33話 新型デート商法〜ハグの確率抽選中1/350〜④
ギルドのテーブル。
魔導ランプの灯りが金貨を照らし、数字の列がまるで踊っているように光っていた。
「ひーー!! びっくりするような金額が入ってきてるっす!!!」
シエナが帳簿を覗き込み、目をぐるぐるさせる。
ミモザがグラスを傾けながら、唇の端を上げた。
「“情動式遊戯”、うまく回ってるみたいね♡ 本当にやるじゃないルオちゃん♡」
ルオは指で帳簿を軽く叩きながら、にやりと笑う。
「ミモザが紹介してくれた娘たちが優秀だったおかげだ。ちょっとした揺らぎと見返り、その線を見極めてる。」
ミモザがうっとりしたように笑う。
「ふふ♡ そこそこの商家の娘さんたちよ♡
礼儀も知ってるし、見た目もいい。
でもね、家は継げないし、恋もできないし、時間と承認欲求を持て余してるの♡
だから――少しだけ刺激を与えてあげたの♡」
リシュアが冷たい目を向ける。
「……つまり、“退屈”を通貨に変えたというわけか。」
ミモザが肩をすくめて笑う。
「言い方が硬いわね♡ 夢を与えたって言ってほしい♡」
シエナが慌てて帳簿をめくる。
「で、でもルオさんっ! 最近入金が極端に増えてるっすよ!?
なんか新しい仕掛けでもしたんすか!?」
ルオは椅子から立ち上がる。
「そうだ。“情動式遊戯”は――次のステージに進んだ。」
ミモザが目を細めて、微笑んだ。
「まぁ♡ また新しい遊びを思いついたのね♡ルオちゃん素敵な顔してるわぁ」
ルオは口の端を上げ、光の射す通りを見やる。
「見に行けば早いさ。……行くぞ。実地見学だ。」
ミモザが立ち上がり、扇子で口元を隠す。
「ふふ♡いってらっしゃいー!」
ソレイユ区・プラン通りでは、今日も変わらぬ光景が広がっていた。
昼下がりの陽光の中、通りには笑い声と香水の香りが満ちている。
シエナが腕を組んでぼやく。
「……別になんも変わってないじゃないっすか。」
「いや、変わってる。」
ルオが通りの奥を指さす。
そこでは黒髪メガネの女が、ひとりの男と談笑していた。
彼女は品のある仕草で髪を耳にかけ、まるで本命の恋人のように微笑む。
「今日はすごかったね! あんなに高値で売れるなんてびっくりだよ!」
「ああ、俺もびっくりしたさ!」
「ねぇ、次はどこ行く?」
「えっ……いいの? いつもここでお別れだったのに?」
「うん、今日は特別だからっ」
シエナが目を丸くする。
「え、えぇ!? デートが……継続してるっすか!?」
ルオが腕を組み、満足げにうなずいた。
「そうだ。連続で、チャンスが訪れる――“連チャン”を導入した。
これが、“情動式遊技・2号機会”だ。」
リシュアが冷静に言う。
「……ただ搾り取る額が増えただけではないのか?」
ルオは口の端を上げた。
「違うな。繋がりが続くことで、報酬が“未来”に変わる。
“また会えるかも”という希望――それ自体が、新しい通貨になるんだ。」
シエナが呆れたようにため息をつく。
「……恋の続編ビジネスっすね。ルオさん、ほんと悪い顔してるっす。」
リシュアが眉間に皺を寄せ、静かに口を開いた。
「……おい、ルオ。やりすぎではないか? この流れは破滅に向かっているぞ。」
ルオはテーブルに肘をつき、薄く笑った。
「破滅? 違うな、成長だよ。
“夢”を見てるうちは、誰も終わりだなんて思わない。」
シエナが冷や汗をかきながら、ルオとリシュアの顔を交互に見た。
「うわぁ……もう誰も止められないっすねこれ……」
――そして、金貨が積み上がる音の裏で、
静かに忍び寄るものがあった。
通りの喧騒の向こうから、
“規制”という名の足音が、確かに近づいてきていた。




