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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
始まりの街レアルタ編

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商業都市ジュノリスへ行く道中は武芸を試すのに最適でした。

 クラン設立宣言という怒涛の放送が無事に終了した後、俺たちは深夜のオークダンジョン入口前を離れる。


 次の目的地はいつも帰っていたレアルタではない。


 ーー商業都市ジュノリス。


 理由はいくつかあるが、クランの拠点を最も多くのプレイヤーが集まるエリアに構えることにする。


 それには商業都市ジュノリスが最適だった。


 そのまま三人で薄暗い街道をジュノリスに向けて歩いていく。

 吹き抜ける夜風は少しばかり冷たかった。

 けれど、激しい戦闘と配信の熱気、ミーナの魔法サウナで火照りきった身体には、そのひんやりとした冷気が心地よく感じられた。


 ふと見上げれば頭上には満天の星空が広がっており虚構の世界とは言え、ここまで表現されている様子は圧巻だ。


 街道沿いに一定間隔で設置された魔導ランタンが、ぼんやりとした青白い光を石畳の地面へ落としていて幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 配信を切ったあとに訪れる、この特有の静けさが俺は嫌いじゃなかった。さっきまで数万人規模のコメント欄が画面の向こうで大暴れしていた反動なのか、こうしてゲームの世界で3人だけで静かに歩いている時間は、張り詰めていた神経が解れて妙に落ち着くのだ。


 ミーナとネネはさっそく何か話し込んで、手元でせわしなくウィンドウだろうか、それを操作している。


「……ふぅ」


 小さく息を吐き出しながら、俺は身体をほぐすように軽く肩を回してみた。


 大剣を振り回し、メイスでオークを叩き潰し、魔ダーツを投擲し、最後には巨大なジェネラルを捕食するという、振り返れば今日は一日でかなりのタスクをこなしたはずである。


 ただ不思議なことに身体の疲労感は驚くほどに薄かった。


 《戦場の聖女》がもたらす5秒毎のリジェネ効果が、戦闘のダメージだけでなく、リアルタイムで蓄積される疲労感までごっそりと薄めている気がして、エタファンのパラメーター補正に甘やかされるリエラの身体が少し怖くなってくる。

 いやほんと、エルーサのバフもあり、ここまでの継戦能力を得られるだなんて、これ絶対正規攻略班が泣くレベルのスキルだと思う。


 そして、「あー、そうだ」と俺は歩きながら仮想ウィンドウを操作し、自分のステータス画面を開いた。


「さっきのスキル見なきゃ……」


 そう呟きながら、ジェネラルを捕食した際に手に入れた《武芸・初級》という新しく獲得した統合スキルの詳細を確認することにしたのだ。


 あれだけ大量の近接スキルが統合されたのだから、気になって仕方ない。


 まず手始めに自分の感覚や身体の重さを確認してみたが、これは統合前とそこまで変わっていないように思えた。ステータス上のSTRもAGIも急激に跳ね上がったような感じはなく、純粋な身体能力が底上げされたわけではないらしい。


 だが、視線を移してスキル欄のリストを見ると、明らかに妙なことになっていた。「……あれ?」と、俺は思わずディスプレイを見つめて目を細める。各初級スキルの“パッシブ”効果は、統合された後もアイコンが光り続けて機能していることがわかる。


 取得していないものも、である。

 槍、片手剣、盾はさっさと統合されて取得する暇なんてなかった。なのにも関わらず光ってる。


 槍術はDEX、STRに12%のパッシブ。

 片手剣はSTRに10%だが、身のこなしと言うスキル名からして体捌きのような見えない脳補正が入ってそうだ。

 盾はViTとHPに15%。

リエラ 54

HP:2851

MP:385

STR:166

VIT:1403

AGI:348

DEX:88

INT:68


 パッシブ乗りすぎてパラメーターがちょっとよくわからないですねぇしてる。


 一方で、振り下ろし、ダブルスウィング、サブミッション、キック、パンチといった個別の攻撃技はどうなったのか。つまり、“アクティブスキル”として登録されていたそれらはシステムによって綺麗に削除されている。


「なにがなにやら……」


 困惑しながら、俺は統合スキルの詳細ツリーを軽く開いてみた。

 すると、画面の中央に《武芸・初級》という巨大なコアが視覚化され、その周囲へ近接系スキル群が星座や魔法陣のように円形状に展開されていたのである。


 なんだこれ、唐突に珠をはめていく系のスキルボードみたいになったぞとツッコミを入れつつ、画面に表示された説明文を順番に読んでいく。

《武芸・初級》の派生だが、

《円環》は攻撃を繋げることでコンボボーナスを得る効果があり、

《発勁》は攻撃時に一定のDEFを無視した貫通ダメージを与えるという強力なものだった。

《百般》はあらゆる武器の扱いに長けるという汎用性の高い効果で、

《気術》はHPを消費する代わりに全パラメーターを一時的に底上げするというバフ効果を持っているらしい。


「…………」


 そのあまりにも隙のないラインナップを前にして、俺は数秒間だけ沈黙してしまった。


「気術以外、全部パッシブスキルなのか」


 そうなると、今までアクティブスキルだった技をどうやって使うのかが気になるが……。


 すると、横からネネがぬるっと俺の視界に顔を覗き込んできた。


「なになに〜? スキルツリー?」


 彼女の頭に生えた獣耳が興味深そうにぴこぴこと動いている。どうやら、さっきまでの二日酔いの気怠さは完全に抜けたらしい。

 ミーナもまた、ゲーマーとしての好奇心を隠しきれない様子で興味津々にこちらを見ていた。


「説明だけだとどういう挙動になるのか意味わからないですけど」


 前置きしつつ、いつもの悪巧みをするようなとびきりの笑顔を浮かべ、


「返還されたポイントもあるんですし、全部取っちゃいましょうよ!」


 と、無責任な提案をしてきた。


「軽っっ」


 俺はその場のノリで決めるミーナの軽さに即座にツッコむ。


「いやまぁ、今後のことも考えたらそうするしかないんだけど……」


 結局、俺は返還された大量のスキルポイントを、そのまま《武芸・初級》の派生スキルへ軽率に突っ込んでしまった。だって、どんな効果が出るのか純粋に気になるし。


 そして、ポイントを割り振ってシステムのアナウンスが鳴った次の瞬間だった。


「……お、お?」


 俺の身体を包む感覚が劇的に変わったのだ。これはまずい。いやほんとに、ゲームのバランスをぶっ壊しかねないレベルでかなりまずいことになったと直感した。


 今までは、振り下ろしやダブルスウィング、サブミッションといった技は、あくまで“システム側の補助”によって強制的に出させられていた動きだった。それが、スキルを取得した途端になんというか、自分の手足の延長として“自然にできそう”な感覚に置き換わっているのだ。


 特に《円環》と《百般》というこの二つのパッシブスキルがもたらす影響は凄まじかった。頭の中へ、どのような体勢からでも流れるように繋がる連携動作のアイデアが次々と浮かんでくるのである。

 殴る、投げる、体勢を崩す、蹴る、そしてその合間に隙なく武器を持ち替える。その全部がバラバラの行動ではなく、ひとつの淀みない武術の流れとして完全に繋がっているのだ。


「え、なにこれ……」


 自分の身体に宿った底知れぬ武力に自分でちょっと引いてしまった。

 その時だった。運悪く、いや、俺の新しい力を試すという意味では運良くと言うべきか、薄暗い街道脇の茂みから、一体の野良オークがのっそりと現れたのだ。


「ブモォ?」


 突然現れた俺たちにオークも少し驚いているようで、完全に不意打ち気味の遭遇だった。

 だが、そんな状況でも俺より先に武器を構える者は誰もいなかった。ネネもミーナも、俺が新しいスキルでどう動くのかをただじっと見ているのだから。


 だから俺は、ほとんど反射行動みたいにして、足元のそこら辺に転がっていた手頃な石をさっと拾い上げた。

 そして流れるような投擲フォームで――そのままオークの顔面目掛けて思い切り投げる。

 ヒュンッ!!と鋭い風切り音を立てた石が、寸分の狂いもなくオークの顔面へ直撃した。


「ブモッ!?」と苦痛の声を上げてオークが怯む。


 その瞬間、考えるよりも先に俺の身体が勝手に最適解を求めて動いていた。極端な低姿勢を取り、滑り込むようにしてオークの懐へと一気に距離を詰める。

 《スライムボディ》の柔軟性、滑る、という特性を活かして全身の関節を軟化させ、そのバネを利用して放つ。


 そこから繰り出されたのは、まるで鞭みたいにしなる強烈なローキックだった。


 バンッッ!!という生々しい破裂音と共にオークの膝が完全に折れ曲がり、巨体がガクンと沈み込む。


 さらに俺の猛攻は止まらず、倒れ込むオークに向けて鋭く踏み込み、顎の下から脳天を揺らすような掌底を打ち込んだ。

 首が跳ね上がって無防備になったオークの死角へと、背後へ回り込むように身を滑らせる。そのまま太い首へ腕を絡め取り、体重をかけて強引に首関節を極めた。


 流れるような一連の動作は、途中で一瞬たりとも止まらない。手持ちの武器がなくても、派手なスキル発動の光る演出がなくても、俺の身体が勝手に状況に応じた最適解の暴力を選び続けているのだ。


 そして最後は、ぐしゃっという鈍い音と共にオークの首がへし折られ、そのまま光るポリゴン粒子へと変わって空中に霧散していった。


「…………」


 戦闘が終わった街道には、一瞬だけ誰も言葉を発さない完全な静寂が訪れた。


「……わお」


 呆れと感嘆が混ざったような変な声が俺の口から漏れ出た。俺自身が、自分の放ったあまりにも淀みのない残虐なコンボに一番引いていた。なに今の人間離れした動き、気持ち悪っ。


「いやリエラちゃん」


 ネネが顔を引き攣らせた半笑いでじりじりと後ずさる。


「それ、どう見ても武闘家系ボスの動きなんだけど」


 そんな風に的確なツッコミを入れてきた。


「すごいです……っ!」


 ミーナは目を輝かせていた。

 一度火がついた俺の好奇心と武術の探求はもう止まらなかった。

 だって、自分の身体が思い通りに動くのが面白いのだ。面白すぎて仕方がない。


 その後も、ジュノリスへの道中で敵を見つけるたびに、俺は自ら進んでエンカウントを繰り返した。

 大剣を振り回し、メイスで粉砕し、ナイフを投擲し、回し蹴りを叩き込み、素手で関節を極め、手持ちの武器を投げつける。

 様々な連携や戦法を色々試した。

 そして戦闘を重ねるそのたびに、《武芸》というスキルの神髄がどんどん俺の身体へと深く馴染んでいくのがわかった。

 戦闘の楽しさに没頭していて気がつけば、俺たちは夜の闇を抜けて、煌びやかな新しい街の目の前へと辿り着いていた。

 見上げるほどにそびえ立つ巨大な城壁、街中を照らす無数の温かな灯り、夜通し商売に励む人々の活気ある声、荷物を運ぶ馬車の車輪の音、そして行き交う商人たちの姿。


 ここが商業のハブとして栄える――商業都市ジュノリス。俺たちが次に拠点を構える場所であり、レアルタよりもさらに多くのプレイヤーや情報が集う巨大な街だった。


「……ま」


 道中の俺の無双っぷりを散々見せつけられたネネが、苦笑しながら大げさに肩を竦めた。


「リエラちゃんの底知れないヤバさは、道中の散歩で嫌ってほど身に染みてわかったよ〜」


 と、呆れ半分、感心半分の声で言う。


「これからのクラン活動において、頼もしい限りだわ」

「頼りにしてていいわよ」


 俺は軽く笑って彼女の言葉を肯定した。

 すると、ネネがにやっと悪戯っぽい笑みを浮かべて話題を切り替えた。


「さて、ゲーム内での強さは証明されたけど、言うてあたしたちの本当の本番は明日のお昼だけどねぇ」


 現実世界での大きな予定について触れた。

 そう、明日のお昼は俺たちにとってゲームの攻略以上に重要なイベントが控えている。 ミーナが立ち上げた新事務所《TALE-TELLER》の設立と、ネネの加入を現実世界のメディアに向けて行う正式発表だ。

 しかも、今回はただの配信ではなく、3人揃って登壇する本格的な記者会見形式で行われるのである。

 事のきっかけは、業界に顔が広いネネの知り合いの一言だった。

 “どうせ新しい事務所を立ち上げてトップインフルエンサーが移籍するなら、大々的に記者会見しちゃいなよ”という、そんな軽いノリからのスタートだったのだ。

 だが、その結果として話はどんどん大きくなり、気づけば普通に配信業界やエンタメ業界を巻き込む規模の記者会見イベントになってしまっていた。


 今夜のゲーム内で行った、魔王軍設立の芝居がかったノリとは次元が違う。

 もっとシビアで現実寄りであり、大人の事情が絡む真面目でガチな場だ。


 芸能界のメディア、大手インフルエンサー、スポンサーとなる企業。そういうしがらみや思惑が渦巻く世界を、しがない元会社員の俺はまるで知らない。

 だから、明日の会見で自分がどう振る舞えばいいのかわからず、プレッシャーで少しだけ緊張していた。

「……うぅ」


と思わず胃が痛くなるような唸り声を上げる。


「正直、ゲームの中で捕食だ~とか、リエラ様に任せなさいとか偉そうに言ってる方が、何百倍も気楽でいいのよね……」


 弱音を吐いてしまった。


 すると、俺のあまりにも情けない本音を聞いたミーナとネネが、顔を見合わせて同時に吹き出した。そうして、三人で朗らかに笑い合いながら、俺たちは眠らない商業都市ジュノリスの巨大な門へとゆっくりと近づいていった。


 ――その時だった。


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