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序章 終話

「報告、ありがとう。それと騎士長と隊員には十分な休養を与えると伝えてくれ」

 騎士会の役員をそう言って下げさせると、執政卓に頬杖をつく。そうして大理石の部屋の中を見回すと、あっと呟く。

「随分久しいと思ったら、今月になって初の執政室か」

「今更ですか」

 秘書卓で騎士会からの報告書をぱっぱっと点検し、“北七”と彫られた判子を捺す。それを持って立ち上がると、真っ直ぐ大王の方に歩いて来る。

「騎士会からの報告書です」

 腰を少し曲げてから、机の上に置く。

「ありがとう」

 それを受け取ると、詳しく中身を読み始める。

「騎兵隊側の死者はゼロか。だが負傷が十。いずれも軽傷。そうか……。反乱兵は皆殺し」

「連隊を丸ごと消す必要があったのですか?」

 秘書卓に着きながら感想を漏らすと、真仁は言い切る。

「逆らう者に、まして逆らい続けると宣言した者に、くれてやる慈悲も愛もない。そんな奴らの前では、余は徹底的に死神になる」

 陛下は大した独裁者ではないのか、という疑念が一部まかり通ってしまうのも納得できなくない発言だ。そもそもここまで事態を悪化させた根源は、失業軍人対策を早く打ち出せなかった政府側の責任でもある。それらを棚上げして、さも軍部が全面的に悪いかのように非難するのは独善的ではないかと秘書は指摘するも、首を横に振り答えになっていない応えを言う。

「違うよ、お芭瀬。だからと言って武力蜂起が正当化されるはずがない。今回、余が処断したのは、政策反対派ではなく、反乱軍だ。どんな事情があっても、蜂起は内乱罪だよ。完璧に罰されるべきだ」

 本当に回答になっていない。

 だがとにかく、これでパンゲア政策は極めて大きく前進することになる。軍部は最初で最後の直接対決で大王に完膚なきまでに叩き潰され、抵抗の意志が弱まっている。明日召集される軍部統帥本部臨時評議会でパンゲア政策に対する軍部の協力の方針を認めさせれば、愛国軍事主義者を含めた保守派は壊滅的なダメージを受けることになるだろう。だが、そこまでのやり方は、やはり乱暴で強引な面を否めない。そんな意見に真仁はこう返した。

「余は理想家ではない。帝王学に従う支配者なのだ。場合によっては夢を追うよりも、支配の合理を追求しなければならない。……要は人間の底辺だよ」

 付け足された言葉に七海ははっとするが、見上げても大王は頬杖をついて報告書をめくっているだけであった。


 翌日、統帥本部臨時評議会が開催。大王は軍部の行動を強く非難し、政府の方針に大人しく従うよう問答無用で要求した。軍部が武力蜂起という力技を見せたのに対し、鎮圧と権力の振りかざしという力押しで返したのだ。しかし、彼が初めに宣言したことは貫かれていた。王の権力は全て臣民の幸福のためにあるという宣言は――。

 軍部は早期に失業軍人対策を考案するようにとだけ条件をつけて、パンゲア政策に協力する方針を決した。


 五月十二日。この評議会決議の発表は、一年と四ヶ月に及ぶ混乱へのひとつの終止符となった。平和条約に一歩近付き、希望ある未来を思い歓呼する民衆に統治府のテラスから手を振りつつ、この間だけでも千単位の死者と百単位の負傷者を出してしまった事実から、完全に顔を背けられる真仁ではなかった。




 ――それでも僕は、あの人の妹と一緒に迎えに行く。そしてただいまと言うんだ。大切な“家族”に。かけがえのない人に……。それはきっと、分断の傷が癒えた、幸福に満ち足りた世界だから。


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