初めてのパートナーは最下位札術師
窓から夏の爽やかな風が室内に流れ入ってくる。
その風に髪がサラサラと流されて、作業をしていた右手を髪に当てて整えている男性が居た。
艶やかな黒髪が腰まであり、前髪は作らず顔の横に長めに流している。
「今日は風が強いですね、少し窓を閉めますか。」
そう言ってパソコンから手を離すと椅子から立ち上がり、窓に手を掛けた時扉を叩く音がした。
「総長案件書類とご相談したい事が…」
「構いませんよ、どうぞお入りなさい。」
扉を開けて入ってきた男性は、一礼した後笑顔の男性に自分も笑顔を返すと、
「書類はデスクの籠の中で宜しいでしょうか?」
「わざわざありがとう、それで相談と言うのは?」
白のチャイナ服に金色の刺繍を施した総長と言われた男性が、入ってきた薄茶色の紅色の刺繍のチャイナ服の男性に優しい声色で尋ねた。
「実は封縛師の恥ずかしながら私の弟子なのですが、どうも高様に対抗意識を燃やしてあちらこちらで、問題を起こしておりまして。」
「高の事を長である貴方まで様付けしては、それは彼にとっては面白くないのでは無いでしょうか?」
「いやいや龍麗様、相手との力の差も分からぬ愚弟子です。
いつか何かやらかすのでは無いかとヒヤヒヤしておりまして。」
その時外からザワザワ人々の声がして、龍麗はそちらの方に顔を向けると、相談していた男性が頬を高揚させて、
「高様がお帰りになられたようですね」
嬉しそうに言っている姿を見た龍麗は、苦笑いを浮かべて心の中で
(困ったものですね、あの子は自分が人気があってもちっとも嬉しく無いでしょうしね)
少し寂しそうな微笑みを浮かべている龍麗に、男性は不思議そうな顔をしていたが、
ニッコリ笑って
「何でもありません、では相談の件は考えておきましょう」
男性はホッとした表情をして一礼してから部屋を出て行った。
龍麗は椅子に座ると受話器を持ち、誰かに電話しているのか相手が出るまでコールしている。
その時相手が出たようで、
「何かようか?」
ぶっキャラ棒に冷たく言い放つまだ少年ぽい声の男性に、龍麗は苦笑いしながら、
「そちらの用事が終わったら私の所に来て下さい、大事な用事がありますので頼みますよ、高」
しばらく返事がなかったがため息をついた後
「分かった、終わったら行く」
「宜しくお願いします、高に会えるのも久しぶりですものね」
「半年会わないくらいで変わらないだろう。妖魔を狩り続けるだけだ。」
その言葉に龍麗は自分の胸元を握りしめて、心の中にある言葉を高に問いかけた。
「高何か生き急いではいませんか?そつなく1人で任務をこなしてくれるのは嬉しいですが、同時に不安なのです、貴方は生に執着がない気がします。本来はパートナーを連れて2人行動が基本です、だから高私は………」
その言葉を遮るように高はため息をつき
「あんたは心配しすぎなんだ。それとパートナーは邪魔になるから要らない、足を引っ張られるのはごめんだ。あんたが色々気を使う必要はないただの協会の1封縛師それだけだ」
そう言って電話を切られた龍麗は、はぁ―と深いため息をついた後、椅子に座り
「気のせいなら良いのですが私の勘は結構当たるのですよ。今回ばかりは高にも認めて頂きます」
ふふふんっと不敵な笑みを浮かべて窓から外を見ていた。
一方ある建物の前に1人の少年が立っている。
門の横には妖魔封縛協会上海支部と書かれていた。
少年は慣れた手付きで懐からキーカードを出すと門の横の、機械にかざす。
すると門が開いて中に入って行くと同時に、閉まった。
白い階段を上がり扉を開けて協会の中に入ると、周りに居た人達が次々に少年を見ては興奮している人、ぽーと高揚している人、はたまた拝んでる人までいる。
だか本人はどこ吹く風とばかりに無表情で、黒いチャイナ服に金の刺繍が施された、服を着て歩いていた時
「我協会のトップ様は無視ですか?お前何様なんだよ!いつも偉そうにしやがって!」
どうやら少年の態度が気に食わなかったのか、顔を真っ赤にして怒っている青年は灰色のチャイナ服に銀色の刺繍がしてある服を着ている。
刺繍入りの服が着れるのは、協会のトップ総長、副総長、そして長と各術師のトップと2番手が着れるようになっていた。
つまり今怒っている青年は2位で、怒鳴られている少年はトップなのだがそれも気に入らないようだ。
それでも無視をして歩いて行こうとする少年に、頭にきたのかいつの間に居たのか取り巻き2人を連れて少年の進路を妨げる。
周りの人達がザワザワと心配そうに見守っていた。
「これなら無視出来ないだろう?高悠黄」
黒髪の少年高はスッと顔を上げて青年を見る目は、冷たく鋭い視線で溢れている。
流石にその視線に青年は怖気付きそうに、なったがこちらもキッと睨み付けると、手に透明な風を纏わせて上半身位の大きさになったものを、高に放った。
高は手でその風の塊を、金色のオーラでパンッと消し去さる。
自分の力が消された事で、更に大きな力を集めようとしたので、高は金色のオーラを身に纏って、目の前の青年どころか周りの建物も吹き飛ばし、青年はペタンとその場で腰を抜かして高を見て
「ば、化け物だ……」
と呟いた。
高はフッと冷ややかに冷酷な表情で、青年に
「化け物だからトップなんだろ」
そう言うと周りの人達にかけていた金色の守護結界を、左手を前から後ろに動かして解いた。
そしてそのまま建物の奥に歩いて行く。
結界で守られていた人達はその後ろ姿を見て、やっぱり凄いなぁとかカッコいいなぁとか呟いてをた。
高はある扉の前に立つと扉を叩いた。
中から「どうぞ」と促す言葉を、聞いたのでそのまま中に入る、
中には龍麗が居て、高を見た途端に嬉しそうにはにかんだ。
「任務お疲れ様でした。どうでしたか?」
「特には……」
高の返答に苦笑いしつつも、元気で帰ってきてくれたのだから良いかと思っている龍麗。
「所で高今回は貴方にもパートナーを組んでもらいます。」
その言葉に高は目尻を上げて睨むと、
「俺はパートナーは要らないと言ったはずだ。」
「今回はそうはいきません、本部からの指示ですし札術師の教育にも力を貸して貰わないと。」
「サポート役なんて要らない」
高が言い終わって席を立とうとした時、扉が叩かれた。
龍麗が「どうぞ」と言うと、茶色のチャイナ服を着た少年がオドオドしながら、中に入ってきた。
高はチャイナ服の色を見て驚いて固まっている。
札術師の最下位の服の色は茶色なのだ。
龍麗はニッコリ笑って
「高のパートナーの玲琳朱君だよ。」
「………」
高は龍麗を無言で睨んでいた。
玲琳朱と紹介された少年は、高を見て目を輝かさせて、目もウルウルさせている。
そんな様子を高は何だかよく分からない不思議な気持ちで見ていた。
他人に対してそんな気持ちを持ったのは初めてで、困惑した気持ちだが表情には出さなかった。
「高様紹介に預かりました、玲琳朱です、玲と呼んでください。」
「俺はパートナーは必要ない」
高にきっぱり言われたが、玲は
「それはそうですよね、最下位の僕と組まされるなんて思いませんよね。」
目をウルウルさせて下を向いた玲を見て、高は龍麗を見たが何故かニコニコしている。
高はもうこれは覆らないと悟って、玲に話しかけた。
「とりあえず一度任務をしてから考える」
「本当ですか!やったー!」
玲の返答に高はやれやれと思いつつ、龍麗に向いて
「任務はあるのか?」
「ええ、丁度2人にお願いするつもりの案件が、今からですが北京支部に行って貰えますか?」
高は頷くと玲を見て、
「直ぐに行くから準備しろ」
「はい!」
2人はそのまま部屋を出る。
玲は一礼してから部屋を出て行った。
龍麗は2人を見送った後デスクの椅子に座り、デスクに飾ってある写真を指でなぞりながら、目を閉じて考え事をしていた。
写真には龍麗の隣で笑顔で、笑って立っている高が居る。
今とはまるで正反対の性格の様に明るい笑顔だ。
(あの子をあんな風に変えてしまったのは私ですね、ただ幸せになって欲しかっただけなのに、私はどこから間違えたのでしょう。)
写真を見ながら切なげに目を伏せるのだった。