初めての実践力の差
龍麗の居た部屋から出た2人は、お互いに顔を見た高が玲に向かって、
「とりあえず玄関で待つから用意して来い」
そう言ってさっさと歩いてく後ろ姿を玲は見つめながら何故僕があんな凄い人と組むことになったのか不思議で少し怖かった。
実力を伴って居ないし、自分より相応しい人は沢山いる。
でもあえて龍麗総長は自分を選んでくれた。
その期待には応えたいと思うのと同時に、これから妬みや嫉みにも耐えないといけないのかと、心が重たかった。
とりあえず自分の自室に行こうと歩いて行こうとした時
「ちょっとどう言うことよ!!最下位のあんたが何で高様のパートナーなのよ!!順番なら私がパートナーのはずでしょう!私が1番なんだから!」
ああ見つかってしまったと玲は心の中で思った。
札術師のトップに居る女の子が怒鳴って怒っている。
それも当然だよなと思いながらも、玲はその女の子に
「そうだよね、でも僕も選ばれたからには頑張るよ、華蓮さん」
「ふざけないでよ!どれだけの人が高様と組みたいから頑張ってると思ってるの?あの方は8年間ずっとトップで、でも誰もパートナー付けないから皆納得してたの!なのによりにもよってあんたなんて……」
はっきり言われるのも心に傷が付く。
それも最も至極当然の事を言われれば何も言い返せなかった。
多分協会の札術師の全員に思われてるだろう。
なぜ落ちこぼれの僕なのか。
でも今はそんな事で落ち込んでは居られない、玄関で高様が待ってるから行かないと。
「華蓮さん、ごめん今は急ぐからまた後で」
そう言って玲は小走りになりながら走って行った。
残された華蓮はワナワナと震えており
「絶対あんたなんて高様に要らないって言われるわよ!」
茶色い肩までの髪を揺らしながらそう叫んでいた。
一方高の方は帰ってきた時に破壊した壁を見て思い出したかのように、元に戻していた。
高の力は少し特殊で、他の封縛師には出来ない事も出来る。
余り人前ではしないが高が1人で任務にあたれるのも、その力があるから認められている所があった。
しかし何故今回強制的にパートナーが付いたのか、それも最下位の札術師を。
どこまでの実践経験があるのかも未知数で、高にとっても手探りの仕事になりそうだと思っていた。
そんな考えを頭の中で巡らせていた時、
「お待たせしました、高様」
荷物を抱えた玲が走り寄ってきた。
「いや、…何かあったのか?」
相変わらず無表情で玲を見ているが、何か気になった様で何気に聞いていた。
「い、いいえ何もありません!ありがとうございます高様」
「その様付けは要らない」
「え?じゃ高さんでも良いですか?」
「ああ……」
そう言うと2人は協会を出て任務の応援に行くため、北京空港に向かった。
北京空港に降り立った2人は、北京支部から迎えが来ているはずが現れないので、不審に思っていると突然黒のスーツ姿の男たち数人に囲まれた。
慌てている玲とは対照的に無表情で冷ややかな目線で男達を見た後、
「お前武道は?」
玲に呟くと首を横にフルフル振りながら
「苦手です、腕力ありませんし」
「だろうな……」
スーツの男の1人が高に向かって拳を振り上げてきたが、サッとかわすと腕を捻り上げて相手の後ろを取った。
「どういうつもりだ?」
ひんやりと氷の様に刺す様な冷たい口調と、殺気が込められた瞳にスーツの男たちは「ヒッ」と呟いて、後退りしている。
殺気のオーラに玲もビクッと反応していた。
その時近くの物陰から白いチャイナ服の金の刺繍をした男性が出てきて、高のまえに来た。
「試す様なことをして申し訳ない、本当に上海支部の封縛師が来るのか半信半疑だったのだ」
「あんたは北京支部の総長か、なぜこんな事を?
」
黒の短髪の男性は申し訳なさそうに
「もううちの封縛師では手に負えない案件で上海支部には凄腕の封縛師が居ると聞いて藁にもすがる思いで案件を出した。でも実際にどれ位強いのか確かめたかったんだ、しかしこんなに強いとは」
高にすればただ威嚇しただけだったが、効果は抜群だった様だ。
「俺は高悠黄、あっちは札術師の玲琳朱だ」
だが総長他スーツの男達は高の名前を聞いてびっくりして固まっている。
何とか声を振り絞ったのは総長で
「貴方があの有名なずっとトップに君臨している封縛師なのか、貴方を派遣して下さるとは龍麗総長にはお礼を言わないとな。」
「とりあえず現場に連れて行ってくれ」
高の言葉に総長は頷くと車の所に案内され玲と2人後部座席に乗る。
車が動き出すと高は総長に今回の妖魔の特徴を聞こうと口を開いた。
「今回はかなりそちらの封縛師がやられたらしいな、相性が悪い相手なのか?」
「そうなんだ、こちらの封縛師が待つ魔力が好みらしく札術師が一緒でもどうにもならない、このままでは一般市民も巻き込まれる、ここで止めないと。」
総長の言葉に魔力かそれはやりずらいだろうと高は心の中で思っていた。
チラッと隣の玲を見ながらこいつをどうしたものかと、考えあぐねている。
下手に手伝わせたら餌食になる可能性が高い。
札術師も魔力を使うからだ。
そうこう色々考えていたが、現場に着いたのか車が止まった。
大きな倉庫の様な場所だ。
車から2人は降りると高は総長に
「A級クラスだな妖力の大きさから」
「A級!!」
高の言葉に総長は驚いて聞き返していた、A級上から3番目に強い妖力の妖魔をさす。
これは少し本気を出すかと思っていると、玲がガクガク青ざめながら
「座学では知ってるんですけど、僕実践初めてでA級って確か数人の封縛師や札術師が居ないと封印するのは大変と聞いた様な。」
実践初めてと聞いた高はこれは結界の中で大人しくして貰おうと心に誓って、玲に向くと
「結界をはるからお前はその中から出るな」
「え、でも高さんは1人で戦うんですか?」
「いつも1人だ」
あそうかと玲は思った、今までどんな任務に高が関わったかは知らないが自分より遥かに実践経験は豊富だ。
足手まといになるならその方が良いと思い「分かりました」と伝えた。
「じゃいくぞ」
「はい」
そう言って2人は廃倉庫に入って行った。
中はもう何年も使われていないのか、埃が積もっている。
前を見て歩いていた時上の方から女の声で
「あら〜可愛い男の子2人それも好みだわぁ」
空中でフワフワと浮かんで2人を見てクスクス笑っている。
外見の年は二十代位だが妖魔は長寿な為実年齢は、かなり上のはずだ。
その妖魔を見て高は成程と納得したのか
「魔力を吸い取って外見を若返らせているのか」
妖魔は少し驚いたもののウフフっと不敵に笑い
「何だか私達に詳しいのね、珍しいわ今までの人間は何も分からないまま死んでいったもの、私は貴方達の天敵ね」
「どうだかな、ここから動くなよ」
高はそう言うと右手に金色の光を出し結界を作って玲に入る様促した。
玲も慌ててその光の結界の中に入る。
「金色の魔力?初めて見るわね、でも凄く貴方良い餌になりそう」
「寝言は寝て言え」
そう言い終わるか終わらない内に、妖魔の女は高に向かって一直線に飛んでくる。
「私に捕まったらおしまいよ、触れただけで吸い取ってしまうもの」
「触れなければ良いんだろう」
そう言うと金色の光の玉を無数に出し妖魔の女に向けて飛ばした。
だが女に金色の玉は吸い込まれていき、女は両手をワナワナさせながら
「凄いわ、この魔力他の人間なんて比べ物にならない」
「なるほど魔力の接触もダメか」
「さぁどうするの、可愛い坊や後ろの子も後でたーぷり可愛がってあげるわ」
高はため息をつきつつ、左手を前に出すと「対極剣」と言うと金色のオーラから、小さな女の子が出てきて、高に話しかける。
「やーほーひさしぶ!」
話終わる前に高が凄い顔で、
「今すぐ封印されたくなければ剣になれ」
「はい」
女の子は泣く泣くそのまま剣になった。
その姿は柄の真ん中に陰と陽が描かれて、持ち手の両端は長くその先にはふさが両方に付いている。
剣の形は直剣で何やら文字が刻んである。
「な、何その剣、対魔用のどうして坊やが持ってるのよ」
この剣のおかげで高は今まで1人でも任務をさせて貰えていたのだ。
この剣は主人を選ぶ剣で今は高が主人になっている。
その様子を結界内で見ていた玲は驚いて、流石は1人で任務をこなす凄い人だとさらに自分とは違いすぎて、次元が違うと思い始めていた。
(僕なんかがやっぱりパートナーは良くない、足を引っ張るだけだ、龍麗様には辞退する様に伝えよう)
ただ見ている事しか出来ない自分が、玲は情けなくて仕方なかった。
剣を持った高は女に一直線に飛んでいく。
女の方も流石にかわさないとマズイと、剣をかわしながら冷や汗を流していた。
「こんな使い手が居るなんて聞いてない!こうなったらあっちの坊やに!」
結界の中にいる玲に突っ込んでいく。
高はしまったと思って、そちらに向いたが間に合いそうにない。
魔力を吸い取るのだ、結界も解ける可能性がある。
「自分で結界をはれ!」
高が慌てて言うが、時すでに遅かった。
パリーンと結界が割れ女はクスクス笑いながら、玲の腕に触れた。
がその時玲の身体から出た真っ白い何かに、女は弾かれ飛ばされる。
「キャ…いたた、何なのよあんた達」
尻餅をつきながら起き上がろうとしている女は、顰めっ面で2人を睨む。
高も何が起きたのか分からなかったが、とりあえず玲が無事なのでホッとしつつ、その前に立って守る様に女と距離を取っていた。
「もう許さない、まずは剣の使い手のお前から血祭りに上げてやる」
女の瞳が猫の様な縦長の形になる。
妖魔独特の瞳の形だ。
妖力も桁違いに出し始めている、高はそれでも冷ややかに冷徹な目で見つめていた。
それも女には気に入らない様で妖力を塊にして、高達に投げる。
人間にとって妖力は毒に等しい。
それも膨大な力だ、でも高は一切動揺せず投げられた妖力を対極剣で切りそれを金色のオーラで包んで消した。
それを見た女は信じられないものを見たかの様に
「そ、そんなバカな人間にそんな力がある訳……」
慌てて後退りながら空に逃げようとした時
《止まれ》
女の頭の中で声が聞こえ身動きが取れなくなる。
(な、なに何がどうなってるの)
声の主は女には分かっていたが、あり得ないと心の中で必死に否定していた。
妖魔を操れるなんてそんな事あり得ない。
でも自分は今動けずに何かに吸い寄せられる様に、目の前の男の目とかち合う。
その瞳に女は弾かれた様に
「そんな、そんなその瞳は」
言いかけた時高が耳障りの良い声で、
「封縛!」
と言うと金色のオーラで女は包まれて断末魔の叫びと共に玉になった。
高は一度目を閉じた後、玲に向き直りさっきの白い防壁が気になったので
「さっきのは何だったんだ?」
「僕にもさっぱりで?何で僕無事なんでしょう?」
俺に言われてもと高は思ったが追求しても分からないなら仕方ないと、剣に視線を向けるとそのまま消した。
「やっぱり高さんは凄いです、僕なんて居るだけで何にも出来なかったし」
「まぁ確かにな」
玲が苦笑いしているのを見ながら、もう少しパートナーでも良いかも知れないと高は思っていた。
封縛した妖魔の玉を渡し北京支部の総長はびっくりしていて
「本当に2人だけで退治して貰えるとはありがとう」
頭を下げながら2人に話していた。
その様子を廃倉庫の上から見ている1人の人がいた。長い薄水色の髪を後ろで幾重にも重ねて簪で留めている。
灰色の切れ長の瞳は猫の目の様に縦に形があり人ではなく妖魔の様だ。
だがただ見ているだけで何かする訳でもなく、薄水色のヒラヒラした服装や装飾などから、上位の妖魔のようだ。
《やっぱり倒しちゃった?》
頭の中の声にその人は反応すると、
《そのようです、我が君》
頭の中で返答する、するとフフっと何故か笑って
《早く戻っておいで氷霞》
《畏まりました》
そう言うと突然姿が消えた。
その方向を高は人が消えた後見つめていた。