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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
TALE-TELLER始動編

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82/106

魔法の数字は102(M)56、84

 あの大々的な記者会見から早くも数週間が経ち、ミーナの言う通り息つく暇もないほどの日々を乗り越え、ようやくこの仕事ペースにも慣れた。


 簡単に言うとそれだけの日々だ。

 中身はこれまでの人生とは大きく異なっていた。

 異なる世界と書いて、異世界だ。


 人生の歯車が狂い、突然激変するキッカケなんてものは、案外平和な日常のそこら中に無数に転がっているものだと今ならはっきりとわかる。

 例えば、VRMMOという全く新しいゲームの世界への没入であったり、思いがけないシステムのバグや予期せぬ事故のようなトラブルであったりする。

 さらには、ネネやミーナといった強烈な個性を持つ仲間たちとの運命的な出会いもそうだ。

 それに加えて、連日のようにネットの海へと発信し続ける配信活動による熱狂や、さらには計算外のところで爆発的に注目を集める予測不可能なバズなど、本当に色々な要因がある。


 しかし、数あるキッカケの中でも、グラビア撮影という仕事だけは全くの予想外だった。


 リエラの容姿ならむしろそれが自然ではあるのだが、いくらなんでもブラック企業で疲弊していた元しがない会社員だった自分の人生に足し算されるタスクであるとは、一ミリたりとも想像すらしていなかった。


「はい、リエラさん! そのまま視線こっちお願いしまーす!」

「は、はーい!」


 -ーピッ!

 ーーカシャ、ボシュ!

 ストロボのライトが明滅する。


 俺はカメラマンのやたらとテンションの高い明るい声に応えながら、顔の筋肉を引き攣らせつつも、笑顔を作り、プールサイドで指定された通りに身体を大きくひねってみせた。 


 本格的な夏の到来にはまだ遠いものの、春先特有の少し白みがかった強い日差しが、揺れるプールの水面へと反射している。


 そのキラキラとした光の乱反射が、容赦なく俺の目へと飛び込んできて、ただでさえ慣れない撮影の眩しさをさらに増していた。


 塩素の匂いが微かに鼻を掠める。


 ここは、ネットの噂や有名な映像作品などで誰もが一度は目にしたことがある、いわゆる「例のプール」っぽい場所に見える。


 いや、実際のところは都内にある別の高級なレンタルスタジオか何かなのだろうけれど、なんだか頭の奥がざわつくほど不思議なくらい既視感がすごい空間だった。

 綺麗に磨き上げられた白いタイルや、飾り気のない無機質なコンクリートの壁、そしてやたらと撮影に向いているように計算され尽くした構図の数々。

 そんな特殊な環境の中で、俺は今、布面積の極端に少ない水着姿で一人ポツンと立たされているわけだ。


「いいですよー!でも、もう少し肩の力を抜いて、ナチュラルにリラックスしてくださーい!」

「こ、こんな感じかしら……?」


 俺はプロからの的確な指示に対して素直に頷き、言われるがままにポーズを細かく、そして繊細に変えていく。

 バストの暴力的なボリュームを強調するための胸の張り方から、女性らしいS字ラインを描くための腰の捻り具合、脚を長く見せるためにクロスさせる角度、さらには蠱惑的な視線の流し方や、少し唇を開いた絶妙な表情の作り方に至るまで、全部を細かく的確に指示されるのだ。


 正直に言って、数週間前、最初の頃はこのグラビア撮影という仕事が、本当に大変だった。

 慣れないポーズを取るものだから身体が筋肉痛で悲鳴をあげる、その痛みを抱えたまま次の現場に向かうことになる。

 しかし、人間の環境への適応能力というものは本当に恐ろしいものだ。

 気がつけば、こんな環境やポージングにも、少しずつ、しかし確実に慣れてしまっている自分がいた。


 人類の適応力は高すぎると、自分自身の信じられない変化に呆れてしまうほどだ。


 最近では、撮影の合間にモニターをチェックしながら「こっちの角度から撮られた方が、より可愛く盛れるのではないか……?」などと、いっちょ前にモデルのようなことを考え始めている自分がいるから底知れなく怖くなる。

 家に帰ったらストレッチのメニューを増やさなければ……。


 俺がここまで心も身体も壊すことなく適応できたのは、周囲のスタッフたちの反応があまりにも“仕事”として真剣だったのが非常に大きいと思う。


 被写体を最高に美しく照らし出す照明さんの完璧なライティング、カメラマンの絶妙なタイミングで切られるシャッターワークや、少しのメイク崩れも見逃さないメイクさんの細やかなお直し、衣装のシワやたるみを瞬時に直す衣装さんの素早い対応。


 その全員が、自分の役割に対して信じられないくらい真剣に取り組んでいるのだ。

 そこに、水着姿の美少女に対するいやらしい空気や下心のようなものはほぼ存在しない。

 ただ純粋に、被写体である“リエラ”を最高の形で“魅せる”という、その一点のみに全神経を集中している。

 だからこそ、俺も途中からは変な羞恥心よりも、プロの仕事にしっかりと応えて“自分もちゃんとした作品を作らなきゃ”というプロ意識と責任感が勝るようになっていた。


「いいですねー!その表情、最高に素敵です!」


 小気味よく響き渡る乾いたシャッター音に合わせるように、肌を滑り落ちる水滴や、プールの水で濡れたプラチナブロンドの髪の質感が、高級なカメラのレンズを通して次々と鮮やかに切り取られていく。


 そうして、今日も大量の高品質な撮影データがサーバーへと記録されていった。


 あの日、渋谷のど真ん中で大々的な事務所設立の記者会見を行ってからというもの、俺の生活は以前ののんびりとしたゲーマー生活とは完全に違うものへと変わってしまっていた。

 朝はいつものように視聴者へ向けた雑談配信を行い、昼からはスタジオへ移動して水着でのグラビア撮影をこなし、夜にはまたエタファンにログインしてゲーム配信を行うという怒涛のスケジュール。

 さらには、別の過激な衣装を着てのコスプレグラビア撮影や、移動の合間を縫ってのゲリラ的な雑談配信が休む間もなく続く。

 企業から依頼された大型案件のコスプレ番組に出演したかと思えば、また次の日には別のスタジオでグラビア撮影が入り、ひたすらにグラビア、グラビア、グラビアという文字が、ミーナの管理するスケジュール帳を真っ黒に埋め尽くしていく。


「……ふぅ~~……」


 俺は束の間の休憩中、パイプ椅子に深く腰掛けながら、スタッフから手渡されたペットボトルの水を喉へ流し込み、誰に聞こえるでもなく小さく疲れた声で呟いた。

 だが、俺はこの忙しさが決して単なる寄り道や、無駄な時間稼ぎではないことを痛いほどに理解していた。


 これらの一つ一つの地道な活動は、全部。


 本当に全部が、“あの人”という遥か高い場所にいる存在へ届くために、ミーナによって綿密に計算された、必要不可欠な布石だったのだ。


 ただゲーム内で暴れているだけのいちプレイヤーでは、決して手の届かない天上人。


 その相手と同じ土俵に立ち、対等以上の影響力を持って正面からぶつかり合うためには、この現実世界という舞台での地盤固めが絶対に必要だった。

 業界における圧倒的なタレントとしての格、世間一般での誰もが知る幅広い知名度、そして常にSNSのトレンドや話題の中心であり続けるための強烈な話題性。


 これらを確実に獲得し、現実世界側でも“リエラ”という存在を絶対に無視できないほどの大きな存在へと押し上げる。

 その壮大で無謀とも思える目的を達成するために、プロデューサーであるミーナは俺の知らない裏の舞台で徹底的に動き回り、マーケティングから泥臭い営業、各企業への根回しまで、ありとあらゆる交渉や手回しを行っていた。


 そして、プールでのグラビア撮影を無事に終え、私服に着替えたその日の夕方のことだ。


 地下駐車場まで俺を迎えに来てくれたミーナの様子は、いつもと明らかに違っていた。

 なんと表現すればいいのか、彼女の瞳はこれまで見たことがないくらいに、めちゃくちゃギラギラと野心的に輝いていたのだ。


「リエラさん!!」


 自動運転タクシーのドアがゆっくりと閉まり、後部座席に乗り込むなり、彼女は息を荒らげながら、開いたままのノートPCの画面を俺の目の前へと勢いよく突き出してきた。


「来た!!ついに来ましたよ!!」

「へ?ちょ、ちょっと急にどうしたの?何が来たの?」

「釣れたんです!!とんでもない大物が!!」

「釣るって……まさか!? って、もう少しプロデューサーらしい言葉を選んで!!」


 俺が思わず大声でツッコミを入れても、今のミーナは興奮冷めやらず、全く止まる気配がない。

 薄暗い車内でPCのバックライトに照らされた彼女の全身からは、隠しきれない歓喜の興奮と強烈な昂揚感が溢れ出しており、その表情は完全に、大一番の大勝負に完全勝利した“勝負師の顔”そのものだった。


「ついに……!」


 ミーナが震える指で示すノートPCの明るい画面には、一通の極めて重要なビジネスメールが表示されていた。そこには、エンタメ業界の人間なら誰もが知る、有名な企業ロゴが燦然と輝いている。そして、そこに記されていたのは、VTuber界隈やインフルエンサー界隈に君臨する、あの超大手事務所の名前だった。


「……っ」


 俺は画面の文字を追った瞬間、信じられないものを見たように思わず息を呑み、言葉を失った。大手という言葉が持つ重圧が、一気にのしかかってくる。


「本当に、本当なのね……」

「はい。私たちの戦略が、ついに実を結んだんです」

 

 ミーナが、これ以上ないほど満足げに、にっっっ、と口角を深く上げて笑った。


「あの大手事務所のマネージャーが、私たちの提案に対してぜひ、と首を縦に振りました」


 彼女は一拍の沈黙を置き、その事実を深く噛み締めるように、そして俺たちにとって最大の勝利宣言をするかのように、力強くはっきりと告げた。


「――羽衛ミルキー、リエラさんとのコラボ配信が、ついに正式決定です」


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