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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
商業都市ジュノリス編

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【ネイキッドラオン】戦闘開始【新生リエラ魔王軍】

 転送陣に触れた瞬間、ジュノリス中央広場の熱気が、ゆっくりと遠ざかった。

 さっきまで耳を打っていた歓声も、臣民たちの「リエラ様ー!」という叫びも、ネイキッドラオンへ向けられた野次も、全部が水の底へ沈むみたいにぼやけていき、足元から立ち上がった白い光が視界を塗り潰す。

 身体がふわりと浮いた。まるで一瞬だけ重力を失ったかのような奇妙な感覚だ。

 いや、浮いたような錯覚がしただけかもしれない。転送魔法特有の、三半規管を揺さぶるような浮遊感だった。

 けれど、次の瞬間には、俺の足裏は石畳ではなく、柔らかい土と湿った落ち葉を踏んでいた。


 鼻先に、むせ返るような森の匂いが触れる。生命力と腐敗が混ざったような濃密な香りだ。

 濡れた土、苔、木の皮、積もった枯れ葉、遠くで流れる水の気配。それらが一気に五感へ押し寄せてくる。

 ジュノリスの広場にあった焼き串や金属装備の匂いとはまるで違う、冷たく湿った空気が肺に入り、俺は思わず一度だけ深く息を吸った。


「……森ね。どうやら自然のフィールドを引き当てたみたい」


 光が収まり、ゆっくりと視界が戻る。周囲の景色がはっきりと形を結んだ。

 そこは、背の高い古樹が密集した森だった。見上げるほどの巨木が、日の光を遮るように林立している。

 幹は太く、根は地面の上を蛇みたいに這い、枝葉は空を覆うほど広がっている。木漏れ日はまだらに落ちているが、少し奥を見るだけで影が濃く、視界はすぐに緑と黒の層に遮られた。

 遠くで鳥のような声がした。静寂を破るような、甲高く不気味な鳴き声だ。

 しかし、それが本当に鳥なのか、フィールド内に配置された雑魚敵なのか、それとも環境音なのかはわからない。

 視界端にシステムメッセージが浮かぶ。無機質なウィンドウが次々と展開された。

《CvCフィールド:古樹の迷い森》

《準備時間:30分》

《準備時間終了後、戦闘開始》

《両クラン拠点コア生成済み》

《勝利条件:敵クラン全滅、または敵拠点コア破壊》


 なるほど。状況は完全に理解できた。

 戦場は森か。これはかなり厄介な地形になりそうだ。

 遭遇戦になりやすく、視界が通りにくく、罠を張りやすい。

 奇襲をかけるには絶好のロケーションと言える。

 相手には弓使いと罠師がいる。この木々や茂みは、彼らにとって格好の隠れ蓑になるだろう。

 

 つまり、ランダム選出とはいえ、ネイキッドラオン側にもかなり動きやすいフィールドを引かれたわけだ。

 俺は周囲を確認しながら、背後に浮かぶ黒紫色の結晶を見た。

 これが俺たちの拠点コアだ。不気味なほどの存在感を放ちながら宙に浮いている。

 高さは俺の胸ほどで、周囲の地面には薄い魔法陣のような紋様が刻まれている。

 これを壊されても負けだ。絶対に死守しなければならない。

 逆に向こうのコアを壊せば勝ちとなる。条件はお互い様だ。

 ただし、このフィールドのどこに相手コアがあるかはわからない。


 戦闘開始までの三十分で、こちらは最低限の防衛線と索敵方針を決めなければならなかった。


「リエラさん、まず確認します」


 ミーナはすぐに仕事モードの声になった。その表情からは一切の甘えが消えている。

 彼女は赤い宝玉と高密度の魔法陣が入った指揮棒のような杖を持ったまま、周囲の木々の密度、足元の根、視界の抜ける方向を素早く確認している。

 炎属性の魔法使いにとって、森は相性がいいようで悪い。

 燃え移る危険性が常につきまとうからだ。


 もちろん火力自体は通る。木々を燃やし尽くすことだって可能だ。

 けれど、下手に撃てば視界を潰し、味方の移動も妨げる。

 ミーナはそれをわかっているから、杖先に火を灯すことはせず、魔力だけを薄く巡らせていた。

「基本方針は予定通りです。リエラさんが目立って、敵前線を引きつけます」

「はいはい。私は看板兼、壁兼、囮ってことね」

「はい。ついでに、相手の判断を乱す役です」

「なんだか、すごく便利に使われてる気がするわ。気のせいかしら」

「実際、非常に便利なので。大いに活用させていただきます」

「もう……」


 女子大生にいい様に扱われる魔王様ここに降臨である。

 俺とミーナのやり取りを見てネネが軽く笑った。いつも通りの飄々とした態度だ。


「仲良いねぇ、あたしも混ぜて……って言いたいけど……」


 彼女はもう戦闘前の空気に切り替わっていて、獣人アバターの耳をぴくぴく動かしながら、右手で短剣の柄を確認している。


「森なら、あたしが先に動くねぇ。罠師と弓は放置すると面倒すぎるから、開戦直後にあたしが見る」

「相手が複数で待ち構えているかもしれないわよ」

「完全に一人ってわけじゃないよぉ。心強い味方がいるからね」


 ネネはそう言って、俺の顔をじっと見る。何を求めているかはすぐに察しがついた。

 俺は無言で頷き、スキルウィンドウを開いた。必要な手駒を呼び出す。


「《ゴブリンコール》」


 足元に濁った緑色の召喚陣が広がり、落ち葉を押し分けるようにゴブリンたちが現れる。

 粗末な盾、短剣、石、棍棒。それぞれが手近な武器を握りしめている。

 戦争の主戦力にするには心許ないが、索敵、警戒、足止め、嫌がらせなら十分仕事がある。

 そして、その中から一体、やたらといやらしい目つきをした小柄なゴブリンが、へへっと笑いながら出てきた。


「お呼びでございやすか、リエラ様ァ」

「トビー、今日はネネにつきなさい。罠師と弓使いの位置を探って、邪魔をして。無理に倒そうとしなくていい。ネネの判断を優先」

「へへっ、承知しやした。嫌がらせとお邪魔虫なら、このトビートミーにお任せくだせぇ」

「トビーちゃん、よろしくねぇ。踏ませる罠より、踏ませない罠の方が嫌な時もあるからさぁ」

「おお、話がわかる方でやすねぇ」

「この二人、初手から息が合うの嫌なんだけど」


 俺が呆れたように呟くと、ミーナも静かに頷いた。彼女も同じことを思っていたらしい。


「敵に回したくない組み合わせですね」


 まったくだ。この二人が組んで嫌がらせをしてきたら、私でも泣きたくなる。

 続けて、俺はさらに二つの召喚陣を開く。本命の護衛たちだ。


「出番よ、エルーサ、ベルナデッタ。私の力になりなさい」

 淡い聖光と、真紅の戦気が森の中に広がる。

 泥濘の聖女エルーサは、白い光をまとって現れ、俺を見るなり恭しく頭を下げた。


「リエラ様。お呼びいただき、光栄です」

「エルーサは私の後ろ。回復と状態異常対策、足元の異常を見て。森だから、毒や拘束が来るかもしれない」

「はい。リエラ様の御足を穢させはいたしません」

「……頼りにしてるわ」


 エルーサは小さく微笑んだ。その静かな笑みが不思議と安心感をもたらす。

 その隣で、真紅の騎士ベルナデッタが大剣を携えて現れる。

 彼女の纏う鎧の赤が、薄暗い森の緑の中で鋭く映えた。圧倒的な存在感だ。


「リエラ様。どうか私に御命令を」

「ベルナデッタはミーナの護衛。相手の遊撃や前衛がミーナを狙ってきたら止めて」

「御意。ミーナ殿の前に立ちます」

「お願いします、ベルナデッタさん」


 ミーナは丁寧に頭を下げたあと、すぐに地面に簡易マップを表示した。

 準備時間は三十分しかない。悠長にしている暇はなかった。

 この短い時間の中で、やるべきことは山のようにある。

 まずは、拠点コア周辺の防衛ラインの構築だ。

 ゴブリン一般兵を散らし、直接戦闘ではなく、侵入感知と時間稼ぎを優先させる。

 次に、こちらが攻め込むための進行ルートを確定させる。

 俺たちは森の中央を、隠れることなく堂々と進む予定だ。

 コソコソと隠密行動をするつもりはない。それでは魔王軍らしくない。

 むしろ俺が派手に目立ち、ラオンを引き寄せる。


 あの裸ライオンは、広場で完全にこちらへ傾いた空気を、戦場で取り返したがっているはずだ。

 なら、俺が目立つ位置に姿を現せば、向こうは必ず食いついてくる。

 ラオンが自ら突っ込んでくるなら、そこが今回の主戦場となる。

 そして、ネネはその主戦場から一時離脱し、弓使いと罠師を抑えに行く。

 ミーナは俺の後方に陣取り、強力な火力支援を担当する。

 ベルナデッタはその後衛を守りつつ、必要に応じて前線を押し返す役目だ。

 エルーサは俺の背後から、回復と状態異常の解除に専念する。

 大筋はそれで決まった。これなら各々の強みを活かせるはずだ。


「今回は敵の完全な倒し切り、つまり殲滅を最優先とします」


 俺は一瞬だけ、前に出しかけた言葉を飲み込んだ。

 捕食のスキル。最も強力な切り札だ。

 その選択肢は、もちろん俺のスキルとして存在している。

 けれど、このクラン戦争において、プレイヤー相手に捕食を主軸にするのは危険すぎる。

 何が起きるかわからないし、下手に欲を出せば戦術が崩れる。

 身動き取れなくなる瞬間が出てしまうかもしれない。


 狙うはラオン、あとは出来ればもうひとりだけ捕食できればそれでいい。


 それに、今の俺たちは、勝ち筋をはっきりさせた方がいい。

 各個撃破からの徹底的な殲滅。これが相手に最も絶望を与える確実な戦術だ。

 まずは厄介な斥候や弓使いを優先的に処理する。

 後衛と遊撃を削り、正面の圧を減らし、最後にラオンを落とす。

 それが今回の基本的な戦い方だ。ブレてはいけない。


「わかってるわ。まずは確実に勝つことを優先ね」

「はい。その方針でいきましょう」


 ミーナが深く頷く。彼女の提案に異論はない。

 ネネも軽く肩を回しながら、楽しそうに笑う。


「リエラちゃんが目立ってくれれば、相手もそっち見るからねぇ。その間に、あたしが横から削るよ」

「任せたわ。トビー、ネネの邪魔はしないように」

「へへっ、邪魔する相手は選びやす」

「本当にちゃんと選んでよね?」


 トビーの調子のいい返事が、信用できるような、全くできないような微妙なところだ。

 準備時間の残りは、細かい確認に使った。

 ミーナは魔法の火力を通すラインを厳密に決めた。誤射を防ぐための措置だ。

 森の中で大きく燃やしすぎないよう、地面を焼く炎ではなく、圧縮した火球や短距離の火線を中心にする。

 ネネは周囲の高い枝、罠が置かれそうな狭い根道、弓が射線を通しやすい斜面を記憶した。

 ベルナデッタはミーナの立ち位置から踏み込み三歩分の範囲を確認し、そこへ敵が入った場合の奇襲ルートを取る。

 エルーサは俺の背後で祈りの準備を整え、薄い光で足元の異常を探る。


 俺はインベントリから骨素材を取り出し、魔力を通すと、骨盾と骨剣を出した。

 館で拾ったものや、街で売られていた骨素材を大量に買い集めておいたのだ。

 戦場が万が一闘技場だったり、骨が落ちていないエリアだったりした場合を考慮し、あらかじめ準備をしていた。この魔法触媒さえあれば、どこでもソードやシールドの死霊術が使えるというわけだ。

 早速、森の中での操作感を確認した。

 闇の司祭戦で得た死霊術・初級。

 空中に浮かぶボーンシールドとボーンソード。見た目はかなり禍々しい。

 俺はクラン戦に向けて数日間、他のダンジョンへ向かいパラメーターを上げるよりこれの習熟度を優先した。

 そもそも普段の配信とか仕事の合間に出来ることなんて限られているから仕方がないといえばそうだったが、対人に関してはこのスキルにかなりの可能性を感じていた。


 単体での威力は決して高くない。直接的なダメージソースにはなり得ないだろう。

 けれど、骨盾は一瞬の防御に使え、骨剣は相手の視界や足元へノイズを混ぜられる。

 ラオンのような前衛相手には決定打にならないだろう。


 でも、無視できない小さな邪魔としてなら十分使える。

 俺の最大の役割は、派手に目立って相手の攻撃を耐え抜くことだ。

 そして、様々な手札を駆使して、相手に「面倒くさい」と精神的な疲労を与え続けることだ。


 ――準備時間、残り一分。無機質なシステム通知が視界の中央に表示される。

 システム通知が赤く点滅し、開戦が迫っていることを告げる。

 森の空気が、急にさらに冷たく感じられた。緊張感が肌を刺してくる。

 視界端のコメント欄は凄まじい速度で流れている。


『森フィールドか。これは波乱の予感がするぞ』

『ラオン側に弓と罠師いるから怖いな。地の利は向こうにあるかも』

『魔王軍、召喚多いな。完全に多対多の戦争じゃん』

『ベルナデッタ嬢きた! 相変わらずかっこよすぎる!』

『ネネさん斥候戦か、目が離せないな』

『リエラ様、骨浮かせてる?』

『初陣がガチすぎる』


 ジュノリスの広場では、今も中継映像を見て観客が騒いでいるのだろう。

 でも、ここにはその外野の声は一切届かない。

 耳に届くのは、風による葉擦れの音と、張り詰めた自分たちの呼吸音だけだ。

 俺はゆっくりと息を吐き、背筋を伸ばした。

 尻尾を低く揺らし、骨盾を一枚、自分の左前に浮かべる。

 ボーンソードは一本、死角となる右後方へと配置する。


 ミーナは左後ろのポジションにつく。

 ベルナデッタは彼女を守るようにその前に立つ。

 エルーサは俺のすぐ後ろに控える。

 ネネは右側の木陰に身を潜めた。

 トビーはもう半分以上、茂みの色と同化して気配を消している。


「リエラさん。準備はいいですか」


 ミーナが静かな、しかし力強い声で言った。


「絶対に勝ちましょう。私たちの手で」


 それはとても短い言葉だった。気負いを感じさせない。

 余計な装飾や修辞は一切ない。シンプルな一言だ。

 だからこそ、その言葉は真っ直ぐに胸の奥へとストンと落ちた。


「ええ。当然よ」


 俺は不敵に笑ってみせた。恐怖は微塵もない。

 ロールプレイの笑みを乗せ、森の奥へ向かって声を張る。

「この魔王軍の記念すべき初陣、華々しく勝って飾るわ」


《準備時間、終了》

《ネイキッドラオンVS新生リエラ魔王軍》

《戦闘開始》


 その瞬間、森全体の空気がビリビリと変わった。殺気が充満し始める。

 遠くの方で、地を蹴る重い足音が響いてくる。

 乾いた枝がバキリと折れる音がした。誰かが踏み抜いたのだろう。

 誰かが力強く地面を蹴って加速する音が伝わってくる。一直線に向かってきている。


 獣人アバターのネネの耳が、森の奥の微かな音を拾ってぴくりと動いた。


「じゃ、ちょっとひと仕事行ってくるねぇ。あとはよろしく」


 彼女は軽く手を振ると、右側の木々の影へ滑り込んだ。

 トビーも低く身を伏せ、素早い動きでその後を追っていく。

 ふたりの気配はすぐに薄くなり、森の葉音に紛れて消えた。

 ネネは、罠師と弓使いを相手にするため、一時離脱する。


 それは事前の打ち合わせ通りの作戦だ。何も心配することはない。

 頭では十分にわかっている。彼女の腕なら必ずやり遂げるはずだ。

 それでも、彼女の姿が見えなくなった瞬間、俺は本当に戦争が始まったのだと実感した。

 不意に、正面の森の木々が大きく揺れた。

 太い幹の暗い影の奥から、ラオンの野太い声が響き渡った。


「はっはぁー!! どこに隠れてやがる、リエラァ!」


 予想通り、やっぱり奴が来た。真っ直ぐにこちらへ向かってきている。

 小細工なしの真正面からだ。奴らしい単純な突破だ。

 広場で失った空気を、強引な力技で取り返すために突っ込んできたのだ。その焦りを利用させてもらう。

 俺は口元を吊り上げ、あえて一歩前へ出た。


「私はここよ、裸の獅子。探す手間が省けて良かったわね」


 誘惑テンプテーションを派手に展開する。


 桃色のハートエフェクトが、緑の森の中で不釣り合いに弾けた。

 とにかく目立つ。これ以上ないくらいにアピールしている。

 ものすごく目立つ。視界の悪い森の中でも一目瞭然の派手さだ。

 最初から隠れる気など一切ない。むしろ全員をこちらへ引きつけるつもりだ。

 俺は看板であり、壁であり、囮であり、魔王軍の王なのだから。


「このリエラ様は、ここにいるわ。狩れるものなら、狩ってみなさい」


 俺の言葉に応えるように、ミーナの杖先に静かで熱い炎が灯る。

 ベルナデッタが重い大剣を構え、その後ろでエルーサが神聖な祈りを紡ぎ始めた。

 骨盾が俺の前をゆっくりと回り、骨剣が木漏れ日の中で不気味に白く光った。


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