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第十三話 武力と外交と

 大王は寝室において明らかに不満顔であった。

 緋色の寝巻きをまといソファにかけながら、明らかにリラックスしていない態度に、七海は戸のところで立ち止まって動揺する。

 真仁の黒目がちらとこちらを睨む。身がすくむような眼光に、ひっと声をあげる。

「人の顔を見て悲鳴を挙げるとは、どういう了見だ?」

「あ、いえ、その……」

「早く来たまえ」

「し、失礼します」

 恐るおそる入室し、大王の座るソファの少し前で立ち止まる。赤い目でそろりと大王を見やる。と、目をつむっていた大王が盛大にため息をついて足を組んだ。服の裾が炎のように揺れる。

「余がなぜ不機嫌か、分かるな?」

「それが分かりましたら、これほど怖がりません」

 いつも通りクールに言い切ってしまう。が、空気がぴりと張り詰めたのを感じ、墓穴を掘ったことを察する。

「七海。お前の役職は何だ?」

「役職ですか?」

「二度言わせるな! 役職は何だと訊いている!!」

「はい! 陛下の秘書と外務大臣です!」

「そうだな?」

 肘掛を叩いた拳に力をこめる。

「それで、今日何をしたのだ?」

「……意見具申です」

「それは別に構わん。司令部の一員である以上、意見を言うのはむしろ仕事だ」

「……レーダーでいち早く敵を発見できなかったことですか?」

「違う」

「……分かりかねます、陛下。他に特にお叱りを受けますようなことは――」

 拳を今一度振り下ろす。

「あったから、言ってるんだ!!」

 恐ろしさのあまり目をつむる。

「お前は……電磁加速銃七式を使って、敵に攻撃をしたではないか!」

「……はあ、しましたね」

「しましたね、じゃないが! どうしてあんなことをした?!」

「攻撃を受けましたから、自衛のために迎撃しました」

 クールに断言する。一分もまずいところはないだろうとばかりに。ところが、大王は怒鳴り声を上げた。

「敵兵を自ら殺す外相が、どこの世界にいる!?」

「ここにいますが」

「黙らんか、どアホっ!」

 ええ、と口からため息が漏れる。

「外交とは、戦争と対極にある存在だ。武器を持たず言葉でもって相手との理解を深め、平和的に相互の利益を探求する――それが外交というものではないか!? その長たる人物が、いかに最前線とは言え己が武力行使するのでは、外交の寄って立つ所を自己否定しているも同然だ!」

「ですが、陛下。放たれました弾丸は言葉では止まりません」

「そんなことは知っている。だが、迎撃を行うのはあくまで武器を持った軍部の仕事であって、そこから最も遠くあるはずの外相が手を出して良い道理はない!」

「それはもちろん、軍部が私の身を守ってくれます限りはこちらから手を出すことはしませんが、本日の様では己の身は己で守る他ありませんでした。外相であります以前に、私は一人間です。自衛くらい許されますでしょう?」

「いやしかし、あれは自衛の域では……」

「自衛です。自身の安全確保という目的が要なのでありまして、結果としての規模で自衛か否かは変わりません」

 クールな調子を貫き通し、ついには大王を黙らせる。が、真仁は最後に今後はよく考えるようにと残して、退室を許した。


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