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第一章 ~『救出と魔女』~


 メアリーとカインの二人は訓練場に向かって駆けていた。密生した木々の間を疾走する足音が、夜の静けさを切り裂いていく。


「アスタ様は随分と先に進んでいますね」

「僕よりも足は遅いはずだけど、きっとエマさんを心配する気持ちが、彼の肉体に普段以上の力を出させているのだろうね」


 本番に強いタイプなんだと、部下であるアスタのことを自慢げに語る。


 彼が誇りに感じるほど優秀な男が救出に向かったのだ。きっと無事なはずだと、心のなかで祈る。


 だがその願いを裏切るように訓練場との距離が近づいたことで、異変を察知する。徐々に獣臭が漂い始めたのだ。


「この匂いは魔物ですね……しかもかなりの大型です」


 地面には大きな足跡が残されていた。まだ見ぬ敵を警戒しながら訓練場にたどり着くと、そこにはエマを守りながら、熊の魔物と戦うアスタの姿があった。


(あれはダークグリズリーですね)


 力強い四肢と巨大な爪に加えて、闇夜に馴染むような灰色の毛並みを持つ怪物だ。脅威度はランクDに認定されており、一介の騎士では太刀打ちできない相手である。


「僕が助けに行くから、メアリーはここで待っていてほしい」


 カインが飛び出そうとする。その判断は正しい。エマは無事とはいえ、戦うアスタが敗れれば危険な状況なのは間違いないからだ。


 しかしメアリーはカインの腕を掴んで止める。


「少し待ってください。これは彼に自信を与えるチャンスです」

「だが彼の実力では……」

「もちろん隠れて援護しますから……どうか、お願いします」


 メアリーには勝算があった。光魔術は生命力を操作して身体能力を底上げできるが、その対象は自分だけでなく、他者に効果を及ぼすことも可能だからだ。


(それに私の目が教えてくれています。アスタ様はまだ死なないと)


 メアリーの瞳は余命を映す。それは生命力による残り寿命だけでなく、脳が処理した状況分析の結果も自動で反映してくれる。


 アスタの寿命は当分先だ。それを証明するように、彼は剣を盾代わりにしながら、ダークグリズリーの猛攻を受け流していた。勢いに押されて耐え忍んでいる状況ではあるが、一歩も後退っていない。エマを守るという使命を果たすために実力以上の力を引き出していたおかげだ。


(この頑張りを無駄にするわけにはいきませんからね)


 メアリーは光魔術で緩やかにアスタの身体能力を底上げする。急激に上昇させると、体に剣技が追いつかないことを懸念したためだ。


 光魔術のおかげで、押されていた戦況に変化が生じる。剣と爪が衝突する音を響かせながら、アスタが攻勢に転じたのだ。


(そろそろですね)


 アスタの剣戟がダークグリズリーの体を切り裂いていく。それと連動して、メアリーの瞳に映るダークグリズリーの余命も少なくなっていった。


 血を流したダークグリズリーは動きを鈍化させる。その隙を見逃さず、アスタは喉に剣を突き刺した。


 凄絶な戦いの末、ダークグリズリーは咆哮とともに倒れる。森の中には静寂が蘇った。


「やりましたね、アスタ様」

「メアリーさん、それにカインさんまで……」


 勝利を見届けた二人がアスタの前に姿を現す。ダークグリズリーを討伐した彼の表情には、達成感が滲んでいた。


「俺を追いかけてきたんですか?」

「はい。でも私達の力はいりませんでしたね。あなたが一人でエマ様を助けたのですから」

「まだ現実を受け入れられませんけどね」


 苦笑する彼に真っ先に感謝を伝えたのは、エマだった。


「ありがとうございます。命賭けで私を助けてくれて……お強いんですね」

「火事場のクソ力がたまたま働いてくれたくれたおかげで勝てただけさ」

「それだけ私のために頑張ってくれたのですね」


 エマの笑みにアスタは頬を赤く染めるが、視線はしっかりと正面を見据えていた。


(自信を得たおかげですね)


 これで二人の関係性は間違いなく進展するだろう。友人の幸せな未来を確信し、メアリーは穏やかに微笑むのだった。



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