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第52話 ピノワ島リゾート詐欺のテーマパーク〜技能実習中〜③

【動物フォト詐欺】


「で、最新の詐欺ってなんすか?」


ルオが口角を上げ、指を鳴らした。

「間違えるな“動物フォトビジネス”だ。」


「また変な単語作ったっすね……」

シエナが湯気の立つカップをくるくる回す。

リシュアは無言で椅子の背に寄りかかった。


ルオはうさぎを抱き上げ、陽光の下で白い毛並みを撫でながら、

まるで新製品のプレゼンをする経営者のように語った。


「聞け。観光客が写真撮ってるとこに珍しい地元の動物を連れてって、

 “せっかくだから撮りましょう”って言うんだ。

 で、撮らせたあと“記念代”“餌代”“友情代”の名目で請求する。

 極めて合理的だ。」


「……詐欺を合理って言うのやめろ。」リシュアの声は冷たい。


「で、何の動物使うんすか?」


ルオは伏し目がちに

「ミニハムズはちっちゃすぎる。だから……野うさぎだ。」


「……うさぎ。」

「うさぎなのだー!」


 「仕組みは単純――だが革命的だ。

 いわば、“プリトラスト・マーケティング”だな。

 取引の前に信頼を作る……いや、“信じさせる”。

 商品説明よりも先に、“動物のとっつきやすさ”で利用の障壁をさげる。」



リシュアは半眼でうさぎを見た。

「……うさぎで信頼を構築するのか?」


ルオは真顔で頷く。

「そうだ。うさぎは“安心のデバイス”だ。

 人間は、毛並みの柔らかさの前では抵抗できねぇ。

 つまり俺たちは“心理的バリアの除去”を外注してるんだ。

 購買行動のボトルネックを削る――これはもう立派なビジネスモデルだ。」


シエナは口をあんぐり開けたまま。

「……つまり、“かわいさで財布を緩くしてる”だけっすね?」


「そして“反恩性”だ。普通の商売は“ありがとう”を売る。

 だが俺たちは“悪い気がする”を売るんだ。

 『写真撮ったのに払わないのは可哀想』――

 その罪悪感こそが再現性のある収益モデルだ。」


その時チビハムの1人が

小さな腕にうさぎを抱きかかえ、シエナの元にやってきた。


「おねえしゃん……うさぎさん、なでてあげてなのだ〜」


シエナは両手で顔を覆った。

「か、かわいすぎるっす……!

 絶対、絶対、予想通りのオチが待ってるっす……!」


リシュアは長い息を吐いた。

「……お前、この状況で“ひりつく”と言っているが

 本気で成立すると思ってるのか?」


ルオは腕を組み、真剣な顔で頷いた。

「思ってる。あれは信頼の先行投資だ。可愛いで油断させてからが本番だ。」


シエナが苦笑しながら茶をすすった。

「……ルオさん、うさぎにとチビハムに夢中で誰も財布も心も閉じないっす。」


リシュアは目を細めた。

「……お前もう、わかっててやってないか? 詐欺が成立しないのを承知で。」


ルオは不満げに顔をしかめる。

「やってみなきゃ分からねぇだろ。真の成功ってのは挑戦の先にあるんだ!!!」

 

「へけっ! でもこの詐欺がいっちばんお稽古したのだー!」

ハミュは誇らしげに胸を張った。




※※※




――数十分後。


通りの広場には、ご婦人たちが列をなしていた。

ミニハムズと野うさぎが並び、花飾りをつけておすまし顔をしている。


「こっち向いて〜!」

「まぁ、なんて可愛いの〜!」

「うさぎさん、こっちも向いて〜!」


「ぴょんっ」「ぴょんっ」

ミニハムズと野うさぎが同時に跳ねる。


「きゃー! 今の撮れた!? ねえ撮れた!?」

「この子たち、島の子? お行儀いいわねぇ〜!」


笑い声が通りに広がり、シャッター音が絶え間なく響いた。


ルオは額を押さえ、うめいた。

「……あいつら、もう完全にマスコットじゃねぇか。」


シエナが肩をすくめた。

「ルオさん、“詐欺”っていうより“観光資源”になってるっすね。」


リシュアも頷いた。

「もはや自治体イベントの域だな。観光地の正しい姿だ。」


二人が穏やかにお茶を飲む中、

ルオだけが額に手を当てて空を見上げる。


「……笑顔が溢れてやがる……地獄だ。」


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