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42話 誰かの事を考えて過ごす普段通りの1日〜生活指導中〜①

リシュアとルオのデート会

クル・ノワ地区、灰色の煙突からうっすらと白い煙が上がり、遠くで露店のベルが鳴る。

ルオとリシュアは、カフェの軒先のテーブルに向かい合っていた。


リシュアがコーヒーを置き、腕を組む。

「ところでルオ。この間、シエナが聞き捨てならんことを言っていたな。」


「“ うわー!ヤバいっす!殴り合いに!!

……ならないっす!!!

全員、襟つかんでユッサユッサしてるだけっす!”ってやつか?」


「……全然違う。

 “実地調査という名のデートに行った”と言っていた。……確かか?」


ルオはパンをちぎりながら、あっさりとうなずいた。

「まあな。なかなか有意義な一日だったよ。

 “情動式遊戯”の原型も思いついたし。」


リシュアの眉がピクリと動く。

「……お前は……シエナの気持ちを少しは考えてやれ。」


「考えてるさ。彼女の“情動データ”は貴重な――」

「そういう意味じゃない。」


沈黙。

路地の向こうからパン屋の笛が鳴る。


リシュアは深くため息をついた。

「やはり私が一日付き添って、性根を叩き直す必要があるな。」


リシュアは真顔のまま言った。

「今日は一日、詐欺のことは忘れて過ごせ。」


ルオが首をかしげる。

「商売な。」


「商売のこともだ。」

「え、じゃあ何考えればいいんだ?」


リシュアは眉間に皺を寄せ、指をぴしりと立てた。

「何も考えるな。考えているようなら――私が厳しく指導する。」


「……つまり一日ついてくるってことか?」

「そういうことだ。」


「はは、監視つきの更生日ってわけか。」

「監視ではない、指導だ。」


ルオはコーヒーを飲み干して、口角を上げた。

「で、どこか行きたいところあるか?」


「そういうことを言っているのではない!」

リシュアの声が一段高く響く。

「お前は一日“普通に”過ごせばいいのだ!」


「普通に、ねぇ……」

ルオは顎に手を当てて考え込む。


「……それに、そういうことは本来、男が考えるものだろう。」


「わかったわかった。」

ルオは立ち上がり、外の陽射しを見上げた。

「一日“普通に”、行きたいところに行って、やりたいことをやればいいんだな。たまには普通の休日を過ごすか!


※※※


モンマール区・トワ通り。

朝の光が石畳を照らし、通りは若者たちの笑い声で満ちていた。

ショーウィンドウには煌びやかなアクセサリーや色鮮やかな化粧品。

屋台では香辛料、甘い焼き菓子、安物の香水が入り混じった匂いが漂っている。

魔導インクで描かれたネオン文字が、路地の壁に踊っていた。


ルオが周囲を見回しながら言う。

「いやあ、なんかこう……流行の最前線って感じだな。

 リシュア、こういうとこ来たことあるか?」


「ない。」

返事は一言。だが、視線は明らかにあちこち動いている。


ルオがにやりと笑い、店先を覗き込む。

「ほら見ろ、この粘膜系ライナー、再入荷してるぞ。

 秋の新色も出てる。名前が変なんだよな、“溶けかけた星屑”とか。」


リシュアは眉をひそめる。

「化粧品にそんな名をつける必要があるのか?」


「ロマンだよ、ロマン。」

ルオが軽口を叩きながら、隣の店に目を向けた。


「お、隣は輸入品か。エストラ産の化粧品は安くて質もいいんだぜ。

 ……ま、リシュアが普段使ってるやつに比べたらだけどな。」


「比較の対象にするな。」


ルオが笑いながら小瓶を取り上げる。

「このプランパー兼グロス、有名なんだよ。試してみろって。」


リシュアは半信半疑で塗ってみる。

「……ん? 辛っ!? 唇がヒリヒリする! 嫌がらせか!」


ルオは真顔で言った。

「ほれ、縦皺が消えて綺麗だよ。」


リシュアが訝しげにルオを見る。

「……どうした、黙って。」


ルオは視線を外し、ぽつりと呟く。

「いや……ちょっと引くくらい、似合ってるな。」


リシュアが少しだけ息を詰め、目を逸らした。

「……軽口はやめろ。」


「軽口じゃねえよ。本気で言ってる。」


リシュアは小さく咳払いし、瓶を棚に戻した。

「……そうか。なら黙っていろ。」


通りの喧騒の中で、リシュアの耳だけがほんのり赤かった。

粘膜ライナーまじで品切れしてて見つかんないっすね。

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