嬉しさと重圧と嫉妬の嵐
北京支部の仕事を終わらせた高と玲は上海支部に帰る途中の飛行機の中だった。
玲は今ならパートナーの話を辞退する話を高に伝えるチャンスだと思って
「あの高さん僕やっぱりパートナーになるには力不足というか、その……」
玲の言いたい事も分かるが高はあの妖魔に触られた時に出た、不思議な防護壁が気になっていたので、パートナーは辞めるつもりはなかった。
「俺は別に構わない」
高の意外な言葉に一瞬何を言われたのか分からなかったのか、目をパチパチと瞬きしている。
絶対に賛成されると思っていたのに、高のその言葉が、玲は胸がいっぱいに成程嬉しかった。
と同時に何とも言えない重圧も感じた。
結局妖魔がいた時に自分は何も出来ず、ただ見てる事しか出来なかったのに、側に居ても良いのだろうかと、思っている時
「不満か?」
高の言葉に玲は必死に首を横に振って、
「とんでもない、でも僕何も出来なかったし見てるだけなのが、歯痒くて自分の力不足を改めて感じて、僕みたいなのが高さんの側に居ても良いのかなって。」
「自分が弱いと思うなら強くなる努力をすれば良い、自分の力を強いと思い込む奴よりマシだ。」
成程と玲は確かにと納得していた。
隣に立ちたいなら努力を惜しまなければ良いだけで、後は自分次第だなと考えていた。
ただ自分には札術師のセンスが、ないと言うか何故か上手くいかないのだ。
あれこれと頑張ってはいるのだが、いつも最下位。
「得意分野はないのか?」
高の言葉に玲には1つだけ得意な札術があった。
「回復術が得意です、まぁ皆出来るからあんまり目立たないんですけど、傷は綺麗に塞がります。」
「綺麗に?」
その言葉に高は何か引っ掛かった。
確かに札術師の回復術は傷にも効くが、大体は体力方面に効く事が多いと聞いた事がある。
傷も綺麗に塞がり体力も戻るのなら、かなりの使い手になるはずだ。
なのになぜ彼はずっと最下位の位置にいるのだろう。
不思議に思って
「それ以外の術はダメなのか?」
「何故か傷つける様な術は余り得意じゃなくて、結界術も得意です。だからいつも最下位なんです、」
寂しそうに笑う玲を見て、高は優しすぎる玲の性格に考え込んでいた。
まぁ人には向き不向きが、あるし自分が攻撃系を担当すれば良いかと思っている。
「すみません、高さん攻撃系の術も使えるともっと役に立てるのに。」
「人には向き不向きがある、攻撃は俺がやるから大丈夫だ。」
高の言葉に玲は俯いて小さく呟く様に「ありがとうございます」と少し涙声で呟いた。
高は見てみないフリをして、外を眺めていた。
「なんだか妬けちゃうなぁ、あの子には優しいんだね」
声をあげたのは銀髪を腰まで伸ばした、見目の綺麗な男性だ。
ただその瞳は七色に色々な色が混ざっていて、妖魔の特徴的な瞳をしている。
水晶玉に映った高を見ながら、指で顔をなぞっている。
その隣には前回いた氷霞が、冷ややかな目線をその男性に、向けていて
「魅纓様臣下の前ではおやめ下さいね、威厳に関わります。」
「分かってるよぅ」
拗ねた様に頬を膨らませていた。
このお方は本当にあの方の事になると、こんな風になってしまうのだから困ると氷霞は頭を抱えている。
水晶玉越しにしか姿が見れないのは、お可哀想だとは思うがこればかりは仕方がない。
臣下達ですら知らない真実。
皆の者に知られる事は一生無いだろうと、氷霞は思ってる。
あのお方は我が君のことを憎んでいるから。
いつかお2人が仲違いしなくなる時は来るのだろうかと想像するが、氷霞は頭をフルフル振りそれは無いなと思い馳せていた。
飛行機の中で少し仲良くなった高と玲は上海支部に帰ってきた。
扉の横の機械にカードキーをかざして、扉が開くと2人は部屋の中に入る扉を開ける。
その時中にいた人達が一斉に玲に冷たい眼差しを向けていた。
中には怒気をはらんだ瞳を向けて睨んでる者もいる。
その眼差しに玲はビクッと肩を振るわせ顔は青ざめていた。
そんな様子を高は周りの者達を見ながら、
(成程これは少し牽制する必要がありそうだな。)
心の中で思いながら考えていると、1人の女の子が高の前に出てきた。
玲は女の子を見て「華蓮さん」と呟く。
「高様本来は私が貴方様のパートナーのはずだったんです、私は札術師のトップですしサポートだって完璧に出来たはずです、そこの最下位の彼よりは!」
「確証はなんだ……」
冷たい声色に華蓮はビクッと肩を上下に動かした後、
「そ、それは私の方がランクが高いからです。色んな札術にたけてます。」
必死に自分をアピールする華蓮に高は鋭い眼差しを向けて
「だからなんだ、人それぞれ向き不向きがある様にこいつにはこいつなりの、得意分野がある。俺にはパートナーとしてそれで十分だ、それに総長が決めた事を不服と言うならあの人に言ってこい。」
高の周りの者達を見ながら、言った言葉でさっきまでの不穏な空気が無くなった。
華蓮は泣きそうな顔をして、高を見つめつつその隣に立っている、玲を見て
「悔しい……私が1番その隣に立つのに相応しいのに」
「すみません、この場所は渡せません、強くなる努力をして高さんの隣にずっと居たいので、華蓮さんの努力も実力も知ってます。でも渡せません、ごめんなさい。」
華蓮に頭を下げると華蓮は顔を歪めて泣き出してしまった。
高はその様子を見ていたが無表情で見つめたまま、玲に向いて
「報告に行くぞ」
そう言って歩いていく、玲は華蓮を気にしつつも「はい」と返事をして後を着いて行った。
総長室と書かれた扉を叩くと「どうぞ」と中から龍麗の声がして、扉を開けて中に入る。
玲は一礼したが高はせず壁にもたれ掛かっていた。
龍麗は2人を見ながら、笑顔で
「上手く行った様ですね、先ほど何か騒がしかったですが大丈夫でしたか?」
「こいつの環境を整えただけだ。」
「まぁ、高自らですか!珍しいですね!私は嬉しいです、2人が仲良くなってくれて」
「いや、そう言う訳じゃない」
しどろもどろになる高を見て龍麗はうふふっと笑って
「私は間違って無かったみたいですね、2人を組ませて良かったです。」
玲は凄く嬉しそうな笑顔で龍麗に頭を下げて
「本当にありがとうございます、僕頑張ります、これからも強くなる努力忘れません。」
「貴方は心根の優しい少年ですからどうか、高の側にいて下さいね。お願いします。」
「はい!」
玲の言葉と笑顔で龍麗は幼い時の高の言葉を思い出していた。
「龍麗さま、僕ここに居てもいいの?」
不安そうな顔をして見上げてくる幼い高に龍麗は
「勿論ですよ、いつまでも居て下さい、貴方には幸せになって欲しいのですよ。」
この時初めて笑顔を見せた高だったがそれから暫くして、龍麗に相談なく協会の封縛師育成の機関に入り、側を離れていった。
それからは何故かあの様に一定距離を開けて、こちらに関わって来なくなってしまった。
龍麗はそれが寂しかった。
どうしてこんな事になったのだろうと。
ただ人としての幸せを感じて暮らして欲しかっただけだ。
自分から危ない道になど行って欲しくなかった。
この子と一緒なら少しは幸せを感じているのだろうか?
2人を見ながら龍麗は思っていた。