【限定②】 茂華町クリスマス点火祭 [後編]
クリスマス限定のイルミネーション祭り。瑠璃は本当に1人で来ていた。
「…綺麗」
ひとりただ感想を溢す。
結局、誰も受験勉強優先で来なかった。そして後輩たちも明日に行くという。結果、瑠璃はたった1人だった。
「でも、ひとりかぁ」
それが仕方のないことだと諦めていた…時だった。
「…あれれ」
瑠璃は誰かを見つける。それは先輩友達の小倉優月だった。小さく手を振ると、彼も気付いたように手を振り返してきた。
そしてふたりは再会した。
「…優月先輩、どうして?」
「明日は家族でクリパだから。今日しか来れなかったの」
その理由は奇しくも、瑠璃と同じ理由であった。
「…私も!一緒だよ!」
「そ、そうなんだ」
思わず優月も驚きの声を上げてしまった。
「……」
すると瑠璃は突然、モジモジしはじめた。何か言いたいことがあるのだろうか?
「…瑠璃ちゃん、どうしたの?」
何かを察した優月は瑠璃に問い掛ける。
「あの、優月先輩…」
そして――彼女はとんでもないことを言い出した。
「…イルミネーション、一緒に回らない?」
それを聞いて、優月は全ての神経に衝撃が走ったような衝撃を受けた。
「え…、僕と?」
それは全然構わない。ただ瑠璃は良いのだろうか?想大にまだ未練があったのなら、それは少し遠慮するべきではないのだろうか。
悩む。
しかし彼女は苦笑で返してきた。
「あ、嫌なら…大丈夫だよ。私ひとりでも大丈夫だから」
瑠璃はそう言っているが、明らかに声はうわずっている。1人が嫌だという彼女の特性は、優愛から沢山聞いていた。
「…ひとりは危ないよ。僕で良かったら」
瑠璃の言葉に合わせるように優月は頷いた。
「…えっ?本当?」
「6時30分までなら、だけど」
「私と帰る時間おんなじだー」
そう言って瑠璃はとにかく喜んでいた。ならば大丈夫だろう。優月は瑠璃と共に歩き出した。
広場の時計を見ると5時40分。まだまだ時間はある。ひとつひとつゆっくりと見ることにした。
「このイルミネーション、電気代いくら掛かるんだろうね」
優月が思ったことをとにかく言葉にして紡ぐ。
「優月くん、夢なーいっ」
しかし瑠璃には苦笑で返されてしまった。あまり芳しい発言ではなかったか。
「ごめんね…」
(優愛とはまた違う性格だなぁ)
「でも、確かにお金凄そうだよねー」
だが、瑠璃はそのまま話しを合わせてくれた。なら少しは、と身の上話をすることにした。
「…僕ね、高校卒業したら…1人暮らしなんだ」
そう言うと、瑠璃が意外そうに目を丸めた。
「え、優月先輩、大丈夫なの?」
思ったより彼女の反応は良かった。心配する響きも多少含まれていたが。
「…うーん、駄目かも」
優月は不安そうに答えた。正直ひとりでやっていける気がしない。
「お料理できる?」
「えっ?一応料理はできるよ。皿洗いも毎日やってるし」
「すごーい」
「まぁ…カレーの焦げとか洗うの大変だけど。よく使ったスプーンとかフォークで取ってるから」
「カレーかぁ…。私、そういうの苦手なんだよね」
「え?そうなの?」
それは驚いた。瑠璃は何かと手先が器用そうだからだ。
「私、よく爪で剥がしてるかな」
「それだと効率悪いよー。スプーンで掬うように剥がさないと」
取り敢えずアドバイスすると瑠璃はニコリと笑った。
「優月先輩って凄いんだね」
「…えっ?」
褒められて思わずビックリした。
「優月先輩のお嫁さん、いいなぁ」
更にあからさまな脈あり発言。
「お嫁さんって…結婚したあと?」
思わず動揺しつつも尋ね返した。
「…そうだよ。優月先輩のお嫁さん、家事とか何でもできる人と一緒なんて羨ましいなぁ、って」
「へ、へぇ」
「まぁ、私は一緒にいてくれる人なら、誰でも良いんだけどね♪」
「そういうこと…」
どうやら優月と結婚…などという都合の良い話しはないらしい。瑠璃は純粋な発言が多いので、男子と話せば脈あり発言が出てくるのはザラだ。
少し肌触りの悪い会話を記憶に残しながら、点滅するライトたちを見つめる。光の粒子たちは音もなくただ無機質に光る。
「…そういえば、瑠璃ちゃんって妹さんいるんだっけ?」
突然、優月が会話のタネを見つけて問う。
「うん。ふたりいるよ」
「…5月くらいに1番下の子といたよね?」
「ショッピングモールの時かぁ。懐かしいなぁ」
瑠璃は目を細めて笑った。幼さの残るその双眸は光に当てられ無邪気に照れる。ひとつに結んだ髪が左右に可愛らしく揺れた。
「…そういえば、夏休みの旅行のとき、見たっけ?」
「え?誰を?」
「小麦」
その名前は全く知らないものだ。
「…瑠璃ちゃんの妹さん?」
「うん。小麦、全然話さないからなぁ」
瑠璃にはふたり妹がいる。次女の小麦と末っ子の樂良。小麦は昔の瑠璃みたいな物静かな性格。樂良は小麦とは正反対の明るい性格だ。例えるなら次世代の瑠璃である。
「…どうして小麦ちゃんだけ静かなの?」
優月がまだまだ続く光の通路を歩きながら尋ねる。
「…」
すると瑠璃の声が少し小さくなった。
「…私のせいなんだよね。小麦が物心ついた時って、私が天龍を辞めたときなんだよね」
「…そうなんだ」
「だから、かなり私の性格も暗くて。小麦はそれを見て育ったから」
何だか悲しい理由だなあ、と思いながら優月は眉をひそめた。美優はただ単に自分から陰鬱な性格になったらしい。
「…逆に樂良が物心ついた時が、優愛お姉ちゃんと会ったときだったから」
「ああ、そういうことね」
瑠璃の妹たちはどうやら長女を見て育つらしい。なんか可愛らしいな、と思った。
ふたりが他愛もない話しをしていると、あっと言う間に大広場へと到着した。今までとは比べものにならないくらいの大きなイルミネーション。人工的な光がふたりを照らす。
「…ここが1番綺麗だね」
優月が何とない様子で言う。
「うんっ」
そんな言葉に瑠璃は大きく頷いた。その赤い瞳はダイヤモンドのような光を映す。白い肌は赤く染められ、黄色い髪も光を受けて輝いている。
「…すごく綺麗」
いつもの純粋な口調ではなく、感嘆を伸ばしたかのような声だった。
「瑠璃ちゃん…」
優月はリュックから袋を取り出した。
「1個食べる?」
そう言ってチョコレートシュークリームを取り出した。それを見た彼女はキラキラと瞳孔を大きくする。
「美味しそう」
羨ましがっている。そんなことはすぐに分かった。
「いいの?」
瑠璃は首をかしげる。期待が瞳の光に溢れる。
「…いいよ」
優月はニコッと笑って渡した。
「だって…僕の分もあるし」
もう1つ、同じシュークリームを見せると、瑠璃は目を猫のように細めた。今までにないほど柔らかい表情をしている。
「…ありがとうっ!」
「瑠璃ちゃん…」
その姿はなんだか優愛と重なった気がした。
(…なんか分かった気がする)
瑠璃の笑顔はイルミネーションの光でよく映える。
「…ここで食べていい?」
「うん。汚さないように気をつけてね」
「はーい♪」
(…優愛がここまで瑠璃ちゃんのことが好きになった理由が)
入口で、瑠璃はいつものツインテールに戻すと、優月の方を見た。
「優月くん、ありがと」
「…ううん。受験頑張ってね」
「もちろん!」
瑠璃は「ばいばーい」と言って消えた。
(…これで良かったのかな)
優月は胸に残ったほんのりとした感情を撫でるように、そっと胸に手を置いた。
「…また来年かな。次に会うのは」
そんな思い出は家に帰っていても残っていた。
「…優月クン、遅いー」
「いいじゃん、イルミネーション見たかったんだし」
「なに?彼女とでも見てたの?」
「…彼女なんていないって」
目の前に出された大量の餃子。それを見つめながら答えた。
「ふーん、じゃあ古叢井先輩?」
「…なっ!そんなわけないでしょ!?」
「怪しい〜」
すると父の雅永たちがやってきた。
「美優、餃子もう食べていいよ」
「やったー!私が先!」
(夕飯、餃子で良かったぁ)
誤魔化せた事に安堵しつつ、優月も餃子を口へと運んだ。
クリスマス・イブは至って普通の日常だった。
翌日。古叢井家。
「…またドラムやってる。小麦ー」
山の中にある瑠璃の自宅。今日もドラムセットの音が響いていた。
「瑠璃姉、吹部終わったのに何してるのよ」
小麦はやや呆れ気味にドアを開ける。
「…!?」
ドアを開けた小麦は驚いた。
「樂良!?」
すると瑠璃と小麦が頷いた。
「…瑠璃姉、樂良に何を吹き込んだの?」
なんと瑠璃は樂良にドラムを教えていた。樂良は楽しそうに彼女を見る。
「え?ドラムやってるのー。しょうらい、あたしもすいそうがくやるんだー」
「…えぇ」
それを聞いた瑠璃がクスクスと笑った。
「…だってさ」
しかし小麦は表情を全く変えない。
「全く、ケーキ食べないの?」
「食べたい!」
「お母さん呼んでる」
「分かったよー。樂良行こ」
「うん!」
瑠璃と樂良は楽しそうだ。それでも小麦は気に入らなかった。
(…全く、音楽の何が楽しいんだか)
小麦はあまり音楽が好きではなかった。
「やったあー!ホールケーキだぁ!」
「樂良も子供だなぁ」
瑠璃はクリスマスという日を楽しんでいた。
「…瑠璃姉、今日もドラムやってた」
「楽しいし頭がスッキリするんだもん」
「…ちゃんと勉強しなさいよ」
「はーい」
楽しいクリスマスはあっという間だ。
また年が明ける。
そして――新たな扉が開かれるのだ。




