表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/39

第一章 ~『表彰と魔女』~


 とある日、メアリーは騎士団の宿舎を訪れていた。


(まさか私が表彰されることになるなんて……)


 騎士団の駐留している砦へと向かっているのは、低ランクの魔物肉を食べられるようにして、食糧事情を解決した功績を称えられるためだ。


 メアリーの表彰は、騎士団の団長であるカインが発案者だが、他の騎士たちも両手を上げて賛同したという。美味しい食事は彼女の想像以上に、皆に感謝されたのだ。


(ここが砦ですか……)


 馬車の車窓から砦の城壁を見上げる。覆われた荘厳な石壁は、天をつくほどに高く、砦の上ではシルバニア辺境伯領の家紋の旗が風に棚引いている。


 城門を通り、砦の内部へ踏み込むと、一際大きな建物である本部へと案内される。鎧や槍が整然と並ぶ廊下を通り、団長室へ案内されると、そこにはカインが待っていた。


「良く来てくれたね。歓迎するよ」


 団長室には豪華な装飾が施され、大きなデスクが中央に配置されていた。デスクの上には領内の地図や複数の文書が整然と並べられ、日々の軍務を処理するための環境が整っている。


(カイン様らしいセンスのある部屋ですね)


 威厳がありながらも、上品さのある室内に魅了されていると、カインが拍手を送る。


「おめでとう。事前に伝えていた通り、君の騎士団への貢献が認められて表彰されることになった。君には賞金と女爵の爵位が贈られることになる」

「爵位が与えられるのですか!」


 お金はあっても邪魔にならないが爵位は別だ。領地の運営には責任を伴う。自由なスローライフが失われてしまうと危機感を抱いたが、そんな彼女の心配を理解していたのか、カインは柔和に微笑む。


「安心してほしい。与えられる爵位に領地はないから、管理の手間も必要ない。さらに爵位年金として金貨百枚が一年毎に非課税で授与される。辺境伯令嬢の君にとっても少なくない金額のはずだ」


 金貨百枚は平民の一年間の所得に匹敵する。質素な生活を好むメアリーなら、それだけで十分に生活が可能な金額だった。


「さらに女爵の立場となれば、社交界での発言力も増す。もう二度と君に婚約破棄を申し付けるような不届き者は現れないよ」

「ありがとうございます……このような名誉を預かれたのは、カイン様が推薦してくれたおかげですね」

「僕だけじゃないさ。君を推薦する者は多くいた。これを見れば君にもそれが理解できるはずだよ」


 カインが手渡したのは、手紙の束だった。そこには騎士らしい無骨な文字で、感謝の言葉が綴られている。


『魔物肉がこんなにおいしくなるなんて驚きでした』

『柔らかい食感と肉汁のおかげで、魔物肉がご馳走になりました』

『メアリー様のおかげで日々の訓練にも力が湧いてきます。本当に帰ってきてくれて、ありがとうございました』


 食は生きていく上での活力になる。だからこそ、美味しい魔物肉に皆が心の底から感謝していたのだ。


「僕からも改めてお礼を伝えるよ。ありがとう」

「私の方こそ、婚約破棄された私を迎え入れてくれたことを感謝していますから。あのときのショックを忘れられたのは、カイン様を含めた領地の皆さんが優しくしてくれたおかげです」


 カインたちがいなければ、未だに落ち込んでいただろう。同時にもっと恩返しをしなければと使命感が湧き上がってくる。


「カイン様、他にも私に協力できることがあれば――ッ……この音は……」

「警報だ」


 警報音は荒々しい響きで、緊急事態を知らせていた。


 団長室の窓から見下ろせる内庭では、騎士たちが一斉に武器を手に取り始めている。指揮官が慌ただしく集合を指示し、緊急事態に対応するための戦闘配置を整えていた。


 砦の中に緊迫感が広がるのを感じ、メアリーはゴクリと固唾を呑む。


「まさか他国の侵略ですか?」

「いいや、この音は大規模な魔物の襲来だ。それも国を滅ぼしかねないほどのね。きっと激しい闘いになるはずだ……」


 冷静な口ぶりだが、カインの言葉は重い。亡国の危機に晒されながら、彼は団長として死闘を覚悟するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ