ジェットスイーパーとジェットスイーパーカスタムと
スプラトゥーン3の話を書きたいから書いたようなやつです。後何回か短編で書きそうです。
とある県のとある街。そのいくつかある住宅街の一角。
そこに妖怪サティスファクション都の妖怪屋敷がある。
その妖怪屋敷がおどろおどろしい雰囲気を頑張って出している、その中のはサティスファクション都だけではなく、人間も二人いた。
その人間たちに対し、妖しの黒髪を持つ妖怪、サティスファクション都が言った。
「時代はジェッカスよ!」
妖艶な雰囲気を上下芋ジャージで相殺しているサティスファクション都の言葉に、人間の一人、犬飼美咲が聞き返す。
「時代なの?」
自身の茶色の癖っ毛がもっさりしているのと同じくらいにもっさりした美咲の返しに、サティスファクション都は大きくうなずく。
「時代よ!!」
「そうかー」
「いやいや美咲、その妖怪のいうことを真に受けるんじゃあない」
そういうのは、もう一人の人間、城茂美である。全体的に柔和な雰囲気の美咲とは対称的に、凛とした雰囲気である。黒髪のポニーテールも決まっている。
そんな茂美の言葉に、美咲ははてな? と首を傾げる。
「時代じゃないの?」
「いつの世にもいる、逆張り野郎だよ、奴は」
サティスファクション都は髪をリアルに逆立てて怒る。
「失敬ね! 本当にジェッカスでキングダムがカムってるのよ!」
「んなわけあるか。というかなんだ、キングダムがカムって」
「ジェッカス時代、来たれり……」
「だから来てねえよ」
やいのやいの、としているところで美咲が「あのー」と口をはさむ。
「何、美咲?」
サティスファクション都の誰何に、美咲は言う。
「そもそもジェッカスってなに?」
「あー」
「あー」
「どうしたのどっちも変な顔して」
美咲の言葉を置いておいて、サティスファクション都と茂美はどうしたものかとしている。
「まあ、スラングっていえばスラングだものね」
「そもそもアレの話だと分かってない可能性すらあるな」
「二人とも微妙に失礼じゃない?」
そうは言うけどな、と茂美。
「なんの話か分かってるのか、美咲」
「なんの話なの?」
美咲があまりに美咲らしくぼんやりしたことを言ってくるので、茂美は眉間にしわを寄せながら告げる。
「『スプラトゥーン3』の話だよ。それもブキの話」
「あー。『スプラトゥーン3』なら分かるよ。最近やってるし。……でもジェッカスってブキあったっけ?」
「だからスラングだ、って言ってたのよ。正式にはジェットスイーパーカスタム、ね」
サティスファクション都の訂正に、しかし美咲ははてな? と。
「ジェットスイーパーカスタムって?」
サティスファクション都と茂美は近寄ってぼそぼそと言い合う。
「美咲ってスプラは3がお初じゃないわよね?」
「『スプラトゥーン』からやってるよ。色々教えてただろ。忘れたのか?」
「忘却したんじゃなくて、信じられなかったからよ!」
「言っても、全部のブキの名前覚えているタイプじゃないだろ、美咲は。感覚派ってやつだ」
「感覚に頼り過ぎ……!」
「なんだか酷いこと言われているような気がするー」
美咲がぶーぶー不満を出し始めたので、サティスファクション都は意を決して、美咲に告げた。
「いい、美咲? ジェットスイーパーカスタム。それは至高のブキよ」
「至高の」
何やらオルグ的なサムシングが開始されているが、ここは放置のち方が面白そうだと茂美は考え、サティスファクション都の言うに任せることにしてみた。
突っ込みがないのを確認する間を取ってから、それが来ないことをもってサティスファクション都は続ける。
「そう、至高のブキよ。まず射程が他のシューター系と一線を画しているわ」
「短いの?」
「短い方で一線を画しているのはボールドマーカー。その逆で、もっとも射程の長いシューター系よ。そして、射程は正義よ」
「射程は正義」
サティスファクション都は頷き、言葉を続ける。
「『スプラトゥーン』シリーズで強いと言われるブキは、大体長射程よ。4Kリッターしかり、ハイドラントしかり」
「短いのでも環境ブキはあるけどな」
茂美にシャアア! と威嚇顔してから、咳払いしてサティスファクション都は続ける。
「でも、チャージャーもスピナーもチャージが必要でしょう?」
「そうだね。確かにどっちもタメ時間が必要だね」
「でもね美咲、その中で、ジェットスイーパーカスタムは長射程だけどシューターの連射力を持っているのよ!」
「ああ、成程。シューターならチャージは要らないもんね」
「そういうこと。それゆえに、塗る力も中々のものよ。長射程塗りは他の塗りとはまた違った面白みもあるしね! それに他の長射程ブキでは中々出来ない円状の塗りも容易くできるわ! それも、とても容易に、且つ素早くね!」
美咲の理解力を見極めつつ、まくし立てるサティスファクション都。ヲタ特有の早口のやつである。流石に熱くなっているので、茂美が割り込む。
「ジェッカスの良い点はメインだけじゃないだろ?」
「そうね。メインもいいけどサブとスペシャルも良いのが揃っているわ。
サブはポイズンミスト。これは投げた場所から範囲内に足を遅くしてインクを減らす効果の霧を出すサブね。これはダメージはないけどあまり入りたくない範囲が作れるから、牽制として、相手をその場から遠ざける力が強いわ。
スペシャルはアメフラシ。インクの雨を降らすスペシャルね。当たっているとダメージが蓄積してやられてしまうから、これもその圏内から相手を遠ざける力が強い。
つまり、どちらも上手く扱えば相手をこちら側に近づけさせないようにする力があるわけ。つまり、どちらも射程を押し付けるのに効果的。だから、射程イズ『正義』は勝つ!」
と、一息で言い切って、サティスファクション都は大きく息をした。
「成程なー」
と美咲は要領を得たのか得ないのか良く分らない顔で頷く。そして「ところで」と一つ聞く。
「ジェットスイーパーカスタムってことは、カスタム前があるのかな?」
サティスファクション都が凍り付くように息を止めた。
美咲は自分が結構クリティカルなことを聞いたことに気づいていなかった。
茂美はまあそうなるわな。という感想を心の中で持っていた。
凍り付いていた時間はそんなに長くはなかったが、それでも無駄に重苦しい雰囲気で、茂美は少し笑いかけていた。
そんな茂美の様子も分からぬまま、サティスファクション都は口を開く。
「ジェッスは……、おえんのです……」
「おえんて」
茂美が突っ込むが、サティスファクション都は先ほどまでの熱の入った雰囲気から一転して負け犬ムードである。
「何がおえんの?」
美咲はその辺の空気をさぱっと読まず、ダイレクトに聞きこんでくる。茂美はえぐいなあ、とか思い、助け舟を出す。
「メインの弱みとサブとスペシャルの兼ね合いがダイレクトに悪かったんだよ」
「サブとスペシャルが違うだけでそんなに違うの?」
サティスファクション都は髪の妖しさが抜け、一気に妖艶の気配がなくなって単なる芋ジャージの生き物になりつつ、回答する。
「そうなのよ。ジェットスイーパーのサブのラインマーカーは投げたマーカーのラインに当たると相手の位置が分かるようになる、んだけどこれがとんだじゃじゃ馬でね……」
「マーカーは壁とかに反射するんだけど、ちょっとしたでっぱりに引っかかるだけでも思いっきり亜空の方に逸れるんだ。それなら地点でターゲットを取れるポイントセンサーのが遥かに優秀なんだよ」
茂美のフォローを更にしょげかえりつつサティスファクション都は言う。
「使いどころはあるのよ。でもそれが数多くなくてね……」
「その辺も、比較的場所を選ばないポイントセンサーとの差だね。ダメージが与えられるけど、だから何? だし」
「スペシャルもダメなの?」
美咲の追撃に、サティスファクション都はぐぅー、と呻き声を出す。
「キューインキはねえ、実際ハズレなのよ……」
「キューインキって、インクを吸うやつだよね。強そうだけど?」
「そうなんだけどね」
と茂美が話を受け取る。
「キューインキには欠点が多いんだよ。まず、インクを吸うといっても相手が撃ってこないと効果がない。これは分かるよね?」
「そうだね。相手が撃ってこないとインクが吸えないもんね」
「その上で、吸った後に出せる弾も吸収からシームレスに移行しない。吸収の終わりを狙われると異常に弱いんだ」
「ということは、相手が撃っているとこに突撃しても、隙を突かれたら反撃を撃つ前にやられちゃう?」
「その可能性が高くなるね」
ふーん、と納得する美咲に、しおしおのサティスファクション都は「そしてね」付言する。
「何より問題なのは、スペシャルを適当に撃てないことなの」
「それって大事? スペシャルって使いどころで使うものだし、ちゃんと一番強く使えるタイミングを見て使えばいいんじゃないの?」
「じゃあ美咲、キューインキが一番強く使えるタイミングってどこだと思う?」
「相手が弾をガンガン撃ってくるところ、……だけどそれじゃあこっちの反撃が危ないんだね」
「そう、だから一番強く使えるというのは、吸収時に弾を撃ってきて、放出時に弾を撃ってこないタイミングよ」
美咲がその言葉に思考を巡らせ、上、下、右、左と首を動かしてから、つぶやいた。
「……あんまりないね」
「そうでしょ? そこまで安全だったら相手は倒されている場合が多いってことだもの。だから、他のスペシャルより格段に撃てるタイミングが制限されているわ」
茂美が更に補足する。
「後、キューインキは相手の攻撃が当たるとこにいないと、だから全体的に相手と近いところで使わないと、だけどジェットスイーパーのメイン射撃は遠距離系。兼ね合いが悪いんだよ」
「成程なー」
美咲は納得した、がまだ聞いていないことがあるのに気づき、それを問うた。
「メインの弱みって何?」
既にしょぼくれて妖怪としての存在感すら薄れつつあったサティスファクション都が「のぼっ」と変な声を上げる。
流石にダメージが入り過ぎているなあ、と思った茂美は、補足説明に入る。
「美咲、長射程に対してとる戦術って、どういうのがあると思う?」
「うーん、近づくか逃げるか不意を打つだね」
「近づくが選択肢に入る理由は?」
「えー?」と言いつつ、美咲は下、右、左、上と視線を彷徨わせてから言う。
「遠距離武器は近いのが苦手って印象があるからかなあ」
「その印象通りだね。ジェットスイーパーのメインは近距離に弱い」
「そうなの?」
「まず、メインを4発当てないと倒せないけど、近距離シューターよりは格段に連射速度が遅い。だから所謂キルタイム、倒すまでの時間が結構長い。近距離シューターは逆にキルタイムが短いのが多いから、近距離に寄られると大変だね」
「ああ、だから近寄らせないサブとかが相性がいいんだね?」
「そういうこと。逆に言うと、相手を下がらせないサブスぺだったジェットスイーパーだからこそ使いにくいんだよ。ラインマーカーにもうちょい圧があれば、とか思うけどまあ詮無きことだね」
「そうよ、ラインマーカーが一撃で相手を倒せれば……」
「それもうメインとサブの関係が転倒してるよ」
美咲の正論に、妄言を吐いたサティスファクション都は「うぐっ』と唸る。
が、すぐに生気を取り戻さんとばかりに言う。
「でもジェッカスは普通に長距離シューターとして使いやすいからオススメよ! ジェッスでくじけた人もカムカムエブリバディだわ!」
「長距離したいならチャージャーかスピナー持つ方が無難だけどな」
「あえてシューターで遠距離戦がロマンなのよー!」
その後、サティスファクション都は散々っぱらジェットスイーパーカスタムを使ってブイブイ言わせるが、それはまた別の話。