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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
始まりの街レアルタ編

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新たなる力:ゴブリンマスター

 俺は指先で滑らかに動くウィンドウを上下に滑らせる。

 《誘惑》による抗いがたい範囲ヘイト固定。

 異常なまでの高VITによる鉄壁の耐久。

 そして《ソウルインザシェル》による、常軌を逸したVIT30パーセント補正。なんとこれは固有のため、スキルポイントを1も振ってないのである。

 それらを見ていると、防御面に関しては、正直すでに並のプレイヤーが目指す“過剰”の領域に、どっぷりと片足を突っ込んでいる気がする。

 いや、片足どころか全身がその沼に浸かっているかもしれない。

 あの巨大蟹に正面から押し潰されかけて、にゅるん、ちゅぽんとぬめり気まじりに抜け出すタンクなんて、客観的に見てなんだよ。


「うーん……あ、でも」


 俺はそこで、ふと細い枝を見つけた。

 棍棒術初級。STRがないから無視をしていたが、これはゴブリンのダンジョンからもらったスキルでまだ一度も触れていない。


 体術と投擲は現在主力だ。とはいえ棍棒術、仮に武器を使わなくても、何かしらの派生のために振っておいたほうがいいのでは……?


 今の俺の目には妙に魅力的に見えた。


 棍棒を投擲するとか、組み合わせ次第ではどんな状況でも隙を見せないよう、苦手な距離をなくしたり……近距離では得意のサブミッションがある。中距離では自在に動く尻尾や、相手を翻弄する状態異常がある。


 けれど、ここで武器術も収めておけば、そこから派生する戦技の幅がぐっと広がる可能性がある。


「……やってみるわ」

「おおっ! いいですね、そのアグレッシブな感じ!」

ミーナが身を乗り出し、期待に目を輝かせる。


「棍棒術は……《振り下ろし》《ダブルスウィング》《怪力》を取ってみようかしら。怪力のSTR15パーセント補正なら、底辺を彷徨う低STRの私でも、貧弱から非力なりそうだし、多少はまともな攻撃手段として使えるでしょう」

「いいと思います! リエラさん、見た目は清楚なお嬢様なはずなのに、戦い方がどんどん野性的でバイオレンス寄りになっていくの最高にエモいです!」

「それ、本当に褒めてる?」

「めちゃくちゃ心から褒めてます!」


 笑顔が眩しすぎて、逆に一切信用できねぇ。

だが、彼女が言いたいことのニュアンスはわかる。

 俺の戦い方は、もう教科書に載っているような美しい剣技とか、華麗なエフェクトを伴う魔法とかではないのだ。

 無理やり掴む。ひたすら耐える。執拗に絡む。関節を極める。投擲したり、ここに棍棒が加わって?そして最後には、喰う。

 

 ……うん、これどう考えても野生の生態かな?


 三日三晩どころか最初の方は街にほとんど帰らずスライムやゴブリン啜ってたしまぁ野生か。

 

「より野生を増すため、もとい、まだ見ぬ未知のスキルツリーを派生させていくため……」

「今、リエラさんの口から野生って単語が出ましたよね?」

「一言も言ってないわよ、聞き間違いじゃないの?」

 

 俺は誤魔化すように甘酸っぱいオレンジジュースを一気に飲み込み、喉を通る甘さと酸味が舌に広がる感覚で熱くなった脳を落ち着けながら、改めて広大なツリー全体を見渡した。

 エタファンというゲームは、たとえ同じスキルを取ったとしても、その後の使い方や頻度によって派生先が万華鏡のように変わる。


 そこがプレイヤー泣かせで厄介であり、同時にどうしようもなく面白い部分でもある。

 一年分もの膨大な攻略情報がネットに積み上がっているはずなのに、未だに毎日のように未知の派生スキルが発見され続けているのも、このあまりに自由すぎる設計のせいだ。初期スキルはともかく、レベル50、80、100と進むにつれて、⚪︎⚪︎が⚪︎⚪︎したから⚪︎⚪︎が出たって言う再現性がものすごく薄い。


 他人のビルドと同じように見えて、決してまったく同じ結果にはならない。


 プレイヤーが何を好み、どんな泥臭い戦い方をし、どんな極限状況でそのスキルを使い続けてきたのかという履歴が、ツリーの先にある枝葉へ多大な影響を与えていく。

 たとえば目の前のミーナは、その点が非常にわかりやすい。

 彼女は炎魔法と魔学の初級・中級を順当に取っているが、その先には単純な一発逆転の火力を重視する一般的な魔導士とは、明らかに異質な枝が伸びている。

 燃費を極限まで高め、MP効率を上げるもの。

 コンマ数秒の世界で詠唱を短縮するもの。

 複数の術式を同時に詠唱圧縮するもの。

 そして、その遥か先にかすかな光として見える、詠唱というプロセスそのものを省略するような、究極の派生。

「私はリエラさんと楽しくおしゃべりしながら冒険したいので、無言で魔法を撃てる詠唱破棄ビルドを目指してます」


 ちゅーとオレンジジュースを飲みながらそう言う。


「志す理由がそれなの!? もっと強くなりたいとかじゃないの!?」

 思わず反射的にツッコむと、ミーナは至極当然のことを聞いたと言わんばかりに、真顔で首を傾げた。


「冒険を楽しむ上では、コミュニケーションが一番大事ですよ?」

「大事だけど、ビルドを決定する理由としてはかなり情緒的な方面に寄りすぎなのよ」

「でも想像してみてください、リエラさんが必死に敵を掴んでる間に、私がその横で『今日の夕飯どうします?』って世間話しながら炎魔法を連射できたら、絶対に楽しくないですか?」

「シュールすぎて絵面が怖すぎるわよ」

 だが、想像したその異様な光景を、それはそれで一度見てみたいと思ってしまった自分がいる。


 悔しいが、彼女のペースに飲まれている。

 俺たちのパーティは、着実に、そして不可逆的に変な方向へ進化している。


 現状ミーナはまだレベル44で、ビルドの深度としてはそこまで深くはない。

 それでも、彼女が進むべき方向性は今日の戦いではっきりと見えた。


 高速詠唱をさらに限界まで突き詰め、最終的には詠唱破棄に近い形で魔法を乱射しながら、会話も支援もリスナーへの配信対応もすべて完璧にこなす、火力型プロデューサー魔法少女。


 ……恐ろしいマルチタスク管理魔導士、おそらくそれがミーナの目指す先だ。


 一方で、今の俺はひたすらサブミッションを使い続けてきた。

 強大な敵の腕を強引に極め、脚を複雑に絡め、硬い甲殻のわずかな隙間に入り込み、自身の何倍もある巨体を相手に、理論を無視した無茶な拘束を成立させてきた。


 だからこそ、ここで体術の中級を派生させれば、これまでの経験を反映したサブミッション関連の特殊スキルが増える可能性が極めて高い。


 つまり、このままツリーを伸ばせば、俺はより一層「一度捕まえたら離さない生き物」になっていく。


「そもそもエタファンって、NPCの判断の自由度も驚くほど高いですし、プレイヤーも“自分で試して探る”という行為が根底にあるゲームですもんね」


 ミーナが柔らかそうな頬に人差し指を当てながら、感心したように言う。


「テンプレの安定ビルドもありますけど、今のリエラさんに関しては……」

「安定なんて概念、いつの話だ、ってことになるわね」

「ですね! リエラさんに安定なんて言葉は似合いません!」

 満面の笑顔で言われた。

 そこに一欠片の否定も、皮肉もない。

 俺は小さく、覚悟を決めるように息を吐き、ウィンドウの前で指を止める。

 バーの喧騒がふっと遠くなる。

 暖炉で薪が爆ぜる音だけが、耳の奥へ心地よく残る。

 結露したグラスについた冷たい水滴が、指先へじわりと冷たく触れる。

 胸元の物理的な重みが椅子に座った姿勢を微妙に変えさせ、自覚はないが尻尾が自分の心の緊張を映し出すみたいに小さく揺れている。


 不思議なものだ。


 ただ画面を操作してスキルポイントを使うだけなのに、まるでこれから自分の身体の構造そのものが、さらに作り変えられていくような奇妙な予感がある。


 いや、予感ではない、実際変わるのだ。


 だったら、中途半端に普通や平均を目指すより、行けるところまで、誰も見たことがない場所まで行ってしまった方がいい。


「……じゃあ」


 俺は自嘲気味に、けれど楽しさを隠しきれずに小さく笑う。

 ミーナが「いけー!」と言わんばかりの期待に満ちた熱い目でこちらを見ている。


「もう迷わないわ、一気に行くかぁ!」

 決意を込めて指先を伸ばす。

 まずは《棍棒術》。

 画面を叩くと、ぽん、と心地よい光の粒子が弾ける。

 初級の枝が一つずつ順番に明るく点灯し、それと同時に身体の奥底に未知の熱がじわじわと流れ込むような感覚が走った。


 肩の回転。肘の角度。手首のしなり。腰の粘り。

 膝のバネ。足裏の重心。

 あ、この感覚、武器を使えるようになる。


 まるでこのゲームシステムが、俺という個体の身体の使い方を一から再確認しているみたいに、全身のあらゆる関節へ細かな電気のような刺激が広がっていく。


「う、わ……なんだこれ……」


 あまりの感覚の鮮明さに、思わず感嘆の息を漏らす。痛くはない。

 むしろ、今までどこかぼんやりとしていた自分の身体の可動域に、一本ずつ精密なガイド線が引かれていくような、全能感に近い感覚だった。


 次に《投擲》。

 迷わず光を走らせる。

 今度は指先から肘、そして肩の付け根へかけて、目に見えない細い糸をピンと張られたみたいな鋭い感覚が生まれる。


 手の中に実体のない何かを握り、その重さを瞬時に測り、最適な角度を決め、空間を切り裂くように放つ。

 その一連の流れのような動作が、まだ実際には何も投げていないというのに、頭の中のシミュレーションで妙にくっきりと描けた。


「おお……」


 ミーナが俺の変化を感じ取ったのか、横で小さく驚き平声を漏らす。


「どうですか? 何か新しい感覚、来ました?」

「なんか……身体の動かし方というか、力の伝え方が、前よりずっと鮮明にわかった気がする」

「いいですね! リエラさんがさらに洗練された野生化を遂げていく……!」

「だからそれ、本当に褒めてる?」

「もちろんです、最大級の賛辞ですよ!」

 俺は苦笑を浮かべながら、最後に残った体術の枝へと指を触れた。

 《パンチ》《キック》


 今度は腕や足の内側の太い血管に鈍い熱が宿った。

 目に見えて筋肉が増えるという変化ではない。力の逃がし方、そして瞬発的な出力の仕方が、根本から少し変わるのだ。

 パンチ、キック、単純極まりない基本動作のひとつひとつに、強力な補正という名の重みが乗っていく感覚。

 STRの数値自体はまだ低い。

 それは変えようのない事実だ。

 だが、今までよりも少しだけ、いや確実な手応えをもって、“本当の意味で力を使う準備”が整った気がした。


「……よし、完了よ」


 俺は満足感と共に深く息を吐く。

 その瞬間、まるで俺の決断を祝福するように、視界の端でウィンドウが淡く、けれど激しく震えた。


《条件を満たしました》


 システムメッセージの文字が目の前に浮かび上がる。

 ミーナが「キタッ!」と目を見開いて叫ぶ。

「リエラさん! これ!」

「来た……本当に来たわ……!」


 今まで沈黙を守っていた灰色の枝が、ひとつ、静寂を破る音もなく眩しく光り始める。

 サブミッション……ではなく……、


 《誘惑》の先に……。


《ゴブリンマスター》


 スライムボディ、そしてゴブリン系スキル、そう来たかぁ……。

 そしてその先に伸びる、まだ解析の済んでいない謎めいた文字列。

 俺はいつの間にか、無意識のうちに深く笑っていた。

 頬が自然と緩み、抑えきれない高揚感で胸の奥が熱くなる。

 未知の力に対する怖さよりも、これから何が起こるのかという純粋な楽しさが、完全に勝っていた。


「ゴブリンマスター……なんか文字面がすごいですね」

「……やっぱり、エタファンはこうでなくちゃね。予定調和なんてつまらないわ」


 ミーナが「さすが私のリエラさん!」と隣で大きく、力強く頷く。


 ゴブリンマスターのスキルツリー……。


 《コールゴブリン》倒したゴブリンを召喚可能。

 《スクラムプレッシャー》周囲の配下の数に応じてマスター自身の攻撃力防御力が上昇。

 《不意打ちの極意》DEX、AGIに補正のパッシブ、また背後からの攻撃にダメージ補正。

 《魔物共鳴》パーティメンバーのダメージや状態異常を周囲の配下が肩代わりする。


 誘惑の先のツリーだからこそ使役、召喚になるのか、この場合ゴブリンマスターっていうかゴブリンクイーン……? 


 暖炉の火がパチパチと揺れ、バーの薄暗い照明が、俺たちの目の前に広がる可能性のウィンドウを淡く黄金色に照らす。

 次に足を踏み入れる場所で何が起こるかは、神のみぞ知る世界だ。

 でも、この誰も知らない未知を、自分の足で踏みにじるように進んでいく、ヒリヒリとした開拓の感覚こそ、俺が今この世界で一番愛してやまないものだった。


「ま、戻せばいっか、とりあえず取れるだけとって……」


 ざわっと、一瞬鳥肌が立つ様な感覚のあと……、『クイーン、ダ、クイーンガ、キタゾ』『マタ、イッショニ、アソブ』

 頭の中にゴブリンたちの声が聞こえた。

 気のせいではない、確実にけれども、不快な感じではない。これはスキルを取った時に書き換えられる感覚とほぼ同じ……。


 へぇ、暴れたがってるんだ、ふふ。じゃあ、大いに暴れてもらおうかな。俺は指先をパチンと鳴らしてウィンドウを閉じ、不敵ににやりと笑った。


「次のダンジョン、新しい力の試し撃ちにはちょうどよさそうな場所ね」


 そう言った瞬間、ミーナの可愛らしい顔もまた、遊びの延長ではない、真剣な攻略者のそれへと鋭く変わっていた。


明日から一話更新です(できそうなら2話更新します)

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