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32話 新型デート商法〜ハグの確率抽選中1/350〜③

黒髪メガネが男を送り出し、振り返ってルオに会釈した。

媚びた笑みは消え、完璧な事務口調に戻っている。


「お疲れ様です、ルオさん。今日は視察ですか?」


「まぁな。よくやってる。今の男は?」


「八度目です。当てて外してを繰り返し、

 二ヶ月で給金の六割を投資しています。

 そろそろ“BIG”が来る頃かと。」


ルオにやりと口を歪める

「やりすぎるなよ。」


「もちろんです。

 ルオさんのスキーム通り、還元率六割を維持しています。

 確率と……“恋愛体験”を微調整しながら。」


リシュアが眉をひそめる。

「恋愛体験を微調整とは、何の儀式だ。」


シエナがぽそっと。

「この人、やってることエグいのに声がめちゃ可愛いっす。」


いいか。人間ってのはな――“バイアス”の塊なんだ。」


「ば、バイアスっすか?」


ルオの目がギラリと光る。

「そう。“認知バイアス”と“確証バイアス”!

 人は自分の見たいものしか見ないし、

 うまくいった記憶だけを信じる!

 一度当たると、“次も当たる気がする”。

 一度外れても、“今度こそ当たる気がする”!!!」


リシュアが冷静に。

「……つまり、どっちに転んでも信じるということだな。」


「そしてそれは恋愛も同じ。

  ――"彼女も同じ気持ちだろう"

  ――"もう一度手を取ってくれるだろう"

 一度得た幸せの手応えを人は手放すことができない」



「夢を見て、“もう一度”と願う気持ちは、

 ギャンブルも恋愛も同じ!

 どちらも“希望”という名の病だ!」


シエナが小声で。

「病気扱いされた……けどちょっとわかるっす……」


ルオが机を軽く叩く。

「一度、手のひらに金貨の温もりを感じた者は、

 もう忘れられない。

 一度、手を繋いだぬくもりを知った者も、

 同じように忘れられない。

 人はその“温もり”を追って生きてるんだ!」




「希望は通貨、信頼は利息!

 そして――愛は複利で回る!!!」


ルオが軽く笑い、テーブルを指でとんとんと叩く。

「ここは“希望の抽選所”だ。回数じゃない、口数だ。一定額ごとに抽選が回る。

手をぎゅっとにぎる――1/12。ほっぺに、ちゅー――1/72。むぎゅーっとハグ――1/350。

ほかにもいろいろ“特典”がある。」


シエナが青ざめて、口を半開きにする。

「ルオさん、あたしとのデー…実地調査の間にそんなこと考えてたんすか!?流石に引くっす……!」


リシュアが腕を組む。

「……まるで、愛情を確率で管理しているようだな。こいつとは…絶対にそういう関係になるまい…」


ルオはにやりと笑って続けた。

「それだけじゃない。相手の経済事情に合わせて、勝ちは大きくドカンと勝たせて、あとはチリチリ負けさせる。

人は勝った記憶だけを信じるからな。次こそは、今度こそは――そう思いながら、人は財布を開く。」


ルオは立ち上がり、通りの光を見上げた。

「人は夢を見る生き物だ。手のひらのぬくもりも、金貨の重みも、どちらも“希望”の証。

そしてその希望こそが、次の縁を繋ぐ――このソレイユ区プラン通りこそが情動式遊技場だ!」


シエナが小声で。



シエナがひきつりながら、

「恋も投資も“期待値”でしか見てないっすね…」


リシュアがため息をつきながらいった。

「…そんな簡単に人間の欲望をコントロールできるものか…絶対に痛い目を見ることになるぞ…懲りないやつだ…」


ルオは笑って肩をすくめる。

「情動式遊戯は絶対安全だ。金は回り、恋は咲き、希望は続く――完璧なシステムだろ?」


シエナが苦笑する。

「……完璧なの、“悪だくみ”の方っすけどね。」


陽光の射すプラン通り。

今日も“希望の抽選所”は静かに回っていた。

バイアスって応用範囲が広すぎっす。

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