【7話:並ぶ肩】
「ヒナちゃん、これってどこに置いたらいいかな?」
「そっちは窓側のカウンターでお願い!」
開店準備の店内で、ヒナの声が軽快に響く。新人キャストが笑顔で頷き、ぱたぱたと走っていく。その様子をカウンター越しに見ながら、ミユはポットを磨く手を止めた。
――なんか、頼られてるなあ。
別にヒナを嫌ってるわけじゃない。むしろ、あの子が頑張ってくれるのはすごくありがたい。でも、最近どこかでずっと引っかかっていた。
(店長って…わたしじゃなくてもいいのかな?)
ヒナが中心に立ち、周りが自然と動くようになってきた今、ミユは自分の立ち位置を見失いかけていた。
営業後、スタッフルームで一人、日報を打ちながらため息をついていると、カノンがひょっこり顔を出す。
「ミユ、おつかれ。今日も大変だったねー。」
「うん…ヒナがいろいろ助けてくれて、なんとか。」
「なんか元気ないね?」
ミユはちょっとだけ口元をゆがめて、正直に打ち明けた。
「最近、ヒナがすごくしっかりしてきて…ちょっと焦ってるの。自分が店長でいいのかなって。」
カノンはくすっと笑った。
「いいじゃん。焦るってことは、ちゃんと店を見てる証拠だよ。ミユは“助ける側”って思ってるかもだけど、頼ってもいいんじゃない?」
翌日、ミユはヒナを呼び止めて、店の裏でそっと声をかけた。
「ねえ、ヒナ。ちょっとだけ話、いい?」
「もちろん、なに?」
「最近…ありがとね。すごく頑張ってくれてて。でも、正直、ちょっと焦ってた。」
ヒナは一瞬きょとんとした後、笑った。
「えー、なんで?ミユさんが店長でよかったって、ずっと思ってたのに。」
「でも…ヒナがしっかりしてきたから、私、何すればいいんだろうって。」
「ミユさんがいるから、私も安心して動けるんだよ。だから、もっと頼って?」
その言葉に、ミユの胸のつかえがすっと取れた気がした。
「そっか…じゃあ、これ一緒にやってみない?新人指導のマニュアル作るの。」
「いいね!任せて!」
ミユは微笑んだ。肩を並べて歩くこの感じ、悪くない。




