小虎
駄菓子屋の居間にて。
「ほかの子どもにバカにされて、悲しくて。母ちゃんと父ちゃんのふるさとにいる時は、母ちゃんも父ちゃんも厳しいし。すんごく厳しいし。じいちゃんもばあちゃんもおばさんもおじさんもいとこもみんな。みーんな。厳しいし。俺の味方は誰もいなくって。そしたら、すんごく、あっちゃんに会いたくなって。でも、俺一人じゃ、母ちゃんと父ちゃんのふるさとからここに帰る事もできないし。ただ、みんなからすんごく離れた鬼灯畑で一人でしょんぼりしてたら、小虎が俺に抱き着いてきてくれてさ。一緒に遊んでたら、楽しくなってきて。小虎が翼を背中から出してさ、一緒に飛ぼうって言うから、うんって言って。俺、飛ぶの、苦手だったけど。小虎と一緒だったら、飛べるって、高く早く飛べるって、思って。先に飛んだ小虎を追いかけようとして、飛んだら。いつの間にか。ここに戻って来てた。トランポリンの上にいた。だから。どうやったら、母ちゃんと父ちゃんのふるさとに行けるのか。わからない」
「お母さんとお父さんのふるさとに行く時はどうしてたの?」
「家で母ちゃんと父ちゃんと一緒に手を繋いで、母ちゃんと父ちゃんが一緒に行くよって言ったら、いつの間にか、母さんとお父さんのふるさとに来てた」
「じゃあ、てっちゃんの家に行こう。家に行ったら、ふるさとに行ける方法があるかもしれないよ」
「そう。か。そっかそっかそうだよね!うん!行こう!俺の家に!」
「うん」
元気いっぱいに飛び出したてっちゃんの後に続いて、私も駄菓子屋から元気いっぱいに飛び出した。
結局、麦茶もサイダー瓶も駄菓子屋のばあちゃんからご馳走にはならなかった。
それだけが心残りだった。
(2024.8.16)