何処
ひらがなばかりで少し読みにくいです。
「それで、……此処って、何処なんですか?」
「此処は江戸の、試衛館っつー剣術道場だよ」
「……えど、しえいかん、けんじゅつ……」
分からないモノばっかりだ。"えど"は場所の名前なのだろうか。
「やっぱり分からないか」
「はい……あ、でもけんじゅつ、ってあれですか?あの、長いモノを振ったり、ぶつけ合ったりするヤツ」
さっきあの広い所で皆がやっていたのが、"けんじゅつ"じゃないだろうか。
私の問いに、いのうえさんは、パッと顔を明るくした。
「そう、そうだ!やっぱりお前は賢い子だ、真白!」
「ましろ?」
「お前の名だよ、真白」
少し話しただけで、沢山知れた。
この場所の事、私の名前。もっと色んな事を知りたい。
「物知りないのうえさん。他にも教えて下さい」
私がそう言うと、いのうえさんは「別に物知りではないんだがな……」と困った風に頬を掻きながら、私をとある場所に連れて行ってくれた。
「あ、此処ってさっきの……?」
「そう。此処は道場って言って、皆剣術の稽古をしてるんだ」
つまり、"けんじゅつ"の練習場所と言う事か。何となく、楽しみになってきた。
「いのうえさん、早く入りたいです」
「あぁ、そうだな。……でも、私もこれから稽古しないといけないんだ」
「いのうえさんもけんじゅつをするんですか?」
優しい いのうえさんも、あんなに激しい稽古をするんだ、と驚いた。
「どうする?一人が嫌なら別の人を呼んで、部屋に戻っても良いぞ」
いのうえさんは、そうやって気を遣ってくれた。
「大丈夫です。へやの端で見てますから」
「分かった。悪い事すんなよ」
「はい」
いのうえさんと約束をして、"どうじょう"の中に入った。さっきと同じ様に稽古をする人も居たが、棒を置いて座り込んでいる人も居た。
「おい、総司。ずっとそうしてたのか」
「あぁ、源さん……て、あれ?真白ちゃん?」
さっき少しだけ話した人も、稽古をやめて座り込んでいたみたいだった。
その人も、やっぱり私の名前を知っていた。
「えっと……そうじさん?」
「はい、総司です。やっぱり憶えてないんですね」
そう言って、少し悲しそうな顔をした。申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。
「ごめんなさい。……あの、でもこれから、教えて下さい」
私がそう言うと、そうじさんは、不思議そうな顔をした。
「沢山、色んな事を教えて下さい。そうしたら、いつか元通りの私になるはずです」
「……そうなると良いなぁ」
初めて、そうじさんが笑った。ふんわりとしていて、心が温かくなる笑顔だった。
「ほら、総司。稽古に戻ろう」
「分かりました。真白ちゃん、後でね」
振り返って、手を振ってくれた。それに釣られて、私も手を振る。何となく、振り返したら良いんだと分かった。