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ソリット・スクア  作者: そうしょう
1.異常な彼らと秘密 
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3.ソリット・スクア

彼、ルカ先輩について行った先は一つの部屋の前だった。名前のない教室のようだ。余り教室だろうか。


「ここは俺たちが勝手に使っている部屋だ。っていってもまぁ、さっきも言った通りここも《影が薄い》。だから、人が訪れることだって滅多にねぇ。」


使いやすくて助かるんだけどな。

そう言いながら、ルカはドアノブに手を当てる。


「――…!」


中は、驚くぐらい―生活的な空間に溢れかえっていた。

まず、ソファがある。冷蔵庫、電子レンジ、でもベッドはない。テーブルを挟むようにしてソファがある光景は、どうも事務室のように見えた。よくある刑事ドラマとかで出てくる、あんな感じの部屋(わかる?)。


「――あれ?!女の子???新入生ちゃん?!」


と。

ソファに深く座ってくつろいでいたらしい―少女がぱぁっと表情を明るく輝かせた。短いショートヘアーの茶色っぽさの強い髪が、しっかりと揃えられている。手入れもされているのか、艶っぽさが美しく映えていた。ぱっちりとした大きな瞳、それから動きやすそうな服装。この学校、基本的に服は私服とか、一応制服もあるけれど、自由であるために皆個性が際立つのだ。最も、基本は制服なので着こなすのが常識である。が、この少女はどうやら制服の原型をとどめてさえいないようだ。完璧に私服である。


「どうしたの?迷子?!!ホントのホントにかわいいね!!!」

「え、えっと、…あのぅ」


そして、やっぱり、…先輩だけど、かわいい、の言葉が似合う。


少女はアカリに殆ど飛びつくような勢いで手をガシッ、と掴むと急き込んで質問をした。


「迷子じゃ、ない…と、いや…」


迷子か……。


「でも本当に珍しいね!よくこんなとこ、わかったね?1人で来たの?お友達とかは?」


「へ?」


1人?

いや、さっきから、もだけれど、この少女の言葉は…少しおかしいんじゃないか。だって、アカリは確かに迷っていたけれど、それは当初であって、今はルカ先輩に…


って、そうだ。ルカ先輩が、隣に――…


「――おい、」

「…あああああホントにホントかわいいいいいいい」

「おい、カナ?!てめぇ人のこと気づけよ!!!いンだろここに!!!」

「―へ?!あ、うわぁ!!!る、ルーちゃん!!!?い、いたの?!!!」

「いたよ?!いましたよ!!!!むしろ最初に扉開けたの俺だよ!!!!」


うぇ、と少女―カナは表情を引きつらせて、いつの間にかソファに座って足を組んでいたルカに気づいたようだった。アカリも目を瞠る。いつのまにソファに移動していたんだろう。気づかなかった。

ルカは不機嫌気に言い放つ。


「つうかカナ、てめぇ仕事やっとけっていったじゃねぇか。終わってねえだろ。」

「ぎくっ。いやいや、終わったよ!!終わってるよ?!」

「あぁ?!俺はこのプリントを誤字なく映しとけって言ったじゃねか!!」

「それは…あれだよ!!!うん、あれ!!!」

「お前あれしか言ってねぇじゃね-か!!!!」

「ほ、ホントのホントだもん!!!」


やはり、口が悪いようだ。

ルカはテーブルの上の資料 (どうやらプリントらしい)を指差して、眉間に皺を寄せて怒鳴る。その声にカナはしどろもどろになりながらも、視線を逸らし――アカリとぱちり、と目が合う。


「そういえば、ルーちゃん、この子、誰?」


今更か。

思わずツッコミしそうになったのをぐっと堪えて、私はペコリとお辞儀をする。礼儀正しく、最初が肝心だ。


「わ、私、アカリです。咲良 灯、よろしくお願いします!!」

「――そうなんだ!アカリちゃん、かわいい名前!よろしくね」


にこっ、と…まるでひまわりみたいな子だな、とアカリは思いながら、差し出された手を軽く握った。その様子を見ていたルカは、気だるげにしながら首を傾げた。


「…カナ、コウときぃはどうした?」

「ん、コーくんはちょっと買い出しに。」


…コーくん?


―と、そのとき。


「―ただいま帰りましたー!!って、あれ、女の子?」

「あぁああああ?!!」


―—行前 幸君?!!!


さらりとした黒髪に、片耳についたピアスが揺れる。切れ目がちな瞳が、今は驚愕に目を見開いていた。服装は軽めで、先程クラスで会った時とさほど大差はない。となると、一度家に帰ったわけではないのだろう。


「え、…あ、アカリさん、でしたっけ?同じクラスの、」

「そ、そう、です、えっと、…よく、知ってたね?」

「そりゃもう!!僕、女の子の名前はしっかり憶えてるんです!!」


嬉々を顔いっぱいに浮かべた彼の両手には段ボール。その中にはお菓子やらジュースやらが入っている。にしても、少し重そうだ。近くのコンビニとかあったっけ、と考えてそこそこの距離があったはずだった。そこからこんなに持ってきたのだろうか?


「お帰りコーくん、なぁんだ、同じクラスだったんだ?そんなにいっぱいのジュース落とさなかった?」


こてん、とカナは首を傾げる。するとコウは「そりゃもちろん!」と頷いた。


「しっかり《運》を補正していきましたからね!あ、カナ先輩は炭酸のオレンジでいいですか?」

「えー炭酸ミルクないー?」

「ありますよー!!!」

「いやいや!!何だよそのミルク?!まずそう!!つうか新入生、お前コウと同じクラスだったんなら言えよ」


炭酸ミルク…?!とアカリが絶句していると、それを代弁したかのようにツッコミを走らせたルカ。アカリは怒られた理不尽に困ったように眉を寄せた。とりあえず「すみません」と謝っておく。

まず、私はここにどうして連れてこられたんだろう。


聞きたいことも、言いたいことも、たくさん、ある。


そんなアカリを悟って、なのか、カナは【炭酸ミルク】を片手に持ってにこりと笑いかけた。その右目はどこか少しばかり異色な色を放っている様にも見える。けれど、決して気持ちの悪くなるような瞳ではなかった。中指に着けている指輪がするりと動いて、他の指と一緒にアカリの手を絡め取るとソファの方に軽く引っ張った。


「―アカリちゃんも座ってよ、何飲む?」


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