出会いと初恋2
フィオンのことを考えていると、大好きだった花の蜜もタマムシの羽も喉を通らなくなってしまった。毎日ため息ばかり。バイオレットもそれは心配するというものだ。
バイオレットはフィオンの名前を「言っていた気がするけど覚えてない」と忘れたふりをしている。
私に気を使っているのか、はたまた本当に興味がないだけなのかも。
妖精は基本的に自分の興味のないものには目もくれない。だから私はこんなにフィオンのことで思い悩んでいるというわけだ。フィオンのことをもっと知りたい。顔を見て、話をしたい。
フィオンの居場所は知っている。
たまにバイオレットと一緒に人間界に遊びに行って、フィオンの屋敷を覗くのだ。
屋敷妖精などから余所者扱いをされて嫌な顔をされる。猫にも追いかけられた。けれどどれも私には大した問題ではない。彼の顔を見ることができるのだから。
ある日の夜、フィオンの寝ているところへ忍び込んだ。寝顔を見ながら私も同じ枕で過ごした。
助けてくれた時はあんなに凛々しかったのに、寝顔はなんで無垢で可愛いのかしら。月明かりに浮かび上がる彼の寝顔はずっと見ていられるなと思った。
寝顔を見るだけで幸せになっていたというのに、帰ったらもう寝顔を見たくなってそれから人間界には夜に行くことが定番になった。
夢を見ながら寝言を言っているのも聞いた。誰かに何かを指示しているような口ぶりだったけれど、最後の方はよく聞き取れなかった。寝言を言う彼も可愛かったな。
それにしても、フィオンの屋敷にはそれなりに妖精たちが暮らしているようだったけれど、彼には見えないのだろうか。妖精界で初めて見えたようだったし、一度見えたのだからそのあとは見えるようになったりしないのだろうか。
人間の目ってよくわからない。けれど、妖精界で私を救ってくれたことは、とても幸運な出来事だった。
だって私がフィオンに出会えたのだから。
人間界で暮らすフィオンを見ていると、住む世界が違うということをありありと見せつけられて悲しくなる。
私とはもう話ができないのだろうかとか、私のことをもう見つけてくれないのだろうかとか、そんなことばかり考えてしまう。
一度会話してしまったから。
一度触れてしまったから。
もう二度とできないことが辛くもどかしい。
私はもっとフィオンのことを知りたい。フィオンと話したい。
その瞳に、私を映してほしい。
私がもっと力のある妖精だったら攫って来れたのだろうか。
そんな考えに行き着いてしまった自分に驚く。それではフィオンが悲しむだろう。人間界で生活をしている彼は、いつも笑顔で楽しそうだ。妖精界に彼の幸せがあるとは思えない。けれども、私の幸せは彼のもとにあるのだ。
他にも方法があるはず。
どうにかして、フィオンと共に過ごすことができないか毎日考えた。
そして私はとてもいい考えに辿り着いたのだ。
「そうだ! 人間になればいいんだ!」
急に大声を出して飛び上がった私に、隣にいたバイオレットは飛び上がって驚き、座っていた花びらから転げ落ちた。
這い上がって帰ってきたと思ったら「それはどうやるのさ」と冷静に突っ込まれてしまった。