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吹奏万華鏡♪ 特別ページ♪  作者: 幻創奏創造団
SPIN・OFF♪
9/15

瑠璃たちの修学旅行 [奈良編]

古叢井(こむらい)瑠璃(るり)…純粋無垢の優しい性格。

伊崎(いさき)凪咲(なぎさ)…瑠璃の親友。少し厳しいが優しい。

鈴衛(すずえ)音織(ねお)…武将のような喋り口調をする。

久城(くじょう)美心乃(みこの)…瑠璃たちと同じ吹奏楽部。

矢野(やの)雄成(ゆうせい)…瑠璃とは別のクラス。普段は鬼の吹奏楽部長。

修学旅行。それは6月の下旬に行われる3年生を対象とした行事である。2泊3日にかけて行われる修学旅行は皆の楽しみだった。


ちちち…とスマホが小鳥の鳴き声を放つ。空はまだ紺青に染まり、唐紅の光が放つ気配はなかった。

朝の4時。

「…ううっ」

瑠璃はベッドから身を起こす。ごしごしと瞼をこする。長い髪を垂らした少女は、フラフラと部屋から出る。

「しゅーがぁくーりょこー♪」

独特の可愛らしい音程を取りながら、瑠璃は長い髪をふたつに分け、ゴムで縛る。

学校の規則でスマホは禁止だ。スマホは机の引き出しに仕舞うと、リュックを背負う。

「…行ってきまぁす」

瑠璃はひとり静かに家を出た。


「…おお」

夜闇の空の下、瑠璃は学校へと到着した。今は朝の4時30分だ。欠伸を噛み殺すと、校舎前の人の群れの中に入り込む。その中の1人に迷わず話しかける。伊崎凪咲だ。

「おはよう。凪咲」

「おはよ」

凪咲は朝に強いのか、退屈そうな顔をしていた。

「凪咲、眠くないの?」

「私、部活ある日は4時に起きてるから」

それは流石に早すぎでは?と瑠璃は苦笑いした。

「おはようございますです」

「おはよー、瑠璃ちゃん、凪咲ちゃん」

「あ、」

すると可愛らしい女の子が2人。1人は鈴衛音織。もう1人は久城(くじょう)美心乃(みこの)だ。2人は瑠璃と同じ吹奏楽部員だ。

「美心乃ちゃん、おはよ」

凪咲はそう言って、音織の足元を踏みつける。

「イタタタ…」

「スマホ、持ってないよね?」

鋭い眼光をぶつけられ、音織は「勿論でこざる」と返した。ふぅん、そう言ったその時、先生が掛け声を掛けた。

「…それでは出発します!」

出発式を終えた3年生一同は、新幹線で東京駅へ向かった。東京駅からは新大阪駅まで、また新幹線だ。

ー東京駅ー

「わぁ。東京駅かぁ。久しぶりに来るなぁ」

垣間見える大都会に、瑠璃が目を輝かせる。それに美心乃も頷いた。

「…まだ大阪にも着いていないのに、すごいテンションだね」

「えへへ。さっきね、ババ抜きで凪咲に勝ったんだぁ」

凪咲はトランプにはめっぽう強い。

「…多分、凪咲ちゃんが負けただけかなぁ」

美心乃は花を持たせたであろう凪咲の方を見る。すると彼女は音織と話していた。

「はい、新幹線に乗りますよ!!ついてきてください」

先生の先導の元、全員が無事、新幹線に乗り込んだ。走り出して間もなくすると、話し声が響き渡る。

「わぁぁ」

ビルが立ち並ぶ景色。それが一瞬で移り変わる。

「いいなぁ。都会」

「そう?私は田舎の方がいい」

「凪咲は静かなのが好きなの?」

「そゆわけじゃない」

しかし数分も見ていれば、この光景にも飽きてくる。このあとは嘘付きゲームをやった。

ルールはこうだ。

予め、メモ帳に4つの自己紹介を書き並べる。その中の1つが嘘。果たして嘘を見破れるか?

「ふむふむ。瑠璃は肉より魚の方が好きなんだ」

「うん!」

「…じゃあ、これも本当?瑠璃は海水浴よりキャンプの方が好き」

「本当だよ!」

「本当に夜更かししてる?」

「してるよぉ」

「瑠璃は1番下の妹と仲が悪い?」

「ほーんと!」

この4つから嘘を見抜かねばならない。

「…うーん。この前私ね、美心乃ちゃんから聞いちゃった」

「えっ?」

「瑠璃ちゃん、ゴールデンウィークに樂良ちゃんと遊びに行ったんでしょ?」

「う、うん。あ…!」

すると凪咲がにやりと笑う。

「じゃあ、4番じゃん」

「あちゃぁ、バレちゃったぁ」

残念そうにする瑠璃を見て、凪咲はフフンと笑った。

「私に見抜けない嘘は無いのだよ」

「ぐっ!じゃあ、引っ掛けだしてやる」

「出してみなさい」

凪咲は余裕そうだった。なのでうんと難しい問題を出してやることにした。

「クラリネットが1万円で売られてました。そのクラリネットの保険金は1万円だそうです。欲しくなっちゃったSさんはクラリネットを3台買いました。しかし、ひとつ落として壊しちゃいました。さて、そこで手元に残ったお金は幾らでしょう?」

「…えっ?1万円」

凪咲は突っ込みたい気持ちを抑え込み、そう答えると瑠璃はにやりと笑う。

「正解は0円です。だって『残った』て言ってるんだもん」

「なるほど。『残った』時点でって言う訳ね。ってか、コンクール前に演技でもないこと言わないでよ」

凪咲はそう言って溜め息をつく。

「大丈夫だよ」

そんな彼女に瑠璃は優しく声を掛けた。

「でも私の勝ちだね!」

「あぁ、私は負けたのかぁ」

…こうして2人は愚にもつかないゲームを出し合っているうちに、新大阪駅へと向かっていた。


ー新大阪駅ー

そこからバスで奈良県の東大寺まで向かう。

「大阪なんて初めて来たぁ」

瑠璃はそう言ってフフッと微笑む。

「結局、あの引っ掛け、美心乃ちゃんは引っ掛からなかったね」

と言うと、美心乃は「分かるよー」と笑った。

一瞬でも大阪の空気を吸えたことに満足したのか、バスでの瑠璃は上機嫌だった。

「今から奈良県に行くんだよね?」

凪咲が訊ねる。

「そうだねー」

瑠璃はそう言って窓の外を見た。

こうして1時間程、バスを走らせるととある場所に到着した。

ー奈良県 東大寺ー

「うぅー、着いたぁ」

瑠璃たちは、東大寺そして奈良公園を歩いていた。すると鹿がゆるりと歩き回っていた。

「すご」

「流石、奈良だな」

別クラスだが、坂井澪子と矢野雄成も、鹿の多さに驚いていた。

「鹿ちゃんが、音織に群がる、可愛いな」

「ちょっと!一句詠んでないで助け願う!」

瑠璃は、鹿に追いかけられる音織を見て、クスリと笑った。

「鹿煎餅、ほしい」

「美心乃ちゃんも懐かれてるじゃん」

「…違うよ」

その時、今度は瑠璃の周りに鹿が集まる。

「ひぃっ!びっくりしたぁ」

しかし瑠璃は驚くこと無く、鹿の頭を軽く撫でた。

「制服汚さないでよぉ」

瑠璃が優しい声でそう言った。このあと、大変な目に遭わされるとも知らずに。

写真撮影の後、ガイドに連れられ、じゃりじゃりと小石を踏みながら、木造建築へと歩き出した。

「仁王像カッコよかったぁ」

「そうだね」

瑠璃が言うと凪咲も大きく頷いた。

「やっぱり、実物は違うね」

その時、木造建築前に到着した。

『皆さん、これが…』

そう言ってガイドが手の平で、あるものを示す。

『盧舎那仏坐像です。別名奈良の大仏。この名前のほうが皆は知ってるのかな?』

突然のガイドの問いに、まばらな声が返ってくる。

『宗派は華厳宗。像高は15メートルにもなります。大きいですねぇ』

どうやら撮影ができるらしい。瑠璃はフィルムカメラと入っているデジタルカメラでシャッターを押す。

「おっきいね。私の身長もあれくらい大きくなれたらなぁ」

「瑠璃は身長どれくらいなの?」

「今は150cm」

すると音織が入り込む。

「じゃあ、君の10倍になりますな」

彼女がそう言った瞬間、足に強烈な痛みが走る。

「私の身長と盧舎那仏坐像様を比べるな。愚か者」

珍しく瑠璃が怒った。音織は震え上がりながらも「はい」と返事をした。

こうして、説明が終わると、班ごとに自由行動だ。


鹿と戯れるべく、瑠璃たち4班は奈良公園で遊ぶことになった。

「ふふ。鹿煎餅、40枚下さい」

瑠璃が頼むと、おばちゃんが「ふふ」と笑う。

「お嬢ちゃん、気をつけなさい。沢山寄ってくるから」

「お嬢ちゃんだなんて、そんなぁ」

しかし瑠璃は、おばちゃんの話を全く聞いていなかった。

約800円の出費が発生。瑠璃は嬉しそうに煎餅を千切る。

「私も買おっと」

音織も美心乃も買うようだ。

「…凪咲、ちょっとあげるよ」

「えっ?汚れない?大丈夫?」

「転ばなければ平気だよ」

「そう?」

凪咲は渋々、瑠璃から鹿煎餅を受け取った。

「…うわ!」

しかし渡されて早々、凪咲は逃げ出してしまった。助げでぇ!と今までに無いほどの間抜けな声を吐き出す。

「あははははははっ!」

瑠璃はつい面白くて笑ってしまう。

「…凪咲、集団でいる所にばら撒くと良いよぉ」

だが、瑠璃も後ろから鹿からの猛アピールを食らう。

「い、いやぁぁぁ!」

ずっと手にしてたからだろう。気づかぬ間に10匹近くの鹿が、瑠璃へ迫っていた。

「…がんばぁ」

クスクスと笑う凪咲をよそに、瑠璃はひぃと逃げていた。結局、半分を落として、鬼ごっこに近い煎餅やりは幕を閉じた。

「はぁ。今夜はよく眠れそう…」

瑠璃は胸元へ、残りの煎餅を隠しながら、そう言った。

「いいじゃん。私はアイス食べるね」

「うん。いってらっしゃぁい」

近くの露店へと歩き出す凪咲を見送り、瑠璃はこちらを見る鹿へと視線を移した。

さて、どうしようか?そう考えていた瞬間。

他人(たにん)(もの)(むさぼ)罪過(ざいか)…」

聞き覚えのある声が迫る。

「いや、自ら食べに来るとは、とても良い!」

この言葉は全て音織のものだ。また中二病に染まったか、と瑠璃は苦笑した。

その後は、フェンス越しで鹿に煎餅をあげることで、難を逃れた。

「はぁ。もみくちゃだね」

瑠璃の白いシャツは少し汚れた。

「あれから鹿を撫でたら、ぶつかられるし、大変だったぁ」

そんな彼女に美心乃が言う。

「それは鹿が瑠璃ちゃんのことが好きってことだよ」

「えぇ。まぁ、そう思うことにするよぉ」

瑠璃はそう言いながら、両手を天へ伸ばした。

その後、バスは京都のホテルへ向かって走り出した。

「…京都までそろそろだね」

「ほーんと。ってかアイス美味しかったなぁ」

「ああ…」

そう2人は眠気を抑えながら、話していた。

「てか、凪咲とお泊りなんて、あの本番以来だよ」

「あの本番?ああ、東関東大会か」

「今年も行けると良いね」

瑠璃が言うと、凪咲は「だね」と言う。

「…矢野。あの人を何とかしないことにはね」

「雄成かぁ。確かにね」

「瑠璃はティンパニでしょ?」

「うん。頑張る!」

修学旅行が終われば、コンクールへまっしぐら。でも今はこの修学旅行を楽しみたい。

そう思っていると、京都の宿に到着した。

         【続く】

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