31話 新型デート商法〜ハグの確率抽選中1/350〜②
昼下がりのプラン通り裏路地。
石畳の両脇に、小さな画商の店が並んでいる。
どこも窓に“青く光るイルカの絵”。
陽光が反射して、まるで海の底みたいにまぶしい。
その一軒――ルオたちは、ガラス越しに店内をのぞいていた。
カラン、と鈴が鳴る。
黒髪を緩くまとめた眼鏡の女が男の腕に絡みつきながら入ってくる。
知的そうな雰囲気に、やけに甘い声。
「ねぇ、今日も高く売れるといいね。
だって、あなたの見る目はほんとにスゴいんだもん。
絵を選んでるときの横顔、あたし……ずっと見とれちゃってた。」
男の顔が一瞬で真っ赤になる。
シエナが眉をしかめた。
「うわぁ……この人、あざとさが詐欺級っす……!」
リシュアは無表情のまま。
「……音程が半音上がるたびに、男の理性が溶けていくな。」
そこに画商が登場。
両手を広げて朗々と語り出す。
「おおっ、なんという光! これは“青の祈り”……まさに奇跡の一筆です!
芸術とは“今この瞬間”の輝き! あなたは幸運を掴んだのです!」
女がすかさず男の腕を抱きしめる。
「ほらねっ? やっぱりあなたのセンス、最高だよ!」
男は完全にトロンとした顔で笑う。
「そ、そうか……俺ってやっぱ見る目あるんだな……!」
ルオがぼそっと。
「……完全に“脳内報酬ループ”入ってるな。」
しかし次の瞬間、画商がにっこりと微笑んで口を開く。
「さて、お値段ですが……ふむ、買値の四割、というところでしょうか。」
男の顔が一瞬で曇る。
「よ、四割……?」
女が慌てて男の手を包むように握る。
「ね、ねっ、落ち込まないで。
今日はたまたまタイミングが悪かっただけ。
次は絶対もっと高くなるよ。あなたなら大丈夫。」
声がさらに甘く、距離もさらに近い。
シエナが小声で。
「……また手ぇ握ったっす。」
ルオが冷静に頷く。
「小役だ。……リプレイ成立だな。」
「……何の話だ?」とリシュア。
「負けた直後に、“次こそ勝てる”と思わせるんだよ。
希望と甘言の二段構え――これが新型のデート商法だ」
外に出ると、さっきの男女が笑いながら別れていった。
ルオが帽子も被らず、にやりと笑った。
「そうさ。人は希望に弱い。
奇跡より甘い“もう一度”を、誰もが信じたがるんだ。」
パチンコもパチスロも全くやらないから理解があってるか自信ないっすね。
ーー
デート商法【でーとしょうほう】
名詞
① 恋愛を装い、最終的に「イルカの絵」を買わせる詐術。
出会い方・誘い文句・店の形式には無数のバリエーションがあるが、
どの経路を辿っても最後はイルカを描いた絵画や版画の購入契約に至る。
この“イルカへの収束”こそがデート商法の定義的特徴であり、
他の動物・風景・抽象画などを題材とする場合は、法的にも社会的にも恋愛詐欺として区別される。
② 手口の構造
出会い → 信頼 → 感情の共有 → 芸術鑑賞 → イルカ購入。
この一連の流れは「感情投資の回収スキーム」とも呼ばれ、
恋愛と商取引の境界を意図的に曖昧にすることで成立する。
③ (俗)
「イルカが来た」=決済完了の隠語。
「まだイルカ前」=詐術進行中の状態。
「ノンイルカ」=恋愛のみで終わった例(被害なし)。
〔補説〕
題材がイルカに固定された理由については諸説ある。
“純粋さと群れの象徴”“青色の心理効果”“水面の反射による催眠性”など。
バルメリア商法庁の定義では、**「恋愛的手法を用い、イルカを描いた作品を販売する行為」**のみを正式にデート商法と認定している。
――『新冥界国語辞典』より




