表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/73

第61話 チェーンのチェーン店・釘のネイルサロン〜加盟店募集中〜⑤

マルセルは拳を握りしめ、声を張り上げた。

「でも……でも! 詐欺なのは間違いないんですよ!」


シエナがこめかみを押さえる。

「うわ、出た。“でもでも”タイム突入っす……。」


マルセルは震える手で封筒を数通取り出し、カウンターに叩きつけた。

「契約書には“経営指導があります”って書いてあったんです!

 なのに、現場には一度も来てくれない! 送られてくるのは――こんな手紙ばっかりだ!」


ルオが一枚つまみ上げ、ざっと目を通す。

文面には、整った字でこう書かれていた。



『売上が伸びない原因は“立地の動線”と“客層のミスマッチ”にあります。

人通りが多いだけでは購買には結びつきません。

貴族・商家層の導線に合わせた立地変更を推奨します。』



ルオは眉をひそめ、ページをめくった。


『値下げによる誠実さの演出は、長期的にブランド価値を損ねます。

“誠実さ”とは安さではなく、品質と姿勢によって伝わるものです。』


ルオは手紙を二、三枚ぱらぱらとめくり、鼻で笑った。

「……全然詐欺じゃねぇじゃねぇか。

 むしろ、めっちゃちゃんとしてんじゃん。現場に来ないでこれだけの指示出せるんだったら、本部、有能すぎるだろ。」


マルセルは顔を真っ赤にして反論する。

「い、いえ! 手紙だけ送られても意味がないんです!

 現場を見てない人間に何がわかるっていうんですか!」


シエナが即座にぼやいた。

「いや、ちゃんと書いてあるやつ無視してる時点で、

 もう現場とか関係ないっすよね……。」


リシュアが別の手紙を手に取る。


『在庫は資産にも負債にもなります。

“動かない在庫”は、“考えない経営”です。』


ルオが吹き出した。

「“考えない経営”……すげぇな、直球でバカにされてるぞ。」


マルセルは耳まで真っ赤にして叫ぶ。

「う、うるさい!! 手紙なんて読む気になれないんです!!」


ルオは腕を組み、ため息をついた。

「読む気になれない、ねぇ……。

 誠実って言葉を盾にして、何も学ばねぇ奴の典型だな。」



リシュアは無表情で言い放った。

「……死ぬまで治らんな、これは。」


ミモザが腰に手をあてながらを揺、優しく言った。

「ルオちゃん、そこをなんとかしてあげてよ……このままだと潰れちゃうわ。」



「そうだなぁ、仮にこの店の経営を立て直してもこのままだと同じだよなぁ…」

ルオは手紙をパタンとテーブルに置くと、ふっと深呼吸した。

顔ににやりとした笑みを浮かべ、目をきらりと光らせてから、ゆっくりと言葉をためて――明るく高らかに宣言した。




「よし、一回、殺しちゃうか!」


シエナが思わず跳び上がる。

「物騒すぎるっす!!!」


ミモザが肩をすくめ、乾いた笑いを漏らした。

「可哀想だけど、仕方ないわね……本当に、仕方ないのよ?」


マルセルが震える声で訊ねる。

「私に――いったい何をするというのですか?」


ルオは肘をつき、にやりと笑った。

「光の力でマルセルさんを生まれ変わらせるんだよ。」


シエナが目を丸くして叫ぶ。

「光の力ってなんっすか!?」


ミモザが片目を細めて続ける。

「正しくは“光と闇”ね♡…可愛そうに…」


そして、ルオは胸を張って得意げに宣言した。

「そう。光と闇の社員研修《"ライト・アンド・ダークネス・アンドラゴジー"》。

 かつて闇の企業が生み出した、光の戦士を育てるための特別プログラムだ!」


リシュアが冷静に首を傾げる。

「……闇の企業が生み出した光の研修、だと…?」


シエナが即座にツッコミを入れる。

「それ、どっちもダークネスっぽくないっすか!?」


ミモザが肩をすくめてウインクする。

「まあまあ、ネーミングはともかく、要は“根性と常識の再教育”よ♡」


ルオがにやりと笑い、マルセルに向き直る。

「安心しろ。方法はいろいろある。痛みを伴わないやつから、ちょっと意地悪するやつまでな。

 でも最終的に、“商売人として使える人間”に変えるのが目的だ。」


シエナが口をパクパクさせた。

「それって…痛みを伴うやつも、すごく意地悪するやつもあるってことっすよね…?」


ルオは笑顔のまま立ち上がる。

「帰ってくる頃には、マルセルさんも立派な“光の戦士”になってるだろ。」


ミモザが軽く手を挙げる。

「じゃあルオちゃん、マルセルさんは連れてっちゃうから、お店の立て直しはよろしくね!」


ガシッと、ミモザがマルセルの腕を掴む。

その力強さに、マルセルは情けない声を上げた。

「ちょ、ちょっと待ってください!? 光って、な、何をするつもりなんですかぁああ――!!」


扉の外に消えていくマルセルの叫びと、シエナの呑気な声が重なる。

「……頑張るっす、マルセルさん!」


――《光と闇の社員研修(ライダー)》開始。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ