迷路でまよっている
迷路でずっと迷っている人がいた。
ぐるぐるぐるぐる。
「道はこっちですよ」
誰かがそう伝えるとその人は言った。
「分かっています」
そう言って、またぐるぐるぐるぐる回りだす。
「一緒にいきませんか?」
誰かがそう言うとその人は言った。
「放っておいてください」
そんな態度に人々はやがて呆れ果てて何も言わなくなった。
だから、その人は今も迷路でぐるぐるぐるぐる回っている。
出口だって本当はもう分かっているはずなのに。
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「人間と言うのは分からないな」
水槽に浮く脳を見ながら博士がぽつりと呟いた。
「そうまでして死にたくなかったのかい」
脳は何の反応も示さない。
手もないし、足もないし、口もないし、目もないのだから当然だ。
けれど、博士の前に置かれている機械が『生きている』ことだけはしっかり示してくれている。
「まぁ、金は貰ったから願いは叶えるがね。死にぞこないが」
そう言って博士はその場を立ち去った。
水槽の手前には『可能な限り長生きをしたい』という顧客の依頼書が雑にセロハンテープで止められていた。