エピローグ ~『婚約指輪と魔女』~
アンドレアを治療してから数ヶ月が過ぎ、婚約破棄で負った心の傷も癒えた頃。メアリーは自室に届いた大量の花束に呆れ顔を浮かべていた。
(またアンドレア様からですね)
バラ、ラベンダー、ジャスミンと日ごとに違う種類の花が送られてくる。花々は丁寧に束ねられ、美しいリボンで飾られていた。
この花を届けてくれた配達人はペンドルだ。彼はアンドレアの元に復職し、改心した主に忠義を尽くしている。
この花束に込められたメッセージは命を救われた感謝が主だが、ペンドル曰く、まだメアリーのことを諦めきれないようで、内心ではよりを戻したいと考えているそうだ。
(ただ私がその願いに応じることはありません)
メアリーには自慢の恋人、カインがいる。今日はその彼の誕生日でもあった。
(プレゼントを喜んでくれるでしょうか)
用意したのは魔石が嵌められた指輪だ。
杖と同じく魔術を効率的に発動可能にし、身につけても邪魔にならない。魔術師としてまだまだ発展途上の彼には大いに役立つだろう。
「にゃ~」
プレゼントするため、指輪を包装していると、シロが近づいてくる。その丸々とした瞳は、輝く魔石に向けられていた。
「にゃにゃ!」
「シロ様!」
シロが指輪を咥えて走り出す。その足取りは軽く、まるで風のように廊下を駆け抜けていった。
メアリーが慌てて追いかけると、シロは挑発するように、ギリギリの距離を保ち続ける。そして辿り着いた先、そこは内庭のベンチに腰掛けるカインの膝の上だった。
「この指輪は……」
「にゃ~」
シロが運んできた指輪と、息を荒げて追いかけてきたメアリーに、カインはすべてを察する。
「もしかして僕の誕生日プレゼントかな?」
「お察しのとおりです」
「にゃ~」
シロは自慢げに鳴く。もしシロが渡していなければ、プレゼントを気に入ってもらえるだろうかと渡すことに二の足を踏んでいたかもしれない。指輪を運んでくれたのはシロなりの手助けだったのだ。
「……カイン様は指輪が苦手ですか?」
「まさか。こんな素敵な指輪を喜ばないはずがないだろ」
迷わず左手の薬指に指輪を嵌めるカイン。白い手の上で魔石が輝いていた。
「実はね、僕からも贈り物があるんだ」
「私の誕生日はまだ先ですよ」
「知っているさ。幼馴染だからね」
カインは懐から指輪を取り出すと、それをメアリーの薬指に通す。赤い魔石が輝くプラチナの指輪だった。
「これは……」
「婚約指輪さ。順番が逆になったけど、君を生涯幸せにする証として贈りたいんだ」
「ふふ、なら私もカイン様を幸せにしますね」
指輪を受け取ったメアリーは優しげに微笑む。その笑顔は魔女というより、聖女のように美しく輝いていたのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました
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