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46話 ラブレター・フロム・ピノワ〜督促状執筆中〜③

夜。

ピノワ島の宿の一階は、潮風が入り込み、ランプの炎が揺れていた。

テーブルには古びた地図と、湿った木の香り。

ひまわり油での交易で手に入れたわずかな食料で、細々とした夕食をとっていた。


リシュアが腕を組んだまま言う。

「それで、どうするつもりだ? こんな場所で“ビジネス”といっても、得るものはないだろう。」


シエナもパンをちぎりながらうなずく。

「そっすよ。ハミュちゃんさん達から、ひまわりの種をもらっても……使い道ないっす。」


ルオはコップの水をくるくる回しながら言った。

「そうだな……この島には何もないと言ったが、正確にはひとつだけ“ある”んだ。」


「何があるんすか? “何もない”がある、とか言わないっすよね?」

「シエナ、お前は何を言っているんだ。」


ルオは目を細めた。

「――“バルメリア市民への貸し”だ。」


「バルメリア市民への……貸し?」

リシュアの声が低くなる。


「200年以上前、ピノワ島は多種族が共存する豊かな島だった。

 だがバルメリア市とバルメリア商人連合《商環会》が経済力を盾に、ピノワ島を併合。ひまわり栽培を強制した。

 

当時は油が灯りの主力だった。彼らは油を買い取り、代わりに食料を売る。

 ……つまり、生命線を握られていたんだ。」


ランプの灯が、ルオの指の影を壁に映した。


「島民は言い値で売るしかなかった。

 だが、魔導灯が発明され、油の需要は一気に消えた。

 金は途絶え、食料は買えなくなった。

 ひまわりの種で生きられるハムスター獣人だけが、この島に残った。」


シエナが小さく呟く。

「……じゃあ、ピノワ島はずっと“取り残されてる”ってことっすね。」


ルオは静かに頷いた。

「そうだ。ピノワ島は――バルメリアに“貸し”ている。

 搾取され、忘れられ、それでも笑っている。

 本来なら、王都が真っ先に返すべき“借り”を、まだ誰も返していない。」


「ルォサァン!そうなのだ!

 大きな貸しがあるのだ!! バルメリア市はボクたちから全部持ってったのだ!……うぇーん!!

 だからボクのために取り返してほしいのだ! ボクは応援だけしてるのだ!へけっ!」


ルオは半眼になり、指先でテーブルをコツコツ叩いた。

「……お前その頃、生まれてもいないし、何も取られてないだろ。」


リシュアは眉間にしわを寄せ、冷ややかに言う。

「……こいつは“世界が自分に謝るべき”みたいな顔をしてるな。」


ルオはにやりと笑って言った。

「まあ、ハミュのためかどうかはともかく――二百年分の貸し。

 利子もつけて、きっちり返してもらおうじゃないか。」


そう言うと宿の隅から茶色い包装に包まれた大きな紙束を持ち上げ机にドサリ…と置いた。

「よし、書くぞ。」

羽ペンをくるくる回しながら、満足げに言い放つ。


「書くって…何をだ?」


「二万枚の――督促状だ!!」


「……二万!? 督促状!?」

シエナとリシュアが同時に叫んだ。


ルオは肩をすくめ、飄々と笑う。

「物騒に聞こえるか? じゃあ言い換えよう。」

少し顎に手を当て、わざと間を取って――


「そうだな、もう少し“柔らかく”しよう。

 二百年分の愛を込めた――《ラブレター・フロム・ピノワ》!」


「どっちも中身変わってないっす!!」

シエナが頭を抱えて叫ぶ。


「へけっ!? らぶれたー!? ロマンチックなのだ〜!!」

ハミュは感動したように胸を押さえている。


リシュアは呆れ顔で椅子にもたれかかり、ぼそりと呟いた。

「……脅迫にリボンをつけただけだな。」


2万通…きついっすよね…

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