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45話 ラブレター・フロム・ピノワ〜督促状執筆中〜②

宿の一室にて


「“選ばれなかった者たちが……殴り合いに……ならないっす!!”」


シエナが叫びながら飛び起きた。

額に汗、喉はカラカラ。外からは波と風の音が混ざって聞こえる。


「……はっ、夢っすか……!!」


「どんな夢を見ていたのだ?」

リシュアが低い声で言い、水指を枕元に置いた。


「ありがたいっす……ゲボ吐きすぎてポルト=リュミエールで見た干物にみたいになるかと思ったっす……」

喉を潤しながら、シエナはふらふらと身を起こす。


「少しは気分が良くなったか?」

「なんとか大丈夫っす。……ルオさんは?」


リシュアが机の上の紙片を拾い上げる。

「書き置きがある。“先に案内人の言う悲惨な現実とやらを見てくる”……と。」


「悲惨な現実……?」

シエナが小首を傾げる。

窓の外からは穏やかな潮風と、遠くで笑い声のようなものも聞こえる。


「桟橋から宿までは、この島の“顔”のはずなのに……どこも貧しかったっす。

 壊れかけの建物、錆びた看板、道端に転がる古い荷車……本当に貧しいんすね…この島」


リシュアは腕を組み、低く唸った。

「それに、案内人の“ハミュ”とか言ったか。

 あの子、やけに疲れ切っていた。子供なのに、まるで人生を諦めたような顔をしていた。」


シエナはため息をつき、ぽつりと呟いた。

「この島……なんか重いっすね。絶対に何か"ある"っすよ」


リシュアは答えず、窓の外を見つめた。

遠くの波が灰色の空に溶けていく。


――その時、階下から足音と扉の音が響いた。

潮風とともに、聞き慣れた声が戻ってくる。


静かな部屋の空気が、少しだけざわめいた。


※※※


階段を降りると、潮の匂いがふっと鼻をくすぐった。

ロビーにはルオと、あの案内人――ハミュ・トロワがいた。

ルオは腕を組み、何かを考え込んでいる。


「この島……やっぱり、何か"ある"っすか?」

シエナが恐る恐る聞く。


ルオが重々しく口を開いた

「そうだな…」


「…ない」


「…まったく何もない…」


そしてルオはゆっくり首を振り

「本当に何もない。資源も、観光も、産業も、――何も、だ。」


「主要産業は、今や誰も買わない“ひまわりの栽培”だけだ。

 油の需要がなくなって、仕事も商人も全部消えた。」


リシュアはうなずき、ハミュを見やる。

「つまり……そこの子のような子供でも働かなくてはいけない。

 それがこの島の“辛い現実”ということか。」


「ハミュちゃん……可哀想っす……」

シエナが小声で呟く。




ルオは少し肩をすくめた。

「いや、それもない。」


「え?」


「確かに資源も産業も、ありとあらゆるものが欠けている。

 だが――島民は大好きな“ひまわりの種”を食べて、毎日それなりに幸せそうだったぞ。」


「え……?」

シエナが間抜けな声を出す。


「でもハミュちゃん……絶望的な顔で、疲れ切ってるっすよ?」



「それは単にこいつが怠惰で、おっさんで、後ろ向きだからだろ。

 島を案内されてる時もネガティブすぎて、何度もうんざりさせられた。

 それにこいつ、こう見えて三十近いぞ。ハムスターの獣人じゃ後期高齢者だ。」


「!!? 年上っすか!? は、ハミュさん!!」


「ルォサァン……ひどいのだぁ……!

 ボクはただ頑張って“現実を正しく伝えようとした”だけなのだ……!

 でも誰も聞いてくれないのだ……世界がボクに厳しいのだ……!」


ルオはうんざりした目でハミュを睨みつけた

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!……でもボクのせいじゃないのだ!

 世間がボクにつめたすぎるのだ! 坂も多いのだ! へけっ!」


リシュアが淡々とまとめた。

「つまりこの島は、本当に“何もない”ということか。

 絶望も、希望も、まともなガイドもいない…」


ルオが無言で額を押さえる。

「この島には何も無い……やっぱり訂正だ。今、怒りの感情は生まれた」


".選ばれないかったものたち"って響きが気に入っている模様。

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