ぷかりぷかり
「ま、まあ。てっちゃんの家は知ってるから。いいけど。さ。てっちゃん。足が速いんだからもう」
駄菓子屋から出て、てっちゃんの背中を追えたのは、ほんの数秒。
あっという間に、距離が開いたかと思えば、てっちゃんはもう姿を消していた。
てっちゃんはとてつもなく、足が速かった。
いつもいつもいつも、幼稚園でも小学校でも運動会では一等賞なのだ。
「そして私は、ビリから二番目。っふ。ふふっふふふふっと」
足は軽い、とは思う。うん重くはない。けれど、どうしてか、走るのは遅い。
謎だ、謎過ぎる。足が重いならわかるけれど、足は軽いのに、どうしてこんなに走るのが遅いのか。
きっと、解ける事のない永遠の謎なのだろう。
いや。いやいやいや。
永遠の謎は、今、解けてしまった。
頭が、重いのだ。とてつもなく重い。コンクリート地面しか見えないくらいに頭が下がってしまう。
「いや。いやいやいやいや。待て待て待て。何でこんなに頭が重いのか?」
「某がそなたの頭に乗っかっているからである」
「そっかなるほど通りで重いはずだ。よし。謎は解けた………うん?某って、誰?」
「某は哲寿様の見守り獣の小虎である。小虎の姿の小虎。覚えやすかろう」
頭が軽くなったかと思ったら、目の前に、漆黒の両翼を背中から生えさせた小虎が、ぷかりぷかりと浮いていた。
ぷかりぷかり。
「哲寿様って誰?」
「そなたがてっちゃんと呼んでおるお方だ」
「………あ。そっかそっか。てっちゃんは、哲寿だった。そうだそうだ。もうずっと、てっちゃんってしか呼んでないから、名前忘れてたや」
あっはははは。
(2024.8.17)