プロローグ 『ニュウガク』
学校前にある道路を満開の桜が彩る四月。
僕はその桜の木の影の下を歩いていた。
見慣れない道。顔も名前も知らない生徒。
そして、新しい学園生活。
そのすべてが初々しく、わくわくするようなでもすこし不安が入り混じった感情を僕は抱いていた。
「統、瑠、くんーーー! だーれーだ?」
突然誰かに手で視界を遮られた。
だけど・・・・・・・
「おい大地。おまえは馬鹿か? 声だしたらモロバレでしょうが」
「にししし。正解! 久しぶりだな統瑠」
俺の隣で無邪気に笑うこいつは、山村大地。
小学生のときからの腐れ縁で友達。
簡単にいえば相棒ってところかな。
「いやー。新しい学園生活。青春だねー!」
「お前は朝っぱらからテンションが高いなぁ・・・・」
僕が心底呆れたようにため息をつくと、大地は。
「だって---俺たち今日から高校生なんだぜ? 素敵な出会いが待ってるんだ! テンション下げてなんかいられるかい!」
ったく。
僕はそう言って微笑んだ。
こいつは女の子に目がなくてどうしようもないやつだけど、根はとてもいいやつだ。
と、そんなことを考えていると大地が急に立ち止まった。
「? おい大地」
すると大地は道の先。学園の校門を指差していた。
僕はその指先にあるものを目で追う。
そこには。
「あれって・・・・・筑紫、先輩か?」
「ああ、本当に綺麗な人だよな」
そう、そこにいたのはこの学園で知らぬ者はいないだろう。
正神学園のアイドルこと筑紫瑞綺。
端整な顔立ちに、スレンダーで出るとこは出てるナイスバディ。
僕より二つ年上の三年生である。
「ああ綺麗だな」
僕は友達と仲良く笑いながら校門に入っていく筑紫先輩をボーッと見ていた。ずっと前から気になってはいた人。中学の時も同じで、暇さえあればいつも彼女を見ていた。僕がこの学園に来た理由の半分も彼女だと思う。
でもあまりにも彼女の存在は遠すぎた。
彼女は学園のアイドル。
それにたいして僕は、成績もたいして良くないし運動もしていない目立たない普通の生徒。彼女からすれば僕なんてどこにでもいる高校生としか思ってない、いや、僕の存在なんて知らないだろう。
どうしようもない恋。
僕の初恋はそんなふうに終わった。
「いこうぜ。大地」
「え? あ、ああ」
きっとこれからも変わらないのだろう。
僕も、彼女も。
多分、ずっとこういう日常が続くのだろう。
今までも、これからも。