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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
始まりの街レアルタ編

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勝利条件

 俺たちがこの絶望的な戦場を制するための条件は、全部で4つあった。ひとつでも欠ければ、この挑戦は無様な失敗に終わるだろう。


 ひとつ目は、時間との勝負だ。

 この戦場の異変に気づいた高レベル帯プレイヤーが、この稀少なネームド情報へ食いついて駆けつける前に片を付けなければならない。


 ふたつ目は、敵の生命線である支援を断つことだ。

 まずは戦場の要である聖女エルーサを一時的に無力化し、オークたちの不沈の守りを崩す必要がある。


 みっつ目は、物理的な壁を排除することだ。状態異常、エルーサへの攻撃はすべてベルナデッタが受けきってしまう、だから圧倒的な武勇を誇る真紅の騎士ベルナデッタを撃破し、エルーサを守る最後の守護を奪わなければならない。


 よっつ目、仕上げの条件が待っている。

 守護者を失って無防備になった聖女そのものを、文字通りこの手で捕食し、完全に落とすことだ。

 

 目的そのものは極めてシンプルだ。しかしながら、実行に移すとなればその難易度は絶望的なまでに跳ね上がる。机上の空論で終わらせるには、あまりにも現実の壁が厚い。


 高レベル冒険者はいつくるかわからない。

 だから、今、この戦場には一刻の猶予も許されない“時間制限”が存在している。


 ネームド狩り特有の焦燥感。

 その緊張感が、炎と怒号と血の匂いへ混ざり込み、断崖全体をぴりぴり震わせている。

 

 冷や汗が出るような綱渡りの連続だったが、なんとかここまで食らいついてきた。不屈の精神と戦略が功を奏し、条件のふたつ目まではようやく到達することができたのだ。


 聖女エルーサ。

 麻痺成功、詠唱封印、状態異常解除停止。


 戦況は今、決定的な局面を迎えている。あとは、エルーサの加護を失って剥き出しになった敵の純粋火力を上回り、ベルナデッタを削り切ればいい。


「エルーサに何をしたァァァ!!」


 空気を引き裂くような、凄まじい怒号が響き渡る。主を傷つけられた真紅の騎士が、理性をかなぐり捨てて吠え、その威圧感だけで周囲の空間が激しく震えた。


 ベルナデッタの大剣が振り下ろされる。

 ゴォンッ! ぽい~ん。

 猛烈な衝撃が走る。


 防ぎきれなかったノックバックによって俺の身体が、ほんの僅か後ろへ滑るように戦場を削った。


 被害はたったそれだけで留まった。


 俺のVITはスライムボディはもはや真紅の騎士の一撃程度で揺らぐほど軟弱ではなかった。


 《ソウルインザシェル》VIT30%補正。

 《体捌き》15%補正、さらに戦場でオークの捕食を繰り返してさらに成長したVIT。

 

 その数値はなんと1138。


 嘆きの石窟で巨大蟹と戦った時から二倍近くも伸びている。

 

 今の俺は、この点だけでいえば、もはや高レベル前衛タンクすら凌駕しているかもしれない。


 彼女の一振りは、一撃必殺の重みを持っている。しかしながら、その神速の連撃をもってしても、今の俺を“削り切る”ことは叶わない。


「くっ――!」


 ベルナデッタの真紅が揺れる。


 不敵な笑みを浮かべつつ、俺はあえて挑発するように口元を歪める。表向きは傲慢に振る舞っているものの、内心では恐ろしいほど冷静に勝利への算段を立てていた。


 もしエルーサが今も自由だったら、この戦いはさらに泥沼化して長引いていただろう。ベルナデッタを回復し、状態異常を解除し、オークたちを立て直されれば、俺たちは時間切れ、確実にジリ貧になっていたはずだ。


 その頃には最悪の事態、高レベル勢が到着してしまっていたに違いない。

 「ネームド湧いてるじゃん〜」などと能天気なことを言いながら、獲物を全部持っていかれて終わりだ。


 勝利へのピースを確実に埋めるため、ここで全ての可能性を摘み取っておく。今、この瞬間に幕を引くための合図を送る。


「ミーナ!!」


 俺は叫ぶ、ベルナデッタと、ほとんど同じ熱量で。

 同じ戦場の叫びとして、その名前を呼ぶ。

 信頼できる相棒は、即座にその声に応えた。


「フレアオーバーライド……」


 パチンッ、指を鳴らす音、彼女の魔力が大気を震わせ、勝利への確信を込めた魔法が放たれる。


「――《フレアランス》!!」


 ボッ、ボボッボッッ!!

 空気が燃える。

 炎将軍のローブを翻したミーナの周囲へ、巨大な炎槍がいくつも展開されていた。


 眼前に現れるのは、死を告げる炎の輝きだ。一本、二本、三本と増え続け、さらには視界を埋め尽くすほどの大量の槍が、ベルナデッタの頭上に展開されていく。


 いや、もっと、大量だった。

 《マナ停滞》で貯めていた魔力がファイアーウォールを越えて雨のように降り注ぐ。


『うおっ!?』『数えぐ!?』『ーー俺、スキルリセット買ってくるわ』


 視界が真っ白に染まるほどの、巨大な爆炎が弾ける。間髪入れずに撃ち込まれた炎槍が、次々と逃げ場のないベルナデッタへ突き刺さり、その身を焼いていく。


 鎧の金属が熱で赤熱し、凄まじい熱気が周囲の空気を歪める。爆ぜる火花が夜の闇を照らす中、強固な鎧が焼けてひび割れ、深紅の騎士の強靭な肉体が無惨に裂ける。

 真紅の騎士が、初めて苦悶の声を漏らした。


「ぐぁぁぁぁぁっ!!」


 逃れられぬ業火によって、彼女のHPは確実に削り取られていく。絶え間なく続くダメージが、誇り高き騎士の生命力を根こそぎ奪い去っていくのだ。


 そして、少し離れた場所。

 麻痺で震えながら、エルーサが、その光景を見ていた。

 その澄んだ瞳からは、止まらない涙が溢れ出していた。小さな肩を必死に震わせ、力なく杖を落とした彼女の姿は、あまりに痛々しい。

 何かを唱えようと懸命に唇を動かすものの、身体は言うことを聞かない。身体を貫く雷光の余韻が、彼女の慈愛に満ちた祈りを強引に遮断していた。

 喉が激しく痙攣し、意識とは裏腹に指先一つ動かすことが叶わない。俺が叩き込んだ麻痺の呪縛が、最優先事項である彼女の祈りを完全に止めている。


「ベル……ナ……」


 その振り絞るような声が、あまりにも弱々しく空気に溶けていく。一瞬だけ、俺の胸の奥がちくりと痛んだ。


 とはいえここで情けをかけるわけにはいかない、どうせ誰かに倒されるなら、俺に倒させてほしい。感傷を振り払い、俺は次の一手へと意識を研ぎ澄ませる。


 窮地に立たされてなお、ベルナデッタは最期まで高潔な騎士であり続けた。その折れぬ意志が、彼女の限界を超えた肢体を支えていた。


「ぁ……ぁぁ……っ」


 死を覚悟したのか、強靭だった膝ががくりと音を立てて崩れる。愛用していた大剣が主の手を離れ、石畳の上でゴンッと虚しい重い音を立てて転がった。


 HPバー、赤、視界に浮かぶHPバーが、警告の赤色へと染まる。死を目前にしたその数値は、あと僅かな一押しでゼロになるまで追い詰められていた。


 俺の身体は本能のままに、地を這うような低く素早い動きを見せた。無防備になったベルナデッタの懐へ一気に潜り込み、必殺の間合いを確保する。


 熱い、炎と汗。


 鼻を突くような、強烈な鉄と血の臭いが立ち込める。その混沌とした空気の中、俺は迷いなく彼女の首元へ身体を滑らせ、密着するように沿わせた。


「――!?」


 ベルナデッタの瞳が見開かれる。

 俺は、にっこり笑った。


「ーー捕まえた」


 容赦なく、俺は獲物の首筋へ細い腕を回し込んだ。逃がさないようにガッシリと胸の間にベルナデッタの頭を固定し、流れるような動作で腕を深く深く絡める。


 ぎりっーー


 気道を塞ぎ、脳へと続く血流を完全に遮断するように、絞り上げた。

『うわああああ!?』『出た!!』『サブミッション!!』


 ギリッッ、ギリギリギリッッ!


 ベルナデッタの喉から、苦しげな音が漏れる。

 死に物狂いで、騎士は最後の抵抗を見せて激しく暴れる。

 しかし、致命的な一撃を喰らい続けたその肢体には、もはや俺の拘束を跳ね除けるだけの力は残っていなかった。

 冷徹に、俺は締め上げたままスリップダメージで着実に削り込んでいく。決して削りすぎることなく、俺の目的である捕食圏内へと彼女を丁寧に追い込んだ。


 全ての計算を、最終段階である捕食のタイミングへと集束させる。寸分の狂いもない精度で、そこへ綺麗に戦況を合わせ最高の仕上げを整える。


 同時接続、数千人の目の前で、ついにベルナデッタのHPが確定のラインを割った。

 俺の瞳は、捕食者のそれへと冷たく細くなっていく。


「祈ってていいわよ……天国に連れて行ってあげる」


 俺の背後で、禍々しくも巨大な尻尾が花開くように展開された。

 ばきばき、と耳障りな音を立てて骨が組み変わり、まるで黒い花弁みたいに裂けるようにして捕食器官が姿を現した。

 内部からは、粘り気のある銀色の粘液が滴り落ちている。鋭利な牙が幾重にも並び、脈動する肉塊が獲物を求めて怪しくうごめくその姿は、まさに悪夢そのものだった。


 一滴の慈悲もなく、死の宣告を下す。


 グバァ、と花開いた尾は逃げ場を失い凍りついたままのベルナデッタの頭部へ向かって、一直線に伸びた。


少し短いですが、決着まで。

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