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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
商業都市ジュノリス編

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5日後に消えるかもしれない魔王軍、悪あがきレベリング

 当然のことだけれども、俺たちは5日間の準備時間をフルに使えるわけではなかった。

 

 5日間万全の準備をしてクラン戦争に備えましょう。システム口調で言うだけなら簡単だが、現実側の撮影もあるし、リエラちゃんねるの通常更新もある、まぁ話題提供としてはありがたい。

 あとは羽衛ミルキーとの石碑クエストコラボに向けた調整も止められない。

 つまり、俺たちはクラン戦争の準備と芸能活動とゲーム攻略と世界考察を、同時に回さなければならない。

 ただただ目まぐるしい。

 俺の想定していた魔王像とはまるで違う。

 

 魔王軍ってもっと玉座で足組んで、部下に「やっておきなさい」って言う仕事じゃなかったの?


 実際には、こう。


 撮影スタジオで水着になった夜に、ゲーム内で対人クランへの宣戦布告PVの台本チェック兼打ち合わせ、そのまま俺のレベリングのために高レベルダンジョンへ連行されている。


 魔王業、思っていたよりだいぶブラックである。


「でも本当に良かったのぉ? レベルアップに良さそうで、なるべく不人気なダンジョンがあればって……」

「不人気の理由が敵の数が多いだったら別に問題ないわ」

「まぁ、前衛にかかる負担はリエラちゃんからしたら大丈夫だろうけど」

「それに炎の魔法に弱い敵なのよね? なら完璧じゃない」

「そっか……」


 ネネは今から行くダンジョンについてはそれ以上は言わなかった。

 と言うのもミーナが別の話題に切り替えたからだら。

「まずは、イベントにするには導線が必要です」


 ミーナはダンジョンに向かって移動中の馬車でも、ゲーム内メニューを開きながら淡々と言った。


 馬車の車輪が路面の石を越えるたび、がたん、と足元が小さく揺れ、窓の外にはジュノリス郊外の乾いた草原が流れていく。

 その横でネネは、獣人アバターの耳をぴこぴこさせながら、台本のメモをいじっていた。


「宣戦布告PVは、リエラちゃんの魔王節全開でいこっかぁ『裸の獅子よ、震えて眠りなさい』みたいな」

「魔王軍存続の危機なのに煽っていいの?」

「大丈夫大丈夫、リエラちゃんは煽り倒してもいいと思うよぉ」

「はい、魔王軍存続の危機は私が臣民に向けて演説します。リエラさんはいつも以上に堂々としてください」

 ミーナが真顔でそう言った。

 その真顔が、演説で容赦なく、効率よく人民を焚き付けて相手を燃やす方法を考えている顔に見えて、俺はそっと視線を外した。

 まずは宣戦布告PVだ。これを公開して、大衆の目をこちらに向ける。

 ネイキッドラオンに対して、改めて強気にクラン戦争を受ける姿勢を見せる映像。


 ただの挑発ではなく、相手の提示した条件を明確に示し、新生リエラ魔王軍がそれを飲んだことを宣言し、視聴者へ「これは一大イベントである」と印象づける。


 その後、ネネによる対人戦レクチャー動画。

 

 対人初心者や臣民向けに、クラン戦争とは何か、デスペナMAXとは何か、金庫解放や装備解放がどれだけ重い条件なのかを、わかりやすく、面白く、そして少しだけ相手が悪者に見えるように解説する。


 もちろん、やりすぎはなしだ。

 現実で相手を攻撃するような方向には持っていかない。

 あくまでゲーム内イベントとして、視聴者が楽しめる形にする。

 ……という建前の裏で、ネネとミーナがどの程度まで火力調整する気なのか、俺はまだ少し不安だった。


 そして三つ目のタスク。

 これこそが最も頭の痛い問題だった。

 俺のレベリング。

 これが一番重要で、一番地味で、一番時間が足りない。


「ミーナはネネもいるし、今日でかなりあげられそうね」

「リエラさんは普通の経験値テーブルじゃないですもんね……」

「今はその普通が私には眩しいわ……」


 俺は馬車の座席に沈み込みながら、ステータス画面を開いた。


 思えば思うほど最初から普通の成長とは無縁のエタファンだった。

 数字は悪くない。

 いや、悪くないどころか、同レベル帯で見ればたぶん相当おかしい。


 捕食によるパラメーター補正、眷属召喚、戦場の聖女によるリジェネ、反応強化によるクールタイム短縮、武芸・初級、スライムボディ、捕食に誘惑。


 出来ることの幅、能力だけを並べれば、俺は自分でもだいぶ嫌な存在になっている。


 だが、レベル70という門番は、それらを一切考慮してくれない。必要経験値の数字は、相変わらず山脈みたいにそびえている。


「今回は、クランを上げての緊急事態として処理します」


 ミーナが言った。


「ネネさんに引率してもらって、高レベルダンジョンで可能な範囲のパワーレベリングをします」

「パワーレベリングって炎上しないか心配ね……」

「騒ぐ人はいるでしょうけど、それはモンスターの攻撃に耐えられない前提でネネさんに完全におんぶに抱っこした場合だと思います。少なくともリエラさんはタンクとして前衛を張れるので今回のダンジョンにしました。あとは上手くファン心理をコントロールします」


 ミーナは表情を変えずに続けた。


「なにせ、5日後に解散するかもしれないクランですから……」

「初陣で解散は悲しいわね……

 ネネがけらけら笑う。


「むしろさぁ、『5日後に消えるかもしれない魔王軍、悪あがきレベリング』ってタイトルつけたら伸びそうじゃない?」

「伸びそうなのが嫌ね。悪あがきって言葉が妙にリアルだわ」

「あはは、悲壮感とバカっぽさが同居してるし最高だね!」

 悲壮感とバカっぽさ。その二つが絶妙に混ざり合っている。たしかに、今の俺たちはその二つでできている気がする。


 道中結局悲壮感なんてなくて、いつも通り姦しくなった。

 俺たちは石碑クエストの導線確認を兼ねて、レベル100超え推奨のカタコンベダンジョン――『枢機卿の館』へ向かっていた。


 表向きは、お使いクエストで石碑を一つ触るため。

 裏の目的は、俺のレベリング。

 ついでに、もし何か喰える強敵がいたら捕食してステータスも盛る。


 今回もまた一石三鳥くらいな完璧な計画である。


 ……少なくとも、入口に着くまではそう思っていた。

 枢機卿の館は、古い丘の上に建っていた。


 遠目には、黒い尖塔を持つ廃教会のようにも見えたし、貴族の別邸が長い年月を経て朽ちたようにも見えた。


 灰色の石壁には蔦が絡み、割れたステンドグラスの隙間からは、青黒い闇が滲んでいる。


 風が吹くたびに、館のどこかで古い金具がきい、と鳴り、湿った土と古紙と蝋の溶けた匂いが、こちらまで流れてきた。

 門の前には、錆びた鉄柵が半ば折れたまま残っている。

 その内側の庭には、墓標のような石板が無数に並び、そのうちの一つが、今回の石碑クエストの目的地だった。


「まずは石碑に触って、クエストログを更新します」


 ミーナが周囲を警戒しながら言った。


「その後、内部の浅層で戦闘。無理そうなら即撤退。リエラさん、今回は捕食優先で。クラン戦争に向けてパラメーターの底上げがしたいです。たくさん焼くのでいっぱい食べて大丈夫ですからね」

「わかったわ……って私そんな食いしん坊キャラ?」

「蟹の時はすごかったです……」

「あれはミーナが美味しく料理してくれてたから…

…」

 そんな緊張感のかけらも無い会話をしながら、俺は特に気を張らずに石碑へ近づいた。

 石碑の表面には、読めそうで読めない文字が刻まれている。

 エタファンの古代文字なのか、それとも単に装飾なのか、黒く沈んだ線は光を吸うように静かで、触れる前から指先に冷たさを感じた。


 そっと手を置くと、石の冷気が掌から腕へ這い上がり、視界の端にクエストログが開く。

 ――石碑記録:第七祈祷区画、枢機卿の館。

 ――断章取得。

 ――「祈りは地下へ沈み、冠は骨の上に置かれた、讃えよ……彼の勇を」


 短い文章が表示された瞬間、俺は眉を寄せた。


「順当にイミフなのが出たわね。どういう意味なのかしら」

「これだけだとわからないですね……ここはまだ一般的に目立つ石碑なので、そんな検証は進まないと思いますが、配信のネタにはなると思います!」


 一般的な石碑……俺は少しだけ遠い目をした。

 実際にあの後、臣民たちは本当に石碑を探しはじめていた。


 ミルキーとのコラボ告知後、SNSには「#リエラ様石碑見つけました」「#魔王軍考察部」「#石碑に尻尾を捧げよ」みたいな、後半ちょっと何を言っているかわからないタグが増え、石碑クエストという不人気常設コンテンツが、じわじわ妙な熱を持ちはじめている。


 ありがたい。

 ありがたいけど、臣民の熱量が時々怖いよ……なんでこんな地味な探索をワイワイと出来るんだ……。


「まぁでも、謎でもなんでも喰らってやるわ……」


 そう言うと俺は館の扉を開いた。

 中から流れ出した空気は、冷たく湿っていた。


 扉の蝶番がぎぎぎ、と長く鳴り、暗い玄関ホールが口を開ける。


 床には割れた大理石が敷かれ、壁には色褪せた宗教画が掛かり、天井からは壊れたシャンデリアが斜めに垂れていた。

 その奥へ続く階段は地下へ向かっており、階段の下から、かすかな呻き声のような音が聞こえてくる。


 俺は尻尾をゆっくり揺らし、喉の奥で小さく息を飲んだ。

 事前情報として聞いていた敵の名前が、頭の中で順番に並ぶ。ゾンビやスケルトンといった定番の魔物たち。それに這い回る蟲や包帯マミーの姿も容易に想像できる。


 そして俺は、静かに悟った。


 前言は綺麗さっぱり撤回する。

 こんなの、絶対に無理だ。

 なんでも捕食……できないかも。


 いや、戦える。


 倒せるかもしれない。

 でも、食べたいか食べたくないかで言えば、明確に食べたくない。


 俺の捕食スキルは強い。

 強いが、精神的なハードルというものがある。


 いくら尻尾が開いて喰らうとはいえ、ゾンビを吸収する自分を想像した瞬間、俺の中の乙女心と元男性心と人間としての最低限の衛生観念が、三者同時に泣き出した。


「リエラさん?」


 ミーナが横から顔を覗き込む。


「何かありました? 顔色が悪いようですが」

「ねえ、ミーナ。ちょっと相談があるんだけど」

「なんでしょう?」

「今回、捕食なしでいかない?さすがにキツイわ」

「いつもならそうですねと言えるのですが、今回はリエラさんがより強くならないとクランが解散するかもなので……今回だけはだめです。甘やかせません……あとで、よしよししてあげますので」

「あはは、ミーナちゃんの飴と鞭だぁ」

「ちょっと!? もう少し悩む素振りくらい見せてよ!」

「捕食が一番効率的なので。背に腹は代えられません」

「でも、ゾンビよ? ゾンビを喰うのよ? それはちょっと、私の尻尾の尊厳が」

「よく焼きしますので……!」

「うう……焼けば……行けるのかしら……?」


 ネネが後ろで笑いをこらえている。


「リエラちゃん、魔王なのにアンデッド苦手なの可愛いねぇ。ギャップ萌えってやつ?」

「苦手じゃないわ。戦うのは平気よ。ただ、食べるのは別問題なの」

「好き嫌いはよくないよぉ。出されたものは残さず食べなきゃ」

「教育番組みたいなノリでゾンビをすすめないで。絶対にお腹壊すわよ」


 そんなやり取りをしているうちに、階段下の闇が動いた。

 ぬめるような足音が響く。それはゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 乾いた骨の擦れる音も聞こえる。なんとも不気味な響きだ。

 湿った布が床を引きずる音まで混ざっている。想像しただけで身の毛がよだつ。

 闇の中から最初に現れたのは、片腕の欠けたゾンビだった。

 腐敗というより、長い時間をかけて水分を失ったような灰色の肌をしており、目の奥には青白い光が揺れている。

 その後ろから、骨だけの兵士が剣を引きずって続き、さらに天井の隙間から、黒い甲殻を持つ大きな蟲が、かさかさと脚を鳴らして降りてきた。


 立てる音がひたすらに気持ち悪い。生理的な嫌悪感を煽ってくる。

 その見た目も最悪に気持ち悪い。できれば視界に入れたくない。

 漂ってくる匂いは、もっと気持ち悪い。鼻をつまみたくなるほどの悪臭だ。湿った地下室と古い布と土の匂いに、何か苦い薬草のような臭気が混ざっていて、鼻の奥に張りつく。


「おえ……」


 俺は思わず一歩下がった。


「ごめん、む……無理。絶対に近づきたくない」

「リエラさん、戦闘態勢です。気を引き締めて行きましょう!」

「無理寄りの戦闘態勢なら取れる。腰が引けてるけど許してね」

「それはそれでかわいいです! とにかく前線を支えて貰えれば、目に入る前に燃やします!」


 ミーナの杖先に炎が灯った。

 赤い光が玄関ホールを照らし、ゾンビの影が壁に揺れる。

 ネネはすでに横へ回り込み、獣人らしい軽い足取りで距離を取っていた。


「じゃ、浅層テストいこっかぁ。リエラちゃん、まずヘイトお願い」

「はいはい、やればいいんでしょ! 覚悟を決めるわ!」

 俺は腹をくくり、前へ出た。

 シスター服の裾が冷たい空気の中で揺れ、尻尾が背後で大きく弧を描く。

 吸い込む息は湿っていて、肺の奥が少し冷える。

 俺はゾンビたちを睨み、ロールプレイの声を作った。

「さあ、こちらを見なさい。朽ちた者たちよ。このリエラ様が、直々に相手をしてあげるわ」

 誘惑テンプテーション

 薄い桃色のハートエフェクトが、暗いホールに不釣り合いなくらい可愛らしく広がった。


 だが、相手はアンデッドである。

 こんなスキルが効くのか、これ。相手は心を持たないアンデッドだぞ。

 一瞬そう思ったが、ゾンビの青白い目がぎょろりとこちらへ向き、スケルトンが剣を持ち上げた。

 なんと、しっかりと効いた。

 敵のヘイトがこちらに集まるのを感じる。

 しかも、想像以上の効果に戸惑いを隠せない。

 アンデッドにも通る誘惑って何なのだ。対象を問わないにもほどがある。

 俺の魅力は、生命の有無すら超えているというのか。

 恐ろしいスキルだ。


 ーーしかし、次の瞬間、生きてきた中で最も恐ろしい経験をする。


 VRの立体音響が有無を言わさず360℃生々しい音を立てる。

 ガサ、カサカサカサ……遺伝子レベルでの嫌悪感に背筋が瞬間凍る。

 そして、


 ーーブブブブブブブブッッ!!!


 夥しい羽音と共に、ゾンビ、スケルトンなんて比じゃないくらいの最強にして最悪の敵、形状として名状するならば"例のアレ"が俺に対して愛情を剥き出しにしながら飛びかってきた。

 盛りに盛ったパッシブスキルが、反応強化と武芸がしっかりと時を加速させるかのようにゆっくりと敵の動きの詳細を捉える。


「ぴいいいいいいいいやァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


 絶叫、ただ絶叫。


「あれ、言ってなかったっけ、でるよぉ?」

「出ましたね!! 炎魔法使いにとっての経験値の塊!! リエラさん、しっかり燃やすので捕食、合わせてください!」


「むぅぅぅりィィィいやァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


本日もう一話更新します。

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