子供失踪事件前編
カーテンレースがふんわり舞う。
窓際に座りながら本を読む高がそこに居た。
自室で珍しくのんびりしているのは、久しぶりだ。
その時コンコンと扉がノックされる。
「誰だ」
感情のこもっていない声を視線は本に、おいたまま言った。
「僕です、高さん」
その声に本から扉に視線を移し、本をパタンと閉じると側の机の上に置くと、扉に向かっていって開ける。
「どうした?何かあったのか?」
「任務だそうです、龍麗様からの呼び出しです。」
「わかった、一緒に行こう。」
部屋から出て龍麗の居る部屋に2人で向かう事にした。
部屋の前に着いてから、玲は
「龍麗様、高さんと一緒に参りました。」
「どうぞお入りなさい。」
柔らかい優しい声色で、返答した龍麗に、玲は
「失礼します」
「入るぞ」
2人はそう声をかけると扉を開けて中に入る。
いつもの如く玲は、一礼して入ったが高は、そのまま入っていった。
2人の姿をみて龍麗は笑顔で出迎えて、
「玲君ありがとう、わざわざ呼びに行かせてごめんなさいね」
「いえ!全然大丈夫です!僕で良ければいつでも使って下さい!」
高はソファに座ると、龍麗の方に向き、玲も高の隣に座った。
「今回は南京市で今起きている子供失踪事件について調べて来て欲しいのです。
何でも幼子が親が少しだけ目を離した先に居なくなり、その後は行方知れずです、
何も痕跡もなく恐らくは人の仕業では無いのではないかと、警察から協会に協力要請があったようです。」
「どれくらいの子供が居なくなってる?」
「およそ30人以上は………」
「そんなにお子さんが居なくなってるなんて親御さんは居た堪れませんね。」
「そして帰ってくる希望もないな………」
高の言葉に玲は「そんな……」と呟いて俯いてしまった。
事実妖魔が原因なら子供が元気に親元に帰ってくるのは難しい。
生かしておく理由もない、妖魔にとっては人は糧であり、人間でいう食べ物と同じ扱いだ。
ましてや幼い子供は特に無垢で、まだ魂が綺麗なので狙われやすい。
ただ今回はやたらに数が多すぎる。
1人の妖魔がこんなに人を、それも何故か子供に固執している事に、高は不思議がっていた。
(1人だけで子供を攫っているのだろうか?)
高の考えている事が分かったのか、龍麗は真剣な顔になって2人を見て、
「今回は妖魔が1人ではないかも知れません、1人でこんなに人を狩る事例は今までありませんでしたから、それも子供ばかり…何か理由があるのかも知れませんね。」
「そうだな、用心に越したことはない。玲お前もある程度は自分の身を守る様に覚悟しておけ。」
「はい高さん」
そう言って2人はソファから立つと、扉の方に歩いて行く。
開けた扉から高は先に出ていき、玲は一礼してから扉を閉めた。
龍麗は何かとてつもなく嫌な気持ちが拭えず、心から消えない不安が胸を締め付ける。
(何でしょう、この嫌な感じは何か良くない事が起こりそうで)
胸元をギュッと握り締めるとそのまま目を瞑っていた。
部屋を出た2人はとりあえず旅支度をする為それぞれの、部屋に行き玄関で待ち合わせる事にした。
それなりに時間が掛かるだろうと、高は思っていた。
向こうの協会から協力要請と言うことは、相手の事が何も掴めていないと言う事だろう。
この前の妖魔の様に厄介な相手ではないと、良いがと心の中で思っていた。
荷物を持つと高はそのまま部屋を出て玄関に向かった。
もう先に玲が着いていて、こちらに手を振っている。
その隣には、華蓮が居て玲に
「高様の邪魔にならない様にね!」
励ましてるのか嫌味なのかよく分からない言葉をかけていた。
最近は玲の事も認める様になった者たちもいる中で、陰で嫌味を言う者が居るが華蓮がその者たちに切れて言い負かしているらしい。
何だかんだで、玲を守っている様だ。
「行くぞ」
「はい!華蓮さん行ってきます!」
そうして2人は協会を後にし南京空港に向かった。
空港に降り立った2人は、早速南京支部の人達に迎えられて、支部に向かう事になった。
車の中で高は、支部の人達に
「今どれだけの情報が集まっている?」
「それがほとんど目撃情報もなく、妖力の痕跡もなく、私達も何故こんなに子供が居なくなってるのか、どんな手段を用いてるのかも分からないのです。」
「え?妖力の痕跡もないんですか?それっておかしくないですか?僕達は妖力を探知する能力も習いますよね。それが無いと妖魔探せませんし。」
確かに玲の言った通り、妖魔はそこで何か事を起こせば必ず、力の痕跡が残る。
残り香のような物だが、それが無いとなれば話が変わってくると高は思っていた。
痕跡を消せる妖魔そんなもの、上級の妖魔以外にはあり得ないと考え込んでいる。
この間の妖魔より厄介かも知れない。
妖魔の気配も、もし消せるとしたらこの大勢の人の中から砂金を探すようなものだ。
そこで高はある事を思いついた。
「どの辺りが1番集中して失踪しているんだ?」
「南京郊外にあるショッピングモールです」
「人がいっぱい居る中で居なくなってるんですか!」
玲の驚いた声に、高も心の中で驚いていた。
白昼堂々人を子供を、攫っていたとは思っておらず、無言になる。
「じゃとりあえずそこに行って現場を見てみるか。」
「そうですね、でもこの服装で行くと協会の人間だとバレるから、警戒されますよね。」
「それもそうだな、私服に着替えてから行こう、協会の用意してくれている部屋に向かってくれ」
高の言葉に協会の人は「分かりました」と言って、車を南京支部に走らせた。
支部に着き部屋で荷物を置いて、私服に着替えた2人は玄関で鉢合わせる。
「高さん凄い格好良いです!」
「お前はカジュアルだな」
高は黒のジーンズに白のTシャツを合わせて、その上に黒のジャケットを着ている。
玲は薄い茶色の、カーゴズボンに白のTシャツの上には、チェックのシャツを羽織っていた。
準備ができた2人はこのまま郊外のショッピングモールにむかうのだった。