祭に使用される市の南東区画は、もう二十分後に迫った年に一度の大祭に向けて、確実にヒートアップしてきている。

 すでに一時間前から、その加熱ぶりをぐるりと巡って見て回っていたある人物が、最後に朱雀広場にやってきた。

「平和ですね、王国は」

 広場の雑踏と喧騒に紛れて、七海は独りごちる。

「陛下も幼い頃は、沙織姉様と一緒に来ていましたのでしょうか?」

 脳内で王子時代の真仁とロリ、もとい、まだ小さいころの姉を並ばして歩かせてみる。

 ――微笑ましいですね。

 ふふふ、と優しい笑いが漏れるが、一歩間違えれば変質者だ。

 ――しかし……

 周りを見渡す。春陽気も手伝って、道行く人々は誰もかれも本当に嬉しそうだ。

 ――しかし、きっとこの中にも大勢、戦争で肉親を亡くしました方が多いのでしょう。

 無意識に拳に力が入る。

 もっとも、彼女が気張ったところで、議会が予算案を通さない限り、外交の出番はないが。

 ――いえまあ、もうそれとなく周兄様に根回しを始めましたが。ですが、今少し、側近の方にも話を通しました方が良いですね。誰にしましょうか……。

 考えながら人垣に突っ込む。

 すると、ひそひそ声が耳にさわった。

「……あの白髪、珍しいわね?」

 一瞬立ち止まる。当然ながら後ろからどんと衝突された。

「おい、危ないだろう」

「あ、すみません」

 顔を伏せて咄嗟に謝る。すると、うん? とぶつかった男性が唸る。

「見慣れない顔だねえ、お嬢さん」

 喉がひりつく。が、あくまで表はクールに振舞う。

「そうですか?」

「ああ……。特にこの白髪は――」

 そう言って手を伸ばしてくる。男の大きな手が、むあっと熱気を伴って、顔のすぐ横へ迫ってくる。

 七海はひっと声をあげて、目をぎゅっとつむった。

「え、あの、大丈夫ですか?」

 思わず男の方が手を引っ込めて、本気で案ずる。七海は何も言わず背中を向けて歩き出した。

 ――トラウマですね……完全に。

 一ヶ月に渡った監禁の記憶が体を蝕む。

 ――一瞬、正体がばれたかと思いましたが……それ以上に最悪な結末ですね。

 だが、それでも七海は姉を案じ、いずれ兄弟姉妹が仲良く暮らせる日をと願っているのだ。

 ――何しろ私が逃げていませんでしたら、今頃は……。

 ため息をついた瞬間、雑踏を切り裂き、天をも揺らすような野太い大声が広場を叩く。

「私、中央方面陸軍、第八八砲兵大隊大隊長、照屋小五郎中佐が、軍部を代表して、始祖両家合一をお祝いする、祝砲の五門斉射を指揮させていただきます!」

 わあっと群集が一斉に拍手をし出す。唐突に出来たうねりに七海はもまれ、ぽんと人の山から弾き出される。

「第七分隊!」

「はいっ」

 続けざまに目の前から、大音声の爆弾。七海はふらついて、頭を上げる。

「第八分隊!」

「はいっ」

 統治府本部の目の前に、帯刀し軍服を着た指揮官らしき大男と、そこから少し下がったところに並べた五門の大砲の周りに、それぞれ四五人ずつ砲兵が立っている。

「第九分隊!」

「はいっ」

 分隊を呼んでいる男は、上は黒ボタンが均等に五つ並んだ白肩章つきの赤い詰襟、下は赤白のタータンチェック柄のスカートに同じ柄の分厚い靴下と黒い軍靴という姿だ。スカートと靴下の間に露出している脛は剛毛で黒々としており、黒髪は短く刈られ、見るからに屈強な体付きをしている。

「第十分隊!」

「はいっ」

「第十一分隊!」

「はいっ」

「斉射用意!」

 砲兵がばっと配置に散る。人波に訳も分からず攫われて、ぼうっとしていた赤い目が、次の瞬間に何が起こるか気付くと、はっと見開かれる。

「ぅてーーっっ」

 だが、両手で耳をふさぐよりも早く、五門の大砲がごおっと一斉に火を吹いた。

「きゃんっ」

 思わず根っから乙女な声をあげてしまい、慌てて両手をそのまま口元に持っていって覆う。

 群集の歓呼が止まぬ中、どこかで小太鼓がタラララララタッ、タラララララタッと鋭く打ち鳴らされ、続いてぼへえーという独特の低音が響く。広場の人たちは一斉に背筋をただし、脱帽する。

 ――まさか、これは……。

 頬に汗が垂れるのを感じていると、一世紀以上前にスコットランドから持ち込まれ爆発的な人気を得た“伊達派の民族楽器”バグパイプが、国歌「(せき)()」を元気よく吹奏し出す。と言っても、旋律はスコットランド・ザ・ブレイブというスコットランド人が誇る民族音楽の丸パクリだ。だが、こうしたことは当時はホモ・サピエンス界でもよくあったことだし、そもそもホモ・オリビリスには現代的な著作権の観念など通用しないから、問題にする者はいない。

 もっとも今問題にすべきは――



 ――歌詞、分からないですねえ……。



 いかに口ぱくするかである。



中途半端ですが、次回に続きます! お楽しみに!m(-k-)/

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