【第4話:伝えなければ、存在しないのと同じ】
「今日のお客さん、3人が“投稿見て来た”って言ってたよ」
店長の一人がそう言ったとき、カノンは静かに頷いた。
うれしくないわけじゃない。
でも、それだけじゃ、足りない気がした。
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帰り道、ふとカノンは思った。
“このお店、外からどう見えてるんだろう?”
SNSには毎日投稿している。
新しい写真、キャンペーン、ストーリー。
でもそれは「来てくれる人」に向けての発信だった。
“じゃあ──これから一緒に働くかもしれない子には?”
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次の日、求人媒体の原稿チェックが回ってきた。
テンプレートのような言葉が並んでいる。
《初心者歓迎》《楽しく働ける職場》《仲良しの職場です》
“……それって、どこでも言ってない?”
ページを閉じ、カノンは画面を睨んだ。
「この会社で働く意味って、なんだろう」
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この会社はまだ、大きくはない。
でも、伸びる可能性はある。
何より「自分たちで創っていける場所」だ。
店のコンセプトも、キャストの魅力も、発信の自由度も、
“型”にはまっていないからこそ、形にできることがある。
──なのに、伝えてない。
伝えなければ、
この店は「存在しない」のと同じだ。
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カノンは求人ページを一から作り直し始めた。
「“ただのバイト”じゃなくて、“ここを選びたくなる理由”を見せる」
文章にも、写真にも、色にも意味を持たせる。
「かわいい」だけじゃなく、「未来がある」ことを伝える。
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その週末、問い合わせが数件入った。
面接希望のメッセージの中に、こんな言葉があった。
《今までのお店にはなかった空気を感じました》
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夜、カノンはノートに一言だけメモを残した。
「集客と求人は、どちらも“仲間を集める”仕事」
静かな火が、少しずつ組織をあたため始めていた。