第10話 人と人とを繋ぐ縁〜ポイント還元中(-70%)〜①
バルメリア市にもキャッシュレス化の波が。
「ポイポイ♫ ポイポポイポイ〜♪」
陽気な掛け声がソレイユの街角に響いた。
魔導灯がきらめく商店街の中央、
ひときわ目立つ看板が風に揺れている。
《マドゥペイ導入店》
今なら支払いポイント20%還元!
店員たちが笑顔でチラシを配りながら声を張り上げた。
「お会計はマドゥペイでどうぞー! 登録だけで魔導ポイント20%還元中!」
ミモザが通りを歩きながら、ゆるく笑う。
「……まぁ、便利な時代になったものねぇ」
手に提げた紙袋の中で、
古びた革の財布が、居場所を失ったように沈黙していた。
⸻
一方そのころ――クル・ノワ地区。
銀貨の袋が積み上がった倉庫の一角。
金属音が反射して、空気までもが眩しく揺れている。
「すっげぇ! ルオさん、天才っす!!」
両手を広げて絶叫するシエナ。
10本の指に12個の指輪、
両耳には8個ずつピアスがきらめく。
まるで歩くイルミネーションだ。
猫足のバスタブには湯の代わりに銀貨が詰め込まれ、
ルオはその中に肩まで浸かり、
片手にワイン、片手に帳簿を掲げて笑っていた。
「チュロズ・スキーム、稼働率120%……経済がよく回ってる」
「弟たちが昼も夜も走ってますからねぇ!」
シエナが高笑いを上げる。
「はっはっはっ、経済は“回す”ものだぁ!!」
ルオが銀貨をすくい上げ、頭からざばっとかぶった。
⸻
倉庫の扉が勢いよく開いた。
「ルオぉーーーっ!!」
灰色の毛並みを揺らしながらチュロが飛び込んでくる。
おでこに金縁のサングラス、
毛皮のコート、足元は金のサンダル。
「チュロ、お前……出世したな」
ルオが笑う。
チュロは目を潤ませ、
「ルオのおかげだよ! 弟たち、みんな腹いっぱい食べられるようになったんだ!」
と叫んだ。
だが、その表情がふと曇る。
「……でもね、最近“現金”使えないお店が増えてきてさ。
“マドゥペイ”っていう魔導ポイントじゃないと買い物できないんだ。
弟たちもよく銀貨を落としたり無くしたりするし……
お金を“魔導ポイント”でもらえたら便利かなって」
シエナが首をかしげる。
「へぇ~、そんなもんまで出てきたんすねぇ」
ルオはワインをくるくる回しながら言った。
「ふむ……魔導決済か。時代はキャッシュレスってやつだな」
チュロが不安げに眉を下げる。
「……でも、使えるのかな? なんか怖い気もする」
ルオは片眉を上げ、にやりと笑った。
「チュロ、いいことを教えてやろう。
“時代の波”ってのはな――乗る側が儲かるんだ」
「え、じゃあ……?」
「もちろん構わん。弟たちの支払いも報酬も、
全部“マドゥペイ”にしてやろう。
今なら還元20%、悪くねぇ取引だ」
チュロの目がキラキラ輝く。
「すごい! ありがとうルオ! これで弟たちも“ポイント生活”できるね!」
ルオは銀貨の海に身を沈め、
「……ポイント還元の裏には“手数料”って魔物がいるんだがな。まぁ、知らぬが仏だ」
と呟いた。
シエナが手を叩く。
「さぁ! 今夜は豪遊っすね! マドゥペイで支払いお願いしまーす!」
銀貨を蹴散らして、三人の笑い声が倉庫に響いた。
⸻
そして翌朝――
マドゥペイ本社の魔導端末が、異常取引量で真っ赤に点滅していた
電子マネーが急に普及した時の座り心地の悪さって…




