【第7話:大きな店だからこそ、最初に整える】
「ちょっと、時間もらえる?」
営業前の控室。
社長のレナが声をかけると、ミユは一瞬びくっとした顔でうなずいた。
少しだけ気まずい空気。
けれどレナは、責めるために来たわけじゃなかった。
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「ミユ、目標ありがとう。ちゃんと読んだよ。」
ミユが提出したメモには、こう書いてあった。
──トップキャストになって、お店を引っ張れるようになりたい。
──自信を持って働きたい。
──“なでしこ”を一番にしたい。
「正直、いい目標だと思った。
でも、それが“今の動き”に繋がってるかって言われたら──違うよね?」
ミユは目を伏せた。
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「なでしこは、うちの中で一番大きい店。
売上規模も、キャストの質も、席数も、全部トップレベル。
だからこそ、“店が動けば会社が動く”んだよ。」
レナの声は淡々としていた。
でも、そこには本気の温度があった。
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「自信がないのも、自分で分かってるのも、全部いい。
でも、そのままで“トップ”にはなれない。
だからまずは、“見た目の管理”と“稼働の安定”を意識して。
それだけでも、印象も売上も変わるから。」
「……うん。」
「あとね、ミユの強みって、“嫌われないこと”なんだよ。」
ミユが顔を上げた。
「注意しない、緩い。
でも、逆に言えば“誰でも話しかけやすい”ってこと。
それを、店全体の“居心地の良さ”に変えられたら、それってすごい武器。」
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「キャストとしての実績だけじゃなくて、“店長としての空気づくり”。
そこにも目を向けていこう。
一緒にやるから。」
ミユは小さく頷いた。
「……やってみる。」
その声はまだ弱かったけれど、
どこか“自分で決めた”人の声だった。
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なでしこが整えば、会社が変わる。
そう思って、レナは次の面談準備へと向かった。