【第5話:見て、感じて、動き出す】
「求人、変えたんだって?」
営業終わりのバックヤード。
レナがそう言ったとき、カノンは一瞬だけ手を止めて、静かに頷いた。
「うん。少しだけ。
“うちに来たら何ができるか”って、ちゃんと伝えたくて。」
その言葉に、レナは何も返さなかった。
ただ、うっすらとした笑みを浮かべたまま、少し視線を落とした。
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レナはずっと、戦ってきた。
自分の実績で、現場で。
けれど、それだけじゃもう、足りないと感じ始めていた。
カノンが変わった。
誰にも命令されていないのに、自分から動き、成果を出し始めた。
その姿を見て、焦りではなく──純粋な刺激を感じていた。
「わたし、いつから“見られる側”に戻ってたんだろう」
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売上が伸び悩んでいる店舗。
悩んでいるキャスト。
それに対して、自分はどこまで向き合ってきたか。
「もっと頑張って」と言うだけでは、何も変わらない。
“どう頑張ればいいか”を、示すのが経営者の仕事。
そう気づいたとき、レナはノートを開いた。
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書き出したのは、自分がやってきたこと。
初来店のお客さんの引き込み方
Twitterで反応が取れる投稿の時間帯
店内で“推される空気”の作り方
キャスト間でトラブルを防ぐ動き方
「私がやってることって、当たり前じゃなかったんだ」
それに気づいた瞬間、指導方針を“言葉”にして残す決意が生まれた。
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マニュアルにする。
言語化する。
伝えて、再現させる。
それができたとき、組織は「属人」から「仕組み」に変わる。
そしてそれこそが──
社長が、“社長”になるための第一歩だ。
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カノンが火をつけた広報という灯。
そこから少し遅れて、別の場所にも火が灯る。
“お飾り”なんかじゃない。
今ここから、本当の「会社」を動かす覚悟が始まろうとしていた。