1.嘘実証明
―人が、怖かった。
―人を、信じれなかった。
―人の、嘘を見て。
―人の、真を見て。
カラッポだったと、気が付いた。底の見えない暗闇に落ちていく。自分を満たす、只、息を詰まらせて、そのナニカを求めようとする。うつろな瞳がそれをとらえることはない――否、嘘と真の結果しか見えやしない。
もう、何も、信じられない。
―『初めまして』
と。
そう言って、手を差し出される。金と黒の、あいまいなまだら模様な髪が揺れている。
ふと、思い出した。
春が少し過ぎたころに咲く、可憐な花。
リナリアの花――…。
*
六月終わり、夏の匂いが強くなった。そろそろ扇風機、出さないといけないなぁとカナは呟く。呟くといっても、本当にかすかなささやきでしかない。日光を遮断すべく、部屋はカーテンで囲まれていて薄暗い。
―カリッ
手に持った、棒アイスを一口、齧る。いつもはきぃが眠るソファにはその姿がない。おそらくだが、保健室。そのきぃは、最近ではアカリと仲よくなりだしたらしくて、カナとしては嬉しい限りだった。仲良しが一番だから。
―カリッ
口内にソーダ味が広がった。唾液とまじりあい、なんとなく味が変わる。甘い。
珍しく室内は静かだった。アカリが来てからは特にうるさくなっていたその部屋であるけれど、今日はアカリが風邪をひいてしまったらしくて久しぶりに静かだった。その、やたらとにぎやかな後輩でもあるコウも今は両腕を組んで目を瞑っている。眠っているのだろう、首がこくり、こくりと傾いでいた。
―シャク
ルカが小さく呻る。書類に目を通していたルカは眉間に皺を寄せて、書類と睨めっこしていた。おそらく、進路の。
まるで、世界の中に自分1人だけのような静けさだった。
ふと、思う。
ルカと、カナ、そしてコウの三人が今いるこの状況であるけれど。
今いるこのメンバーは、『消失の悪夢』の経験者、当事者なのだ、と。
―思い出すだけで、寒気がぶわっと湧き上がってきて、カナは眉を寄せた。
ルカの方にチラリと視線を向けた。すると、彼はこちらに気づいたのか「どうした?」とでも言いたげに目があった。なんでもない、そういう意味を持って首を横に振る。
口に出すことなく、心の内で呟く。
支えると、決めたんだ。
カナは小さく微笑んで、目を瞑った。食べ終えた棒アイスの名残をゴミ箱に捨てて、空っぽになった両手を組ませる。
……大丈夫。
あたしは、君の傍を離れない。
あたしが、『覚えていられる』限りは。
今回よりカナ編突入です。ルカにコウとは違う意味で近い、そんな彼女の異常とは。




