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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
始まりの街レアルタ編

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70/106

開かれた扉

「……なんとなーく、だけどねぇ?」


 ネネが異世界ドリンクのグラスをくるくる回しながら、そんなことを言った。

 手元のグラスを見つめたまま、彼女はどこか思わせぶりな笑みを浮かべる。


 エルーサも消えた。

 システム的な限界によって、あの儚き聖女の姿は完全に虚空へと掻き消え、彼女がいた場所には、冷えた空気だけが取り残されている。


 消えたからこそ、逆に“余韻”だけが残っている。彼女が遺した重苦しい記憶の残滓が、俺たちの胸の奥に深く澱んでいる。存在が消滅した事実が、かえってその言葉の重みを際立たせていた。


 俺は頬杖をつきながら、ネネの言葉へ耳を傾けた。彼女の次の言葉に何が含まれているのか、俺は全神経を集中させる。真実に近づくためのヒントを、一言も聞き漏らしたくはなかった。


「リエラちゃんの“捕食”で、情報更新できそうなラインって」


 ネネがこちらを見る。悪だくみでも共有するかのように、彼女の鋭い瞳が真っ直ぐに俺を捉える。トップ配信者としての真剣な光が、その眼差しの奥で小さく揺れていた。


「たぶん、レベル70解放の塔コンテンツ」


 そこで一拍。


 彼女は言葉を区切り、俺たちの反応を確かめるように意味深な沈黙を挟む。緊迫感を演出するような絶妙な間が、室内の空気をわずかに引き締めた。


「あとは、常設の石碑クエストあたりかなぁ」

「塔に石碑クエスト……ですか」


 ミーナが小さく呟く。彼女の赤い瞳が、その名前を聞いた瞬間に驚きでわずかに見開かれる。難攻不落として知られるその場所の難易度を、瞬時に脳内で計算しているようだった。


 エタファンの塔コンテンツ。

 超面倒で悪い方で有名だ。

 レベル制限を設けて挑む高難易度コンテンツなのだが70、90、100、さらにその先。

 塔にはレベル制限が存在し、自分のレベルを“下げて”挑戦する。

 つまり、高レベルプレイヤーでも、適正レベルで攻略を求められる設計。育てたキャラを無理矢理弱い状態にさせられる違和感はものすごい負荷がかかり、なんでそんな仕様にしたんだと文句を言われる筆頭コンテンツだ。

 報酬が破格なだけに、みんな文句を言いながら挑み、時間を溶かしている。


「あと石碑クエスト」


 ネネが続ける。


「あれはもう……うん……」


 露骨に嫌そうな顔をした。思い出すだけでも不快だと言わんばかりに、彼女の表情が目に見えて歪んでいく。頭上の大きな獣耳までが、拒絶を示すようにへにゃりと寝てしまった。

「めんどくさい、報酬低い、難易度高い、人気ない」

「ボロクソじゃないですか」

 ミーナが苦笑する。あまりにも容赦のない辛辣な評価に、彼女は肩をすくめて乾いた笑いを漏らした。運営への苦情とも取れるその物言いは、ある意味で的を射ているのだろう。


 実際そうだ、世界中へ散らばる石碑。

 その情報を集める。

 やることは、たったそれだけ。

 なのに、異常に難しい。

 というか。

 “たどり着くまで”が難しい。


 高難易度フィールド、隠しルート、特殊ギミック、高レベル必須。


 さらに、報酬が地味。

 なんなら学者NPCが喜ぶだけ。

 だから誰もやらない。


 いや、正確には。

 “考察勢しかやらない”。

 エタファンの世界観考察。

 NPCの会話精査、古代文明とか神話とかそういうのを掘ってる連中だけが追っているコンテンツ。


 高レベル考察勢……ごめんだけど実はまだ聞いたことがない。


 ――もの好きにもほどがある。


「……正直」


 俺は苦笑する。込み上げてくる複雑な感情を隠すように、皮肉めいた笑みを浮かべるしかなかった。 提示された過酷な道筋を前に、呆れ半分の吐息が漏れる。


「どっちも、めんどくささMAXね」

「でしょ〜?」


 ネネがへにゃっと笑う。彼女は我が意を得たりとばかりに、緊張感のない締まらない笑みを浮かべた。その無防備な表情が、張り詰めていた店内の空気をさらに緩めていく。

 その直後。お互いの目線が交錯し、言葉にできない奇妙な緊張感が再び走り始める。提示された最悪の選択肢の裏に、別の可能性を見出した瞬間だった。

 俺たち三人の空気が、少しだけ変わった。それまではただの雑談だった空間に、確固たる目的意識が静かに染み渡っていく。誰からともなく、新しい死線を見つめるような鋭い眼光が宿り始めていた。

 塔。システムが用意した、最強の戦士たちのための試練の場所。そこには俺たちの知らない、強大なネームドたちの魂が眠っているはずだ。

 石碑。世界の歴史を正しく記録し、深い闇の中に隠された真実の礎。文字の裏側に秘められた古代の記憶が、俺たちの訪れを静かに待っている。

 世界設定。人間側の都合だけで美化され、歪められた偽りの神話の構造。その欺瞞を暴くための鍵が、広大な大地のどこかに埋もれている。


 ――きっと、そこにある。俺たちの求める本当の真実が、その過酷な挑戦の果てに隠されている。世界の理をひっくり返すための重要なピースが、そこにあると確信できた。

 何かが俺たちをさらなる高みへと導く、未知の可能性の核心がそこにある。誰も見たことのない、悍ましくも魅力的な真実の姿が形を成そうとしていた。


 “喰らいがいのある何か”が。

 

 俺の底なしの強欲を満たしてくれる、最高の獲物が待ち構えているはずだ。その魂を喰らい尽くした時のカタルシスを想像し、胸の高鳴りが抑えられない。

 その確信だけは、不思議とあった。根拠のない直感であるにもかかわらず、俺の心は驚くほどに凪いでいた。これから始まる壮大な反逆劇への期待が、確固たる意志となって胸を満たす。


「……ねぇ」


 ネネが、ふと思い出したように言う。手元のドリンクから視線を上げ、彼女は唐突に新しい話題を切り出してきた。その目の輝きが、これから始まる企みを予感させる。


「今言うことでもないんだけどさ」

「はい?」


 ミーナが顔を上げる。彼女は不意に振られた話題に戸惑いながらも、真っ直ぐにネネを見つめた。真剣な考察の最中に挟まれた言葉の意図が、掴めずにいるようだった。


 ネネは、にこっと笑った。まるでいたずらが大成功した子供のように、彼女の口元が綺麗に吊り上がる。その邪悪で愛らしい微笑みが、次なる爆弾の発射を告げていた。


「ミーナちゃん、私も事務所入れて」

「へ!?」


 ミーナの声が返る。あまりの衝撃的なおねだりに、彼女の喉から情けない悲鳴が飛び出した。予期せぬ大物の参入宣言に、彼女の頭脳の処理能力は完全に飽和している。


 俺も目を瞬かせた。突然のトッププレイヤーの参入宣言に、俺の思考も一瞬だけフリーズする。耳を疑うようなセリフの連続に、ただ呆然と彼女の顔を見つめるしかなかった。


「え?」

「作ってるんでしょ? 今」


 ネネが当然みたいに言う。


「ま、まままままだ構想段階なんですけど!?」


 ミーナが真っ赤になる。顔中に血が上っていくのが分かるほど、彼女の狼狽ぶりは一目で見て取れた。自分の秘密を暴かれた子供のように、激しく動揺している。


 慌てて両手をぶんぶん振っていた。物理的にその事実を否定しようとするかのように、彼女の肢体はせわしなく動き続ける。その必死な抵抗が、かえってネネの確信を強める結果になっていた。


 ネネは、けらけら笑うだけだ。ミーナの慌てぶりを特等席で鑑賞しながら、彼女は本当に楽しそうに肩を揺らす。その屈託のない笑い声が、バーの緊迫感を綺麗に霧散させていった。


「じゃあ作って〜」


 その声が、少しだけ柔らかくなる。それまでの強引な態度から一転して、そこにはどこか甘えるような響きが混じっていた。彼女の本音が、微かな体温を伴って店内に染み渡っていく。


 その瞬間、空気が少し止まった。

 ネネは笑っていた。軽い感じで。

 だが、その言葉の奥にある“重さ”は、配信者をやってる人間なら何となくわかってしまう。

 個人勢と言えどもピンキリである、数字、案件、編集、スケジュール。

 最悪の場合全部ひとりでやることになる。編集を外注するにも信頼できる人間を見極めてとか、そうなってくると疑心暗鬼になる。

 いわゆる人気があるほど、逆に孤独になる。

 ネネは、ずっとそれをやってきたんだ。


「うぇ……」


 ミーナが完全に固まっている。次の言葉を失っていた。口を半開きにしたまま、ただ目の前の先輩配信者を見つめることしかできない。


「は、はい……」


 押し切られた。これほどの大物の誘いを、彼女に拒絶する選択肢など最初からなかった。

 圧倒的なカリスマの前に、彼女の防衛線は容易く決壊してしまったのだ。


「やったー!」


 ネネが満足そうに笑う。


「じゃあリエラちゃんも、フレ飛ばすね〜」


 軽快な操作音。

 システムメニューを手際よく操作する彼女の指先が、空間に光の軌跡を描く。一瞬の迷いもないその動きは、彼女の決意の固さを物語っているようだった。


 俺の視界の真ん中に、半透明のシステム画面が滑り込むように出現した。電子の光が明滅し、新しい繋がりが発生したことを俺の脳に直接伝えてくる。


 フレンド申請。そこには、誰もが憧れるトッププレイヤーの名前がくっきりと刻まれていた。

 さらにこれ以上の追撃はないだろうという俺の甘い予測を……彼女はさらに軽い身のこなしで飛び越えてきた。

 次なる要求へのカウントダウンが、すでに始まっている。


「あと、リアルの連絡先〜」

「えっ、ちょ、早っ」

「いいじゃーん」


 完全にペースを持っていかれていた。彼女の圧倒的なバイタリティの前に、俺のブレーキは全く機能していない。気づけば言われるがままに、プライベートな情報を差し出す準備を始めていた。

 嫌じゃない、これほど強引に踏み込まれているというのに、不思議と拒絶の感情は湧いてこない。彼女の持つ独特の温かさが、こちらのパーソナルスペースを自然と広げていた。

 むしろこの急激な変化の連続が、どこか心地よい刺激として俺の理性を満たしていく。

 これから始まる新しい物語の予感に、胸の奥が静かに脈動を始めていた。


 妙に自然だった。


 まるで最初からこうなることが決まっていたかのように、すべてが滑らかに噛み合っていく。ネネという異物が、俺たちの日常に完璧に溶込んでいるのを感じた。

 ネネは最後に立ち上がる、用件はすべて済んだと言わんばかりに、彼女は椅子から軽やかに身を起こした。その一連の動作の洗練さに、トップ配信者としての風格が改めて漂う。

 獣耳を揺らしながら言葉に合わせて頭上のパーツが小刻みに動き、室内の光を綺麗に跳ね返す。その愛らしい仕草が、彼女の内心の満足度を雄弁に物語っているようだった。

 別れの挨拶にふさわしい、屈屈のない満面の笑みを俺たちに向けてみせた。

 その輝かしい笑顔が、この密室の重苦しい空気を完全に塗り替えていく。


「それじゃ、ふたりとも」


 ほんの少しだけ真面目な声になる。その響きには、これまでの悪ふざけとは異なる確かなリスペクトが含まれている気がした。彼女は俺たちを、対等な戦友として認めてくれたのだ。


「今後ともよろしくね〜!」


 その瞬間、

 シュンッ――空間が歪むような電子音が響き、彼女の輪郭が微かな光の粒子へと分解されていく。

 アバターの境界線が曖昧になり、一瞬のうちにその姿が掻き消えた。

 ネネの身体が粒子になって消えた。現実に存在していた質量が失われ、そこにはただの空虚な空間だけが取り残される。彼女の去った椅子は、まだ微かな名残を留めているようだった。

 ログアウト……彼女の意識がこの世界から切り離され、システムが正常な切断を処理したことを告げていた。世界の中心にいた台風が去り、舞台には静けさが戻ってくる。

 嵐のような賑やかさが消え去った部屋は、先ほどまでとは異なる冷たい空気に満たされていた。誰も声を上げることができず、ただ沈黙だけが支配している。

「…………」

「…………」

 俺とミーナが、しばらく無言になる。あまりにも嵐のような去り際に圧倒され、俺たちはただ言葉を失って立ち尽くしていた。静まり返った半個室に、二人の静かな呼吸の音だけが不自然に響いている。

 俺はゆっくりミーナを見る。首を回して隣の相棒の様子を確認すると、案の定、凄まじいことになっていた。彼女の表情を捉えた瞬間、俺の胸の中からおかしさがこみ上げてくる。

 ミーナは、まだ完全にフリーズしていた。思考回路が完全にショートしたかのように、彼女の身体は指先一つ動かない。文字通り石化してしまった彼女の姿は、この夜一番の滑稽なエンタメだった。


「あれ」


 俺は小さく笑う。張り詰めていた緊張の糸が完全に切れ、俺の唇は自然と緩んでいった。彼女のマヌケな姿をからかうように、わざと意地悪な声をかけてみる。


「ミーナ、よかった……ね?」

「え、えええええ!?!?!?」


 ミーナの感情が爆発した。


「いやいやいやいや!!」


 椅子から半分立ち上がる。

 あまりの衝撃に耐えかねたのか、彼女の肉体が勝手に跳ね上がるように動いた。机の上のグラスが危うくひっくり返りそうになるほどの、激しい取り乱しっぷりだ。

「ネネさんですよ!? あの天神ネネさんですよ!?!?」

「う、うん」

「個人勢トップクラスの!? 案件数バグってる!? SNS総フォロワー百万近い!?」

「お、おぉ……」


 そんなに凄かったんだ。

 彼女の口から語られる具体的な数字の羅列を聞いて、俺の常識もようやくその規模を理解し始める。目の前に転がり込んできたチャンスの巨大さに、背筋が震えた。

 いや、凄いのは知ってたけど。まさかこれほどのトッププレイヤーが自分たちの陣営に加わるとは夢にも思っていなかった。事態の進展の早さに、俺の理解力も限界を迎えつつある。


「そ、それを、うち!?」


 ミーナが自分を指差す。その指先は目に見えて震えており、彼女の内心のパニックを如実に物語っていた。自分が背負うことになった責任の重さに、彼女は完全に圧倒されている。


「まだ事務所ですらないんですけど!?!?」


 その姿が面白くて、俺は思わず吹き出した。彼女のあまりの取り乱しっぷりが、張り詰めていた俺の心を完全に解きほぐしてくれる。これからの騒がしい日々の到来を予感し、胸の奥が温かくなった。


「ふふっ」

「笑い事じゃないですってぇぇぇ!!」


 その騒がしさが。彼女の放つ生々しいエネルギーが、俺の心に巣食っていた暗い影を綺麗に吹き飛ばしてくれる。その大げさな身振りが、店内の静かな空気を愉快にかき乱していった。

 妙に心地よかった。世界の残酷な真実に触れた後だからこそ、この他愛のない喧騒が何よりも愛おしく感じられる。

 俺は完璧な勝者としての笑みを浮かべ、新しい戦場への一歩を踏み出す覚悟を決めた。


「まぁまぁ、ミーナ、落ち着くために現状を把握しようよ」


 ミーナが何事?と言う目で見てくるが、そうですね、と笑みをこぼす。


 激動の夜を終えた俺は、まずは落ち着いて自己の現状を把握することにした。

 戦利品と能力の向上を確認するため、お決まりのコマンドを口にする。


「ステータスオープン」


 虚空に向けてシステム画面の起動を促すと、半透明のウィンドウが目の前に鮮やかに展開された。


【ステータス:リエラ(Lv.53)】

 基礎値 (Lv53) 最終戦闘

 HP2419

 MP375

 STR113

 VIT1175

 AGI310

 DEX76

 INT67


 STRが113……!

 もう貧弱とは言わせないッッ!!


【パッシブ】《スライムボディ》《物理耐性・小》《水耐性・小》《ソウルインザシェル》《体捌き》《状態異常強化》《不意打ちの極意》《速射姿勢》

《怪力》

《スクラムプレッシャー》

《魔物共鳴》

反応強化ベルナデッタ

《戦場の聖女エルーサ


【アクティブ】

 初級系いっぱい

《コールゴブリン》


【エクストラ】

《誘惑》《捕食》


「相変わらずリエラさん、パラメーターおかしいと言うかなんか、ふつうに前衛っぽくなってきてません?」

「STR増えたし、少しはダメージ通るようになってきたわ。でも……」


 俺はステータスウィンドを閉じる。


「スキル振りはお預けね、ミーナはどうなの?」

 促すとミーナもステータスを開いた。


【ステータス:ミーナ(Lv.58)】

ミーナ Lv58

HP:669

MP:1124

STR:28

VIT:40

INT:304 (基礎魔法学15%アップ)

AGI:57

DEX:51


【パッシブ】詠唱短縮、マナ自然回復、基礎魔法学、詠唱圧縮、マナ停滞、二重詠唱

【アクティブ】《ファイアーボール》《ファイアーアロー》《ファイアーウォール》《フェイムバーン》《フレアランス》

【装備固有】

フレアオーバーライド


 なんもまぁシンプル。

 目的もわかりやすい。

 詠唱をできるだけ少なく初級魔法を連発する。


「私、リエラさんにスキルポイントを使っちゃえって言った割に余ってるんですよね。魔学の先がレベル50以上じゃないと出なさそうだったので」

「あら、じゃあ今まさにちょうどいいってこと?」

「そうなりますね!」

 と、レベル50で解放されたであろうスキルツリー

 魔学上級、魔学詠唱にスキルポイントを躊躇いなく使っていく。


 魔学上級

 《並列圧縮》詠唱の処理を同時に行う。

 《魔力還流》消費の5%を即座に還元、ヒット時は15%還元。

 《熱量共鳴》炎上や爆発を感知、自身の炎魔法のエフェクトが残っている状態ならMP自然回復量300%アップ


 魔学詠唱

 《残響詠唱》魔法発動、詠唱時の硬直を軽減し、着弾後に詠唱残響が発動(最大5回累積)

 《無音詠唱》登録した指定の動作で詠唱を可能にする。(登録は都度変えることが出来るがある程度ハッキリとした動作が必要)

 《瞬刻詠唱》二重詠唱パッシブが発動した際、発動ボーナスを得る。最大4。二重詠唱の発動を15%引き上げる。


「お、おお、わー、脳が気持ちいいー!」

「ち、ちょっと、もう少し悩むとかないの?」

「基本は決まってますから、リエラさんに加えて、ネネさんまでパーティに加わるなら、おしゃべりできないのは論外です。詠唱破棄するまでは詠唱系一本です!」

「た、頼もしいわね……!」


 なんか、文字を見るだけで1秒でタゲが外れかねない量の魔法が飛んできそうだけど大丈夫かな?


「なんか、スキル振ったら脳がスッキリしてやることがハッキリと見えてきました!」


 大丈夫だよな……。


 その後、俺たちもログアウトした。

 全部が、ログアウトの暗転と共にゆっくり遠ざかっていく。

 かつてないほどの好奇心が全身の血を滾らせていた。これから始まる大騒動への予感が、俺のゲーマーとしての本能を激しく刺激する。


 考えることは増えた。まだ誰もが認知していない魔王、英雄たる勇者。捕食による記憶補完。

 世界設定、異常なまでに作り込まれたNPCたち。


 そうは言っても、それらの難題を前にして俺の心にあるのは拒絶反応ではなく純粋な期待だった。未知への恐怖を遥かに凌駕する衝動が、身体の内側から湧き上がってくる。


 “続きが気になる”、そんな感覚の方が強かった。


 VRゴーグルを外し、見慣れた自室の天井を仰ぎ見た瞬間に現実に引き戻される。

 非日常の余韻に浸る間もなく、俺は自分の本来の日常へと向き合うことになった。

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