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ある日、TS金髪サキュバス系美少女になった俺はVRMMO世界を《捕食》スキルで無双する  作者: その他大勢の中で耳だけが大きくなった兎
商業都市ジュノリス編

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インスタントダンジョン

「……よし、準備はいいわね」


 私は《悪魔の髑髏》を手に静かに軽く息を吐いた。

 黒く小さな頭蓋骨は、ただの装飾品というより、こちらの意思を待っている魔術触媒のように、眼窩の奥で青白い光を揺らしている。


 新しく手に入れたアラクネビスチェは、黒と紫の蜘蛛糸が肌に吸い付くように軽く、それでいて戦闘用の補正がしっかり乗っているせいか、いつものシスター衣装よりも尻尾の動きがずっと滑らかだった。


 装備更新を終えた私たちは、元ネイキッドラオン拠点、今は新生リエラ魔王軍のクランハウスとなった館の地下訓練所……。

 そのさらに奥から入れるインスタントダンジョンに来ていた。


 情報量が多いって? 私もそう思う……クランハウスってすごい。

 ここは週一回だけ、中型以上のクランに開放されるレベリングスペースらしい。


 クレアの説明によると、クランハウスを持つような規模のクラン向けの施設で、外のフィールドとは違い、パーティの平均レベルに合わせて敵の強さが調整される。

 ここに入れること自体が、元ネイキッドラオンがそれなり以上のクランだった証拠でもあった。


「平均レベルって……すっかり忘れてたわ、ラオン捕食後の……レベルアップ……」

「わすれるものなのぉ?」

「プレイヤー吸収時リエラさん別人みたいに興奮しちゃいますよね……相手のタンク食べた時も」

「う、し、仕方ないじゃない……なんかこう、ドロッとした経験値の塊が流れてくるのよ……」

「へえ~……」

「とにかくアレよね」


 ステータスオープン


【リエラ Lv83】

 HP:4113

 MP:869

 STR:283

 VIT:1688

 AGI:579

 DEX:206

 INT:366



「うわ、あがったなぁ……」

「あがったねぇ、あ、そういえば隠しパラメーターでアバターの体重値っていうのあって、VITかAGIの高いほうが参照されるらしいよぉ、AGIが高いとちょっと軽くなるとかあるみたい」

「え……? じゃあ何、私、いま体重1.5トンこえてるの?」

「……それはわからないけどさすがにもう少し常識的な数値なんじゃない?」

「そ、そうだよね……?」


 ここで明かされる驚愕の事実……。

 そんな重いつもりはなかったけど確かにサブミッションの通りが妙に良かったときあるし……。まさかね……?


「体重はともかく、インスタントダンジョンの平均レベルですがリエラさんが83、私が84、ネネさんが121なので、3人平均は96ですね」


 ミーナが淡々と計算結果を告げた。


「平均96のインスタントダンジョン……例のゾンビダンジョンとほぼ一緒ですね」

「平均値、ネネが押し上げすぎじゃない?」

「えへへぇ、あたし悪くないよぉ」


 ネネは新装備のふわふわした上着を肩に引っかけ、毒々しい短剣をくるくる回している。

 見た目はギャングのボスみたいな派手さなのに、足音はまるでない。


 装備が似合いすぎていてモデルのようだった。


 ミーナも、炎将軍カトリーヌ・少佐服に着替えていた。

 燃えるような赤の軍服風ローブは、彼女の落ち着いた雰囲気と妙に噛み合っていて、普段よりもずっと指揮官めいた迫力がある。

火力担当というより、まるで砲兵隊の総司令官のような威厳がある。もっとも、実際に火力担当なのだから、だいたい合っているのだろう。


「それで、ここで新装備と新スキルの実戦と検証ですね」

「ええ。訓練所の藁人形だと限界があるし、ちょうどよかったわ」


 私は《悪魔の髑髏》を軽く掲げた。

 髑髏は私の手を離れ、肩の後ろあたりへふわりと浮かぶ。

 自動で浮遊して死霊術の補助に入るのは便利この上ない。とはいえ、その絵面はどう見ても完全に悪役のそれだった。


「あれ、リエラちゃん70越えたっては次のツリー出てるんじゃない?」

「あ、それもそうね」


 ラオンを食べた経験値でレベルは一気に83まで跳ね上がった。

 その結果として、死霊術・中級のツリーが解放されていた。

 武芸はまだだった。もともと強力なスキルだし解放条件が厳しいのかもしれない。

 まずは一つ一つ使用感を確かめるため、死霊術の中級を伸ばすことにする。


 本来70で上級までの解放、死霊術はもしかすると爆炎魔法のように複合ツリーなのかもしれない。どうせなら上級まで開放してほしかった、なんて、獲得経緯を考えると贅沢は言えないか。

 ちなみに普通のプレイヤーなら70で上級、そこからプレイ履歴に基づいてあとはユニークなスキルツリーに変化していく。

 例えばラオンの《ベルセルク》のように一癖も二癖もあるスキルだ。

 私の場合先にエクストラスキルが解放されているから90以降はもうどうなるか見当もつかない。楽しみでもあるけれども。


 新しく出た死霊術のスキルは全部で四つある。

 どれも一癖ありそうな能力ばかりだ。

 《ネクロマンス》骨兵やゾンビ兵を呼び出す。

 《ボーン・クラフター》骨や死体を合体させる、集中力は必要だけど、時間をかければ戦車とかも作れるみたいだ。

 《ネクロ・リンク》召喚した骨兵やゾンビ兵の攻撃を召喚者の能力値を参照してボーナスを与える。

 《ネクロ・バインド》地の底から死霊の手を伸ばし、拘束しながら状態異常をばら撒く。


 説明を見たところでどうせあんまりわからないんだ。

 インスタントダンジョンでぶんぶんスキルを回してみよう。


「よし、今度こそ本当に準備できたわ」

「はい、私も大丈夫です」

「いこいこ~♪」


 目の前のダンジョンは、石造りの回廊だった。

 床も壁も天井も灰色の石でできていて、ところどころに古い紋章のようなものが刻まれている。空気は乾いていて、足音が反響し、奥の暗がりからは石が擦れるような低い音が聞こえていた。


 やがて、迷宮の奥から最初の敵が姿を現した。それは鈍い音を立てて歩く無骨な石像兵だった。

 人型の石像に、剣や槍や盾を持たせたようなモンスター。

 顔は無表情で、目だけが鈍く青く光っている。こちらを包み込むように現れたその数は、決して少なくないようだ。


 しかも、この敵は明らかに捕食不可の対象であるらしい。

 ごちそうを前にした時のように尻尾が全く反応しないからだ。


 正確には物理的に食べられないわけではないのかもしれないが、そこに強い感情や経験といった芳醇な味は存在しない。この石像兵は、単純に無機質な経験値としての味しかしないタイプのようだ。


 正直今日はお腹いっぱいだったから助かった。


 ラオンから味わったあの濃密な味は、あまりにも危険すぎた。

 あれを知ってしまったあとで、何でもかんでも捕食で解決しようとすると、たぶん私はどこかで精神的におかしくなってしまう。


 だからこそ、システムが用意した無機質なこういう相手は練習にちょうどいい。

 たとえ無理やり食べたとしても、ひたすらに味気ないだけだ。

 地道に倒してスキルを回し、しっかりとパーティで連携して戦う。戦闘の基本に立ち返るための相手としては、決して悪くない相手と言えるだろう。


「さてと、行くわよ!」

「はぁい」


 私が声を張ると、ネネが声を残して先に消えた。

 正確には走っただけなのだが、速すぎてほとんど消えたように見えた。


 毒々しい短剣が低い軌道で閃き、最前列の石像兵の膝関節を切る。

 石像なのに関節という概念があるのかはわからないが、どうやらあるらしく、膝を砕かれた石像兵が前のめりに崩れた。


「硬いけど、動きは素直だねぇ」


 ネネは笑いながら、倒れた石像兵の頭部へ短剣を叩き込む。

 蜘蛛の巣のようにひびが走り、石像兵があっけなく光の粒子となって砕け散った。彼女の単体処理の速度は、相変わらず目を見張るものがある。

 その鮮やかな手際に感心していると、次に動いたのはミーナだった。


「まずは爆炎魔法の確認をします」


 ミーナの杖先に、火が灯る。

 今回、彼女のスキルツリーはかなり変わっていた。

 風魔法、炎魔法、土魔法の初級を経由し、それらが派生して爆炎魔法という系統が出ているらしい。

 それは対象を燃やす純粋な炎ではなく、圧力や爆風、そして破砕の属性を混ぜ合わせた特殊なタイプだ。硬い装甲を持つ石像兵との相性は、たぶん悪くないはずだ。


「圧縮たる熱素よ、臨界の閾を越え、爆ぜろ、《ブラストフレア》」


 彼女が詠唱を紡ぐ。爆炎魔法のもうひとつの欠点は詠唱文が長いことである。

 普通に魔力を込めて、詠唱文を間違えないように発音し、魔法として放つ。


 ファンタジーゲームのロマンが詰まっているが結果、実践値としては低めであるというのが世間的な評価だ、しかし、少佐服の強力な補助が入っている影響だろう。

 魔法の発動速度は、以前使っていた初級魔法と大きく変わらないほどの速さだった。


 小さな火球が石像兵の群れの中心へ飛び、着弾した瞬間、炎ではなく爆ぜるような衝撃が広がる。

 石の身体にひびが入り、数体がよろめいた。


「うわ、石に効くタイプの炎ね」

「爆風と熱膨張で内部に亀裂を入れる感じですね。火力ビルドのままでも、初級なら素早く運用できそうです!」


 ミーナが少し嬉しそうに言う。

 その横を、ベルナデッタが駆けた。

 真紅の騎士は大剣を構え、石像兵の前列を真正面から受け止める。


 ミーナの爆炎がベルナデッタの肩越しに石像兵へ飛ぶ。

 熱風がベルナデッタの鎧を舐める。

 けれど、彼女は退かない。

 私のVITの一部を引き継いでいるからだろう。

 もちろん完全に無傷というわけではない。それでも彼女の防御力は圧倒的に硬く、揺らぐことはない。


 痛いし熱いし、普通なら思わず後ろへ下がってしまうような厳しい場面だ。

 そこをじっと耐えて踏みとどまり、味方の火力を確実に通すという役目を、今はベルナデッタが立派に果たしてくれている。


「ベルナデッタさん、右から二体来ます!」

「承知」


 ベルナデッタが大剣を横に払い、二体の石像兵を押し返す。

そこへミーナの爆炎が重なり、石像兵の胴体に大きなひびを入れた。

すぐ後ろで、エルーサが高速詠唱を紡ぐ。


「癒しの光よ、戦場に留まりし者を支えよ」


 淡い光がベルナデッタを包み、削れたHPを戻していく。

 彼女の支援は驚くほど早い。詠唱が短く、回復のタイミングも的確だった。

 エルーサは派手な攻撃こそしないが、彼女がいると前線の安心感が段違いになる。

 仲間たちが完璧な連携を見せている以上、次は間違いなく私の出番というわけだ。


「私の番ね!」


《悪魔の髑髏》の眼窩が青白く光る。

 私は手を伸ばし、死霊術の魔力を流し込んだ。


「《ネクロマンス》」


 床の石畳の隙間から、冷たい白い光が漏れる。

 詠唱の直後、硬い石を突き破るようにして無数の骨の手が勢いよく突き出してきた。

 一体、二体、さらには三体と、次々に不気味な骨兵たちが立ち上がっていく。

 さらに、その隣から、土気色のゾンビ兵がゆっくりと這い出してきた。


 ゴブリンたちと違って、こちらを見上げてへへっと笑ったりはしない。

 彼らはただ主の命令を待つだけの、文字通り中身が空っぽの兵隊だ。

 複雑な意思疎通を図ることは難しいだろう。その代わり、与えられた指示以外の余計な行動を一切しないという利点がある。


「前へ。石像兵を止めなさい」


 私が命じると、骨兵とゾンビ兵は一斉に動いた。

 彼らは躊躇うことなく前進し、石像兵の強固な群れへと激しくぶつかっていった。

 呼び出した兵士たちは、単体では決して強いとは言えない。しかし、今の私には彼らを圧倒できるだけの十分な数がある。

 執拗な群れの攻撃に晒され、さすがの石像兵も目に見えて動きが鈍り始めた。


 続いて、《ネクロ・リンク》を確認する。


 私を中心に青白い糸のような魔力が伸び、骨兵たちと私をつないでいる。

 私の能力を参照する、とあるが、逆に骨兵やゾンビの攻撃が、私の攻撃として扱われている。威力はさすがに本体ほどではないが、コンボカウントがゴリゴリと増えている。

 骨兵の剣が石像兵の腕を叩くたびに、システム上のコンボカウントが確実に増えていく。

 ゾンビ兵の鋭い引っかきが石の胴を削り取ることで、さらにコンボが加算されていく。

 別の骨兵が盾で力強く押し込む動作すらも、攻撃の一手としてコンボを増やし続けていた。

 私自身はまだ大きく動いていないのに、視界端のコンボ表示がぐんぐん積み上がっていく。


「うわ、これ結構エグくない?」


 簡単に言うとコンボ値が上がるとダメージボーナスが乗る。

 そのカウントが増えやすくなるということだ。1体でも骨かゾンビが残っていれば長期戦でもコンボが途切れなくなる可能性が出てきた。


「わお……」


 思わず声が漏れた。

 コンボが一定数を超えたので、私は機を逃さず一気に前へ出る。

 隙だらけになった石像兵の一体へ、渾身の掌底を打ち込んでみせた。

 放たれたのは武芸の技である発勁。

 内部から破壊の連鎖が起き、硬い装甲が脆くも砕け散る。

 完全に崩れ落ちた石像兵は、まばゆい光の粒子となって空間へ消えていった。


「これは……気持ちいいわね」

「リエラさん、また涎でてますよ」


 ミーナが横から注意する。


「今のは捕食じゃないからセーフでしょ」


 私は笑いながら、さらにスキルを重ねた。


「《ボーン・クラフター》」


 倒れた骨兵、砕けた骨片、余ったボーンソード。

 それらをまとめ、巨大な骨盾へ変える。

 骨盾はベルナデッタの横に立ち、前線を広げた。

 さらに骨兵を追加し、今度は骨の槍束へ変える。

 石像兵の足元へ突き出し、動きを止める。


 そこへネネが飛び込んだ。


「お、足止め助かるぅ」

 ネネの短剣が石像兵の首元を切り裂き、毒エフェクトは出ないが、クリティカル判定だけが綺麗に入る。

 致命傷を受けた石像兵が、音を立ててその場に崩れ落ちた。

 間髪入れずにミーナの爆炎が追撃として降り注ぐ。

 その後方では、エルーサの癒しの光が最前線のベルナデッタをしっかりと支え続けていた。

 それぞれの役割が、自分でも驚くほど見事に噛み合っているのを実感する。

 元々のゴブリンマスターが使役の力であり、基本の死霊術が魔法であるならば、この中級死霊術はまさに自分に有利な戦場を作り上げるための技術だった。


「《ネクロ・バインド》」


 試しに唱えると、床の石畳が黒く濡れたように変化し、底から死霊の手が伸びた。

ぞっとするような不快な音が薄暗い回廊に響き渡る。


 無数に伸びた呪われた手が、足元の石像兵たちを次々と絡め取っていった。

 毒や麻痺といった状態異常は無機物の石像相手には効果が薄いようだが、動きを遅くする鈍化だけはしっかりと入ったようだ。

 目に見えて敵の進行スピードが遅くなり、反撃の隙がさらに大きく広がっていく。


「石像でも鈍化は通るのね」

「状態異常判定があるなら、ボスにも臨機応変に入るかもしれません、使い得ですね」


 ミーナが即座に分析する。


「じゃあ、ボスで試しましょう」


 私はにやりと笑った。


 そこから先の攻略ペースは、驚くほど早かった。

 敵の増援は相変わらず多い。

 しかし、今の盤面を支配する私たちは多対多の乱戦にめっぽう強いのだ。

 ネネが強そうな個体を削り、ミーナが群れを砕き、ベルナデッタが前線を支え、エルーサが癒し、私は死霊術で盤面を広げる。


 石像兵は私たちの新しい連携を試す戦闘訓練の相手としては、かなり優秀なサンドバッグだった。


 骨兵を頑丈な盾にしつつ、ゾンビ兵の群れで敵の足を止める。そこからボーン・クラフターで巨大な防壁を築き上げ、ネクロ・リンクでコンボを確実に伸ばしていく。

 隙を見て強烈な発勁で敵の芯を砕き、ネクロ・バインドで敵の群れ全体を鈍らせる。


 それを繰り返しているうちに、私たちはあっという間にインスタントダンジョンの最奥へ到達していた。


 石造りの回廊が開け、巨大な扉が現れる。


 扉の表面には、無数の石像兵が跪くような彫刻が刻まれていた。

扉の隙間からは、息が詰まるほど重い魔力が漏れ出している。間違いなくこの先が、迷宮の主が待ち受けるボス部屋だ。


「ここまで、思ったより早かったですね、レベルも3個あがりました……」

「平均レベル引き上げてるあたしに、感謝だねえ」

「はい、ありがとうございます、ネネさん!」


 普通レベル上がったら低いほうが困ったり高いほうの負担が増えたりなんだけど……。

 まいっか、相変わらずモンスター相手には私の経験値はちょびっとしかあがらないし、再び捕食の欲求が沸き上がるが、首を横に振りそれを振り払う。


「新装備と新スキルの検証としては、上々じゃない?」


 ネネが短剣を逆手に持ち替える。


「ボス、硬そうだねぇ」


 ベルナデッタが大剣を構え、エルーサが祈りの準備を整える。

 私は《悪魔の髑髏》を浮かべ、背後に骨兵たちを並べた。

 待ち受けるダンジョンボスは、私たちの平均レベル九十六にぴったりと合わせた、強大な石像兵たちの親玉だ。

 捕食による豊かな味は到底期待できそうにない。それでも、この新しい力を使って試してみたいことはまだ山ほど残されている。


「それじゃあ、仕上げに行きましょうか」


 私は重厚な扉へ手をかけ、不敵に口角を上げた。


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