【第8話:変化は、できることから始まる】
「できることから、一緒に整えていこう。」
社長レナは、ミユの前にいくつかのメモを並べた。
文字はきれいに揃っていて、優しさと覚悟が混ざっていた。
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1枚目には「見た目」と書かれていた。
──髪の整え方
──メイクの仕上げ
──私服の見直し(営業前にパジャマはやめよう)
「見た目がすべてじゃないけど、“印象”って武器になるよ。
せっかく可愛いのに、もったいない。」
ミユは、少し照れたように頷いた。
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2枚目には「生活リズム」。
──出勤時間と朝の準備時間の見直し
──出勤前の軽いストレッチやメイク準備ルーティン
──週1の自己チェック日(鏡・写メ・SNS見直し)
「これは、キャストっていうより“働く人としての習慣”。
リズムが整うと、気持ちも安定するから。」
「うん……やってみる。」
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3枚目には「店長としての行動」。
──他キャストに小さな声かけを増やす
──LINEで「おつかれさま」や「ありがとう」の言葉を習慣化
──1日1回、誰かの“良かった点”を見つけて伝える
「“指導”じゃなくて、“空気づくり”から始めてみよう。
ミユが優しいのは、強みなんだよ。だから活かして。」
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最後に「SNS」。
──投稿頻度を週3→週5に
──“透明感”というキーワードを意識して統一感を出す
──お客さんが安心して来られる一言を添える
「ミユの写真、ほんとに透明感あるよ。
もう少し自分を“見せる”意識を持っていこう。」
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すべてを聞き終えたミユは、黙ってメモを写真に撮った。
そして、ぽつりと言った。
「なんか、できそうな気がする……かも。」
それは“自信”ではなかった。
でも、“覚悟”のような小さな光だった。
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次の日の朝。
ミユは、ピンクベージュのワンピースに身を包んで出勤してきた。
髪は巻かれていて、リップも丁寧に塗られていた。
そのまま、店内の掃除に入ると、隣のキャストに小さく声をかけた。
「ねえ、それ今日の髪型、かわいい。」
キャストは少し驚いた顔をした後、ふっと笑った。
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レナはバックヤードでそのやりとりを見ながら、小さく頷いた。
“変化は、できることから。”
それが、ミユに届いた日だった。