目が開いた。ぱちりと音を立てて。
「ど……、こ…」
頭が痛くて、体が動かない。起き上がろうにも、めまいがする。「何処、此処」と言ったつもりだったのに、喉から出たのはうめき声のような言葉だった。
「い、…ふっ……」
(水……!)
目線を下にずらすと、ふわりとしたモノに寝かされていたのがわかった。頭の側に置かれている水といい、誰がやってくれたのだろうか。
動かない体を無理矢理起こして、水を口に入れる。
「ご、ふっ……!」
飲めない。体が水を受け付けなかった。
「なんで、どうして」も言葉にならず、ただ口の隙間からひゅーひゅーと言う音が聞こえるだけだった。
腕が当たって、水の入ったモノが倒れた。水分が染み込んでゆく。
それより、何故私は此処に居るのだろう。
そもそも、此処は何処だ?
いや、私はもともと何処に居たんだ?
と言うか、"私"って、誰?
「あ……、はぁ、はぁ、」
立ち上がろうと試みるも挫折し、何とか壁に手をかけ、両腕両足を起こして動く。
元居た場所を出て進んでみると、人の声が聞こえた。
私一人じゃ何も出来ないので、一旦誰かに助けを求めよう。そう思うと手が勝手に動き、目の前にある板を横に動かした。
「あ、……の……」
懸命に言葉を絞り出したが、届いたかは分からない。
中に居た人達は、皆細長いモノを持っていて、それを上下に動かしたり、ぶつけ合ったりしていた。
しかし、私がその場所に入ると、一人の男と目が合った。その人は手に持っていたモノを、バシッと音を立てて落とした。
すると他の人も次々にこっちを見て、同じ様に固まった。
(な、何?)
動けずにいると、最初の人が目の前まで歩いて来た。よく見ると、小さく体が揺れている。
「だい、じょ……げほっ、」
やっぱり上手く言葉を出せない。そうしてる間に、さっきの人は座り込んで、私の首の横の部分に触れた。
「……起きたの?」
どうやら私は、寝てたらしい。それも、かなり長く。何があったのか知りたいのに、思い出そうとすると、もやっとして分からなくなる。
そして何より、もう一つ分からない事があった。
さっきから、私に優しい手で触れるこの人は。
「だれ……?」
主人公はおそらく記憶の大部分を失っていて、日常的な物の記憶さえ怪しいです。
読み返してみると分かりやすいです。