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幕間 ~『残り二ヶ月の命 ★アンドレア視点』~



 アンドレアは自己顕示欲の高い男である。公爵家の長子として生まれた血のプライドが、他者から軽んじられることを許さなかった。


(負けるはずのない闘いだったはずだ……)


 カインとの決闘を思い返す。アンドレアは中級魔術相当の炎を操れる魔道具――火龍の杖を用意し、万全の体制で挑んだ。魔力の封じられた魔術師相手に一方的な高火力を押し付ける戦略にミスはなかったはずだ。


 だが敗れた。カインは魔術だけでなく、剣術まで超一流だったのだ。


(奴は卑怯者だ……剣技が得意なことを俺に秘密にしていたのだ……)


 決闘を申し込んだのはアンドレアだ。彼自身も八つ当たりだと自覚している。だが他人に責任を押し付けなければ心が保てないほどに追い詰められていたのだ。


(どうして俺が馬鹿にされなければならないのだ……クソッ……)


 内心で毒を吐きながら、朝食のためにダイニングへ向かう。白いクロスの敷かれたテーブルの上には贅沢な朝食が並んでいる。


 金の食器と共に、焼きたてのクロワッサンや果物の盛り合わせ、フレッシュなチーズと肉の燻製まで、様々な料理が並んでいる。


(どのような美食でも今の精神状態では食欲が沸かんな)


 椅子に腰掛けてはみるもの、決闘の敗北で受けた恥辱を思い出し、ナイフとフォークを持つ手が震えてしまう。少しだけ果物を齧ってみるが、怒りで味がしなかった。


「本日も遅い目覚めですね」

「ペンドル……」

「そろそろ寝坊癖を治していただかなければ困りますな」


 最古参の使用人であるペンドルはアンドレアの教育係でもある。彼の小言をいつもなら軽く受け流すが、今日だけは別だった。怒りを発散するため、矛先を眼前の料理に向ける。


「俺の寝坊を指摘する前に、朝食の味をどうにかしろ!」

「いつもと変わらない絶品でしたが……」

「平民の貴様ならそうだろうな。だが俺は公爵だ。より上質な味でなければ舌が受け付けぬのだ」


 普段なら皿がきれいになるまで平らげる彼の台詞に説得力はない。八つ当たりであることは明白だ。


「あなたはもう子供ではないのですよ」

「俺が癇癪を起こしているとでもいいたいのか!」

「違うのですか?」

「俺は使えない部下を指導しているだけだ。何が悪い!」

「はぁ……こんな時にメアリー様がいてくれれば……」

「なんだとっ」


 予想していなかった人物の名前が挙がり、アンドレアは怒り以上に戸惑いが勝る。


「どうしてここであいつの名前が出る?」

「メアリー様はあなたと使用人との緩衝役を務めてくれていました。あの人がフォローしてくれていたからこそ、傍若無人な振る舞いも許されていたのですよ」

「俺があいつに救われていたとでも。馬鹿を言え」

「事実です。その証拠に今月だけで使用人が八名も退職しました。引き留めている者はその三倍はおります。このままだと屋敷が無人になりますよ」

「辞めたければ辞めろ。使用人の代わりなんていくらでもいるのだからな」


 最低の一言だった。それを聞いたヘンドルは呆れたようにその場を去る。静かになったダイニングで、苛立ちを吐き出すように悪態をつく。


「クソッ、どうして俺がこんな目に……ゴホッ……ゴホッ……」


 ストレスが器官に影響を与えたのか、咳が止まらなくなる。咳を抑え、必死に堪えた彼の手の平は血で真っ赤に染まっていた。


「なんだこの血は……」


 ストレスにより胃に穴が空いたのではと疑ったが、見たことがないほどに血は黒く、ただの吐血ではないと悪寒が奔る。彼は知らなかったのだ。残りの寿命がもう残り2ヶ月しか残っていないことを。


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