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愛だけの世界。

作者: 雨夜 紅葉

『愛が足りねぇんだよ、てめぇら』がキーワードの短編です(笑)

この世界は、愛で溢れていた。

家族愛、友愛、恋愛、組織愛ーーーー

だが、それも昔の話。

諦めることを覚えた人々は

人を傷つけ、自分を傷つけて

いつしか人々は、愛を探すのをやめてしまった。

……そんな、冷たい世界で。


「あー、ったく。どいつもこいつも情けねぇな……」


一人の男が、動き出す。


これは、その男ーー愛の押し売り業者の

あたたかな愛の物語(笑)。



夜が訪れた街の外れ

一人の男が、凛と佇んでいた。

周りには、倒れ伏す屈強な男達。

男はゆるりと手を降ってこびり付いた返り血を払い

静かに呟いた。


「おいおい、こんなんばっかかこの街は。

根性も愛も足りねぇよ」


この男の名は、ユウ。

三日前この街に現れた、『愛の押し売り業者』である。

無論、自称だが。


「さて、夜が明けたら

こいつらの雇い主探しに行くか」


売られた喧嘩は買わないとな。


ユウの物騒な呟きは、誰にも聞かれることなく

夜の街へと溶けていった。



翌日。

暗殺ギルド『BlackHero’s』アジトにて。


「負けて帰って来ただと!?相手は一人なんだろうが!」

「す、すいやせん!」


があん、と勢いよく殴られて

屈強な男が壁へと衝突した。

殴られた男は

昨夜、ユウの周りで倒れていた男の内の一人。

その男の胸ぐらを掴み上げて

殴った本人ーー『BlackHero’s』リーダー

グラム・ビジットは怒鳴り散らした。


「最恐最大の暗殺ギルドBlackHero’sが

たった一人の男に負けただと……!恥を知れクズが!」


グラムは男を床に叩きつけると

苛立ち交じりに葉巻へ火を着けた。

部屋に紫煙と沈黙が満ちる。

最恐最大の暗殺ギルド。

BlackHero’sの名を聞けば、逆らう者などいない。


そんな強大な組織に、喧嘩を売った一人の男がいた。


何人かの実力者が襲撃に行ったが、勝った人は一人もいない。

昨夜行った精鋭部隊も、全滅という結果を残し、グラムの苛立ちは増すばかりだ。


「ちっ……!どいつもこいつも使えねぇ。

……おいリン、リン・アスティア!お前が行って来い。負けて帰ってきたら殺す」

「……へ?」


グラムが葉巻で指した先には

壁に凭れて、ハラハラと事態を見守っていた黒髪の少女が。

少女は、自身に集まる視線を感じて

悲鳴にも似た叫び声を上げた。


「えええええええええええええええ!?」



場所は変わって、大通りから外れた裏路地。

先ほどの少女ーーリン・アスティアは

トボトボと、ただし道が狭いため

塀の上を平均台のように歩いていた。

本日何度目かのため息が漏れる。


「こんなの死亡フラグだよ……

先輩達が大勢でいって殺せなかった人を

私が一人で殺せるはずないじゃん……

っていうか!なんで失敗したら私が殺されることになったの……!?」


愚痴りながらも、足はとめず

どこにいるかもわからない標的を探す。

逃げる、という選択肢は彼女にはない。

なぜなら彼女は、自他ともに認める臆病者(チキン)だからだ。

それでいて、彼女の先輩にあたる男達が束になってかかっても勝てなかった相手に

勝てるとも思ってはいない。

先輩達は無事に生き延びられたけれど

彼女も生き延びられるとは、限らない。

逃げても戦っても、先に待つのは地獄。

暗殺者でありながら人一倍臆病な彼女は

自分の運命に再びため息を吐く。

と、その瞬間。


「おい嬢ちゃん。下着見えてんぞ」


下方から、あまりにも冷静に声をかけられた。

咄嗟に言葉の意味を理解出来なくて

声をかけたと思われる男の顔を見つめる。

無感動に彼女を見上げていた男と目が合って、数十秒。

リンは、今の状況を降るように理解した。


「ふにゃあああああああああ!!!?」



ばっとしゃがみ込んで、スカートを押さえる。

足首が妙なかんじに動いた気がするが

彼女にとってそんなのは

どうだって良かった。

おそらく、逃げるかどうか考えながら歩い

ために

少し広い通りへ出たことや

下に男がいることに、気づかなかったのだろうが

それすらも、考える余裕はない。

見られた、見られた。

その言葉だけが、脳内に駆け巡る。

顔を真っ赤にしてうずくまる彼女に

呆れたような表情で、男は言った。


「あー……安心しろ。

嬢ちゃんのパンツなんか興味ねぇから」


それは、彼なりの慰めだったのかもしれない。

だが、羞恥に震える少女には

見下した言葉にしか聞こえていなかった。

彼女はゆらりと立ち上がり

立ち去ろうとする男に向かって飛びかかる。


「デリカシーって言葉を学べえええええ!」

「、は!?ちょ、待っ、」


暗殺者な少女の不意打ちは、そう簡単に避けられるものではない。

完全油断しきっていた男の側頭部に

全力の飛び蹴りが叩き込まれた。


ごきゃ。


この、紺の髪の男が

自分の殺すべき標的であることを

少女は、まだ、知らない。



「おいコラ、暴力女……!

いきなりなにしやがる!」

「あんたが失礼なことするからだよ!

ばーかばーか!変態!」

「ガキかお前は!そして誰が変態だ!」


蹴られたところを押さえ、文句を言う男に

彼女は怯まずに言い返す。

それは何ともシュールな光景で

通りすがりの通行人からの視線が集まるが

彼らは気にしていないらしい。


「なんですか、興味ねぇからって!

興味ないなら見ないで下さいよ!」

「しょうがねぇだろ見えたんだから!

大体、あんなとこ歩いてる方が悪いだろうが!」


ぎゃあぎゃあと道端で問答を繰り返し

彼らが落ち着いたのは、それから三十分が過ぎた頃だった。


「っまぁ、この辺で、許してあげますよ……」

「こっちのセリフだ、暴力女っ……!」


空はすでに朱く染まり

夕暮れを告げる鐘が、遠くの方で鳴っている。

と、先ほどまで肩で息をしていた男が

不意に立ち上がった。


「ああ、ったく……今日中に探し出すつもりだったのに、もう夕方じゃねぇか」

「探し出す?」


リンが聞き返すと、男は大して気にした様子もなく答える。

目の前にいる少女が、自分の探しているものへの手がかりだなんて、露ほども思ってはいないのだから。


「最恐最大の暗殺ギルドの本拠地。下っ端はよく見かけるんだが、誰も吐かないから困ってんだよ。ま、嬢ちゃんみたいな一般人には関係ねぇ話だ」

「……ん?」


だが反して、彼女は耳を疑った。

思い出すのは、今朝

リーダーのグラムが言った言葉。


『最恐最大の暗殺ギルドBlackHero’sが、たった一人の男に負けただと……!』


『最恐最大の暗殺ギルド』と名乗っている組織は、この街でたった一つしかない。

そう、まさしくーーーー


「BlackHero’s……」

「あん?なんだ、知ってんのか?」


知ってるも何も、私の所属している組織です。

とは、とても言えなかった。

それだけではない。

グラムの言葉と男の言葉をつなぎ合わせ、彼女は、結論(こたえ)にたどり着く。

『自分が蹴り飛ばしたこの男が、自分の標的である』という結論に。


少女は顔を引きつらせ、心の中で悲痛な叫びを上げた。


ーー嘘だああああああああ!!




「あんたが、BlackHero’sの暗殺者……?」

「じ、実はそうなんです……」


ここは、街で唯一の喫茶店『オリミリオ』。

あの後リンは

逃げることも戦うことも選べなかったため、やむをえず男に事情を説明すると決意し

ここへ連れ込んだのだ。

そして、大体の事情を聞いた男の反応はーーーー


「ふーん……で?」

「はい?いや、『で?』って言われても」


意外と薄かった。


「ん、じゃあ案内してくれ。アジトまで」

「潰されるのわかってて案内するわけないでしょうが!」


リンが慌てて言うと、男は「そりゃそうか」と納得したように頷き

満足げな笑みを浮かべている。

その表情は、どことなく嬉しそうにも見えて。


「『組織愛』か。

ま、悪くはないな。見直したぞ暴力女」


初めてみた彼の笑顔に、少しだけ動揺している自分を感じた彼女は

誤魔化すように目を逸らした。


「……その『暴力女』っていうのやめません?人聞き悪いんですけど」

「だってお前の名前知らねーし。なんて呼べってんだよ」

「……リン。リン・アスティアです。

貴方は?」

「俺は『ユウ』だ。

別に覚えなくていいぞ」


男はテーブルにコーヒー代を置いて

静かに立ち上がる。

そっけない態度。

そっけない返事。


「嬢ちゃん、あんたのとこのリーダーに伝えといてくれ。


今夜、潰しにいくから待ってろってな」

「はぁ!?ちょっ、」


ユウはそう言い残すと、振り返ることなく姿を消した。

そして


「え、えぇ……?そんなこと言ったら、私殺されるんじゃあ……」


苦悩に頭を抱える少女だけが、店に残されたのだった。



夜。


「リン、アホかお前は!何さらっと言い逃げされてんだよ!」

「す、すいません!」


BlackHero’sのアジトは、かつてない緊張感に包まれている。

実力者数十人を返り討ちにし

ギルド最強の暗殺者すら相手にならなかった男が

今夜、攻めてくるというのだから。


「正門以外の入り口は封鎖したな!?

奴が入って来れるのは正門(そこ)だけだ、一歩たりとも踏み入れさせんな!」


グラムの秘書が、的確な指示を飛ばす。

彼の顔にも、またグラムの顔にも

明らかな焦りが伺えた。


「……どうするよ、俺たちで勝てんのか?」

「さぁな。でも()るっきゃねぇだろ」


自信が無いのか、不安げな仲間達。

リンは本日何度目かのため息を吐いて

殺気に満ちた正門前を見つめた。

そして、彼女だけが気づく。


ーーあれ、正門だけを開放?これじゃ、私たちも閉じ込められてるのと同じ……


『最恐最大』の優越が生んだ、致命的なミスに。

リンがその事実(ミス)をグラムに伝えようと

振り返った瞬間ーーーー


ばごおおおおおおん!


アスファルトの壁が、貫かれた。

無残にも崩れ落ちる瓦礫の向こう側で

凛とした声が響く。


「よぉ、BlackHero(くろいえいゆう)’s殿。

正義(あい)の押し売りに来たぜ」


暗殺者達全員の殺気が集まった先。

そこには

にい、口角を上げたユウが

臆することなく、堂々と立っていた。


「全身全霊の『殺し愛』を、見せてみろよ」




「ば、化け物だ……」


ユウがBlackHero’sアジトを襲撃して数十分後

アジト内では、百人以上居た暗殺者(へいたい)の、そのほとんどが床に伏し

立っている者も、少なからず傷を負っていた。

気絶している仲間達の真ん中で、今もなお

武器を振るい続ける襲撃者ーーーーユウを、除いて。

冷静に的確な指示を飛ばしていた秘書も

今ではユウの足元で夢の中。


「おいおい、愛が足りねぇよお前ら」


ユウが手にしているのは、月明かりを反射して煌めく一振りの日本刀。

それの一撃は幾度となく空を切って

あらゆる方向から放たれる銃弾を弾き

時には短刀(ナイフ)や鈍器すらも

一閃の元にねじ伏せる。

だが、その鋭利な刃が

一度として人体に触れることはない。

暗殺者達を直接攻撃しているのは、刀の(みね)(つか)だけだ。

不服そうに、リンは呟く。


「峰打ち、ですか」


キィンと甲高い音をたて

ユウは、切りかかってきた男のナイフを刀で受け止めた。

その瞬間を狙って、リンは数本の短刀を

ユウに向けて放つ。

迫り来る短刀の群。

ユウはちらりと短刀を見て

軽く舌打ちすると

素早く刀を返してナイフを弾き

一振りで短刀をなぎ払う。

そして、ナイフでの二撃目が振り下ろされる前に

方向転換し、日本刀の柄で男の腹を強く打って昏倒させ

力を失った男の体を、遠くで狙撃のタイミングを見計らっていた女に向かって投げ捨てた。

男の下敷きとなった女が気絶したのを確認してから、リンに向き直る。

この間、わずか数十秒。


「なんだ、暴力おん……じゃなくて、アスティア。居たのかあんた」

「普通居るでしょうよ……。あなたこそ、なんでBlackHero(うち)’sを潰そうなんて思ったんですか?誰一人殺す気なんてないくせに」


その辺に転がっている、いずれも『気を失っているだけ』の仲間達を見下ろして

リンは言った。

二人の間に訪れた、僅かな静寂。

ユウはそんな時間を楽しむように目を伏せた後

刀の峰の方を肩に預け、まっすぐにリンを見据えて答える。


「ーー愛がねぇんだよ」

「……はぁ?」

「だから、お前らには愛が足りないって言ってんだ」


リンはしばらく唖然としていたが

すぐにイタい人を見るような表情に変わった。

ユウの顔に苛立ちが浮かぶ。


「おいテメェ……なんか失礼なこと考えてるだろ」

「べ、別に『頭大丈夫か』なんて考えてないですよ?ちょっとイタいなって思っただけで、はい」

「考えてんじゃねぇか!」


目を逸らすリンと、怒りに震えるユウ。

気を抜くと、ここが立派な戦闘現場であることを忘れてしまいそうなやり取りだ。


「あのなぁ、動物を見てみろよ。あいつらの求愛行動なんて凄いだろ。相手が引くぐらい愛情表現してんだぞ、本末転倒じゃねぇか」

「何が言いたいのかよくわからないんですけど」

「……まぁ要するに

この世で一番大事なモノはなんだって話だよ」

「飛躍し過ぎじゃないですか!?」


反射的にリンがツッコミをいれると

ユウは笑みを見せて語り出した。

いつしか誰も口にしなくなった、社会論を。


「この世界で、一番大事なのは愛だろうが。

名誉でも金でもない。

誰か一人でも、自分を肯定してくれる『愛ある人間』がいれば


ーー人間なんて生きてけんだよ」


リンは思う。

今時そんな夢物語を言う奴はいない。

誰だって愛が金で買えることは知っていると。

ただ同時に、そんな夢物語を

迷いなく言いきったユウが、自分より遥かに綺麗な存在に見えて

少しだけ、羨ましいとも。

無意識の内に、左手の銃に力を込めると

ユウはまた笑った。

釣られてリンも、笑う。


「来いよ、リン・アスティア。俺の持論に納得してくれたのはお前が初めてだ。だから敬意を評して、全力で相手してやる。


ーー本気で殺しにこい。楽しもうぜ?リン・アスティア」


刹那

リンは力強く地を蹴って、ユウへと襲いかかる。

そこに、彼女が常々感じていた恐怖は存在しなかった。

何故なら、ユウが

自分を殺すことはないと、知っていたから。



が、ぎいいいんっ!


鈍い音ともに、拳銃と刀がぶつかり合う。

真っ向からぶつかっては、圧倒的に自分が不利。

そう悟ったリンは右側のホルスターからも拳銃を抜き

銃口を向けるだけで、特に狙いもつけずに引き金を引いた。


「、っと」


ユウは力任せに拳銃を弾き返して

銃弾が放たれる寸前に後方へと跳ぶ。

消音器(サイレンサー)特有の薄い破裂音が

三発分部屋に響いた。


「グロック18C……なかなか渋い趣味してんなぁ、嬢ちゃん」


数十分前から続く激しい攻防に息を切らしているリンと反対に

まだまだ余裕があるのか、ユウはリンの拳銃を眺めていた。

グロック18C。

リンの10歳の誕生日に、彼女の父親からのプレゼントされた物だ。

彼女はそれを見たときの衝撃を、未だに忘れていない。


「私の趣味じゃなくて、貰い物です。……それに、日本刀よりは渋くないでしょうよ」

「奇遇だな、俺のも貰い物なんだよ」


話しているときも、攻防が弱まることはなく。

何度も武器と武器がぶつかり合って

小気味いい金属音を奏でた。

だが、対等に見えた二人の決着は

あまりにもあっさりとーーーー


「悪いな、リン・アスティア。もう時間はなさそうだ。……だから、」

「、っ!」


自身に向けられた拳銃を、刀の柄で叩き落とし

動揺したリンが咄嗟に向けたもう片方の拳銃には

側面から刃を突き刺した。

そのまま刀を振って拳銃を振り落とすと

完全に無防備となったリンの襟首を

まるで猫でも持つかのように持ち上げる。


「……はい?」


素っ頓狂な声を上げたリンにかまわず

起き上がろうとしていたグラムの秘書に向かって

思いっきり投げつけた。


「えええええええええ!!??」


標的になったグラムの秘書と目が合って。

勢いには逆らえず。

衝撃、そして

暗転。

リンも、グラムの秘書も

ほぼ同時に気を失った。

これにて、二人の戦いは決着。

あとは


「さて、当初の目的を果たすとするか」


くるりとユウが振り返ると

もはや闘志を失ったグラムが、震える手で銃を握りしめていた。


「グラム・ビジット。

もう、俺が誰だかわかってるよな?」

「っあぁ、思い出したよ。

昔、俺や他のギルドのリーダー達が潰した研究所にいたガラクタ……Aー23号機、だったか?」


恐怖を隠すように、絞り出された声。

ユウはグラムに近寄ってしゃがみ

わざとらしく視線を合わせた。

今までとは真逆の、張り裂けそうな雰囲気を纏っているユウに

グラムの表情が強張る。

幼い子供にも似た、好奇心を写していたユウの笑顔は

怒りと憎悪を覆い隠す、狂気の笑みへと変わっていた。


「あぁ、そうだよ。Aー23号機、『ユウ』。お前らが殺した科学者が、作り出した人造人間(アンドロイド)だ」

「はっ、ガラクタが……!今更、主の復讐にでも来たのか?」


あぁ。

そう言うが早いか、ユウはグラムの首を掴んで近くの壁に叩きつける。

咳き込み、怯えた様子で自分を見つめるグラムに

ユウは冷たく言い放った。


「俺は、人間の『愛』を軸に作られた。

だから、ここにいるお前以外の人間は『博愛』に則って殺さなかったが……


お前は、『主従愛』に従って復讐(ころ)させてもらう」

「ひっ……!」


大太刀の鋒が、グラムの左胸に当てられる。

うわ言のように、グラムは命乞いを繰り返した。

ユウは、嗤う。

嗤って、嗤って、嗤ってーーーー


「死ね」


ざん。




翌日、裏路地にて。


リン・アスティアは、塀の上を歩いていた。

心なしか、昨日よりも足取りが軽い。

今日の彼女には、背負わなければならない重荷(プレッシャー)がないからだろう。

ため息だって、零さなかった。


ーーまさか、リーダーだけ殺しにきたなんて、無茶苦茶だなぁ。


思い浮かぶのは、昨日出会ったばかりの男。

見た目は割といいのに、口が悪くて。

『この世で一番大切なのは愛だ』なんて言い切って。


「よく考えたら、結構イタい人だったのか……」

「ふざけんな」


誰に言うでもなく呟いて、一歩前へ踏み出した瞬間

凛とした声が、下方から響く。

デジャヴュを感じ、ゆっくりと視線を下げると


「学習しないな、暴力女。

それともあれか、露出狂?」


呆れ顔で、ユウがリンを見上げていた。


「……!」


無事だったんですか、だとか

なんでここに、だとか

口に出そうとして、止める。

否、止めざるを得なかった。

ここは昨日と同じ場所で、同じ立ち位置なのだから

『露出』『学習しない』

……つまり、またしても


「うにゃああああああああああ!!」


だが、今日の彼女は昨日とは違う。

しゃがみ込むのではなく

近くにあった植木鉢を手にして


「は、?ちょっ、待て待て!」


ユウに向かって振り上げた。


「死ねええええええ!!」

「本当に死ぬだろうがああ!」


必死に植木鉢を受け止めたユウと

全力で振り下ろそうとするリン。

彼らの均衡状態は、リンが諦めるまで続いた。



「流石暗殺者だな、道端で人を撲殺しようとするなんざ」

「もう暗殺者じゃありませんよ、どっかの誰かさんがリーダー殺したんで。BlackHero’sは解散です」


塀に凭れてユウが嫌味を言えば

塀の上に座ったリンも対抗して嫌味を零す。

どうやら二人の関係は、『喧嘩仲間』に落ち着いたらしい。


「解散か。

なら俺は、悠々と次の国に行けるわけだ」

「次、ですか。どこ行くんです?」


リンが尋ねると、ユウは背伸びをしながら楽しそうに答えた。


「マルコ・ポーロが『黄金の国』と称したアジアの国。『日本』だ」

「……なんか、面白そうな国ですね」

「だろ?昔から一回行って見たかったんだよ」

「そんな理由!?」

「理由なんて大体そんなもんだろ」


ツッコミを入れながらも、リンは

自分の心臓の高鳴りを、確かに感じている。

『黄金の国』

元暗殺者といえど、根はまだまだ子供。

好奇心には勝てなかった。

明らかに興味心身なリンに

ユウは少し考え込むような仕草を見せ。


「……あんたも行くか?」


どうせ断られるだろうと思っていたのか

軽い調子で誘う。

彼女は、待っていましたとばかりに即答した。


「はい!」

「え。

あ、あぁ……じゃあ準備して来いよ」

「わかりました。ちゃんと待ってて下さいね?」


意外な返事に面喰らったユウを置いて

リンは急いで自宅へ帰っていく。

ユウの予想以上に、日本に興味を持ったらしかった。

リンに上機嫌な後ろ姿を見て、ユウはため息混じりに言う。


「単純な奴、」


その口元は、弧を描いていた。




この世界は、愛で溢れている。

家族愛、友愛、恋愛、組織愛ーーーー

だが、それも昔の話。

諦めることを覚えた人々は

人を傷つけ、自分を傷つけて

いつしか人々は、愛を探すのをやめてしまった。

……そんな、冷たい世界で。


「ユウさん!」


一人の男と、一人の少女が動き出す。


これは、その男ーー愛の押し売り業者と

元暗殺者な少女の

めちゃくちゃであたたかな物語(笑)。

















長かった……!

最長記録更新です!

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[良い点] キャラクターがしっかり描けていて、そこが面白い。 [気になる点] ・地の分を切りすぎて逆にテンポが悪い。 ・出てくるワードがゴチャゴチャしていて世界観がよく掴めなかった。 [一言] 殺し合…
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