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ソリット・スクア  作者: そうしょう
6.記憶と重ねる一つの信頼
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2.光明狭所

ぼくときぃはいわゆる、幼馴染という関係だ。小学生の時から学校は同じで、実家も近かった。とはいえ、彼の家事情は長いこと知らなかったし、そして、知ったとしても何もできなかった。結局は、無力な子供でしかなかったからだ。

…ルカ…リーダーは、だけど違った。

リーダーは、彼は行動力があった。一分一秒でも無駄には出来ないとでも言いたげに、ぼくの話を親身になって聞いてくれた。よく考えると、当時のぼくにはきぃぐらいしか異常者を見たことがなくて、ぼくら以外にもいたことになんとなくホッとしてしまっていたからかもしれない。話をきいたリーダーはあってみたいと言い、そして、ぼくらはきぃのためにとさまざまなことをしてきたつもりだ。

…ぼくは、勇気がなくて、聴くことさえできない。


きぃが、起縁が、今、幸せなのか。

ぼくらがしてきたことは、無駄ではなかったのか。


だけど、ぼくは、勇気が出せないでいるんだ。


××××××


アカリはコウと買い物に来ていた。

というものの、いつもソリット・スクアの使用部屋で常備しているコーヒー類の粉が少なくなっていることに気が付いたからだ。広告で、学校からそう遠くないスーパーにてタイムセールをやるということで二人、学校を出て買いに赴いたのである。

「最近、ルカ兄ボーっとしてますね…」

コウが小さく呟いた。

「疲れてるんでしょうか…ルカ兄、受験生ですしね」

「そういえば、ルカ先輩もカナ先輩も、どこを受験するの?」

忘れそうになっていたけれど、二人は三年生。受験生である。そう問い尋ねると、コウは少し考えるようにして答えた。

「…確か、二人とも同じ大学を狙っていたんじゃなかったですか。考古学系です。異常について、調べるために…でしょうね。」

「カナ先輩はルカ先輩を支えるために、…か…」

なんだか、すごいな。

アカリは思わず感嘆してしまう。自分には、そういう夢がない。

ルカのように、異常者の為に異常を調べる、なんて夢も。

カナのように、ルカを支えていける自分でありたいと願う夢も。

何一つ、ない。

「私、何がやりたいんだろ」

再来年の私は、何をしたがってるのだろう。

コウは小さく微笑む。

「僕も、まだ、決めてません。助けてもらった命でもありますから、何か恩返しをと常々考えてはいますけど、それだけです。それより今は…残り少ない六人の時間を、楽しみたいんです。」

「そう、だね。…うん、そうだよね!」

アカリが元気になったようでよかった、とコウはにこりとほほ笑む。


この二人、付き合ってはいない。


と、スーパーの入口に差し掛かった時だった。


「あれ、コウにアカリちゃん!」

ブンブンと両手を振りながら、少女が声を上げた。スーパーのほうから、アカリたちとは逆に、片手にビニール袋を持ったレイの姿を認める。

「レイ先輩?」

「先輩今日先に帰ったんじゃ」

そうコウはいいかけて気づく。いつもの上衣を着てはいるが、下はラフな私服だ。やはり一度家に帰っているのだろう。レイはにこりと笑って二人に近づいた。

「二人とも、買い物?」

「はい。先輩もですか?」

アカリはレイのことを好んでいた。ここ数か月の間で、彼女のことが色々わかったのだが、彼女は見た目大人っぽさが強い割には子供っぽい一面も多い。そこが愛くるしく、少しばかり尊大な口調でさえレイの魅力を引き立てていた。カナに続いて、色々と相談のしやすい先輩である。

「うん、そう。」

「…先輩、顔色悪くはないですか?しっかり休んでますか?」

コウは不安げに尋ねた。そういわれてみると、とコウは彼女の表情を伺う。少しばかり悪いような気がする。

「そんなことないよ。ぼくは大丈夫だ。君たちこそ、体調崩しやすい時期だから気を付けなよ」

じゃぁまた学校でね。

そう言って手を振り、去っていく後ろ姿はやはりどこかおぼつかない様に見える。アカリは少し心配になったけれど、どうすることもできなかった。それをコウも想ったのだろう、少しだけ嘆息をついて「心配ですね」と呟いた。

「カナ先輩も勉強に忙しそうですし、ルカ兄もレイ先輩も…。…どうして、無茶、するんでしょうね。」

溜めこまないで、話してほしい。

頼りないかもしれないけど、年下の、自分たちにも話してほしい。

そう思っては…いけないだろうか。

「…でも、コウも大概だけどね?!」

「え?」

「コウもきつかったりしたら言ってよ!無茶とかダメだからね、ほんとにだよ」

ふと頭によぎるのは、異常者が抱える、負荷。大丈夫だと言われても、どうしても心配になるのは仕方ないのだ。コウは困ったように頬を掻くと、「えっと」と躊躇う様にして…頷かない。

「…善処しますね」

「えぇえええ!もぅ……!!」

「すみません。」

コウはそう謝りながら、その【天才】の頭を廻らす。

―この頃、ルカ兄の眼がアカリに注がれている気がする。

そこに宿るのは警戒心だ。アカリは…おそらく、気付いていない。ルカは目ざといから、自分がアカリに対するルカの態度に気づいていると感づかれているかもしれない。なるべく、隠しているつもりだ。だけど…

(わからない…わからないんです、ルカ兄…ルカ兄は、何をしたいんですか…)

ソリット・スクアを創り、確かに、今自分たちは楽しい。それとは別、ルカには何か目的があるのではないかと思っている。

コウは彼が自分の為に異常者について研究をしているのは知っている。それも目的の一つではあるだろう。

…そうなのだろうけれど。

まだ、何か。

「コウ?」

「…ごめんなさい、少し考え事を。行きましょう」

「…コウくーん、そっちにはコーヒーの粉ないよー」

「え」








レイが倒れたと二人が耳にしたのは、それから二日後のことだった。


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