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6.やっと1歩目


 決意表明した日から数日。


「………………ハルって本当に使えない」


「え………………………………?」


「聞こえなかった? もう一度だけいうよ? 」


 アキは大袈裟にため息をついた後、


「ハルは本当にダメダメな娘だね………………」


 冷たい目をしてそう言った。


 

 ◇



「とりあえず、外に出るためのトレーニングだね」


 日課の手繋ぎ散歩が終わり、あの部屋でゆっくりしていると、アキはそう言った。


「うん………………」


「まずはハルに確認だけど…………」


 そう言ったアキは立ち上がった後、


「とりあえず、外には沢山の人がいます」


「はい……」


「私の協力をするために、外に出るなら関わらないことは不可能です」


「…………はい」


「ハルは誰かと話さなくてはならない機会が山ほどあります」


「…………………………はい」


「嫌なこともたくさん言われると思う」


「…………………………………………はい」


「今のハルに耐えられる?」


「無理」


 即答だった。4年だ。引き篭もってそれだけの時間がたった。

 うまくコミュニケーションなんてとれるわけがない。

 そもそも前世の私はそれが原因で上司から怒られた。

 前世から内弁慶の典型的な根暗。

 それに過去の出来事によって人恐怖症を発症した結果、メンヘラがプラスされた危険な化物が今の私だ。


「ま、そうだよね」


「…………………………」


 全く期待もされてなかったことはショックだったがしょうがない。


「……本音を言うとね」


 こんなことを考えている間も、何かを迷っているようだったアキは、そう話を切り出す。


「うん…………」


「私はハルが外に出なくても別にいいかなって思ってる」


「…………うん」


 少し心が痛い。


「それはアキに期待してないからとかじゃないよ?」


「そうなの………………?」


「うん。辛いことから逃げてもいいと思う。それだけの過去があることを私は知ってる」


「………………」


 私は黙ってしまう。アキには全て見透かされてる。


「でもね」


「…………?」


「そんなハルが悩んで考えてくれて、出した答えが嬉しかったから」


 私の中で何かがまた変わっていく。


「私のために何かしたいっていってくれたから。だから協力したい」


 アキは私が欲しい言葉を欲しい時にくれる。心が読まれてるみたいだ。


「失敗してもいいよ。私のために挑戦しようとしてくれたって事実だけで本当に嬉しい」


 そう言ってくれる目は言葉は優しくて、


「色々なことをやって、色々なことに挑戦して、色々な失敗をしてさ。最後にハルが選んだらいいよ。その答えがどんなものでも私はハルの味方。それだけは変わらないから」


 私の迷いを消し去ってくれる。


「でも私はわがままだから、ハルが選ぶ道に私を選んでほしい」


 アキは私を導いてくれる。


「私ね…… 外に出たらこんな風に気楽に話したりできる相手とかいないんだ……」


 そう言って俯くアキ。


「いつもお嬢様みたいな口調で話さなきゃいけなくて、対等に接してくれる人は周りにいない。そして移動中はずっと一人で馬車の中……」


 アキにこんな顔をさせてはいけない。


「その時間をハルと過ごしたい…… だから私のわがままで協力するの!」


 迷いは晴れた。いや晴らしてもらった。


「わ、私は!!! アキと手を繋いで外に出るために何でもする!!!」


「ほんと?」


 そう俯くアキに聞かれるから、私は自信満々に答える。


「うん! まずは感情の制御からだね! 魔法危ないし!」


「そのためにはなんでもできる?」


「うん!」


「なんでもだね?」


「もちろん!」


「じゃあ、そんなハルに聞いてほしいことがあるの」


「なに?」


 今の私に怖いものなんてない。


「………………ハルって本当に使えない」


「え………………………………?」


 聞き間違いだろうか。反射的に聞き返す。


「聞こえなかった? もう一度だけいうよ? 」


 アキは大袈裟にため息をついた後、


「ハルは本当にダメダメな娘だね………………」


 冷たい目をしてそう言った。


「な、なんで…………」


「事実を言ってるんだよ?」


 ジリジリと近寄ってくるアキ。


「ま、まって……」


「何を?」


「怖いよ…… アキ……」


 気づけば背中には壁。もうこれ以上は下がれない。

 そしてアキに頬を片手で摘むようにして掴まれた。

 耐えきれず、刻印が光る。


「また? 感情すら制御できないで魔法を暴発させる魔法使いなんて聞いたことないよ?」


「はぁ……はぁ……」


 なんとか感情を制御しようとする。

 これは言われて当然の事だ。

 アキに甘えてばかりはいられない。

 私自身が乗り越えていかなきゃならない壁。

 魔法が発動してアキを傷つけることはないが、アキにこの醜態を晒すのは嫌だ。


「やればできるじゃん」


 なんとか抑え込んだ。

 その場に座り込む。

 そんな私の目の前に水滴が落ちる。


「ごめんね…… ハル…………」


 アキはそういうアキ。


「私はあんなこと言っておいて、ハルと一緒に外に行きたい気持ちが抑えられない……」


 そう言って座り込んで膝を抱えるアキ。


「アキ…… 泣かないで……」


「うん……」


「いいよ。それくらい私がダメダメなんだから」


 途中から薄々感じてた本音をアキにぶつける。


「アキ!これ続けて?」


「いいの?」


「うん!」


「なんか頑張れそうだし…… それに……」


「それに?」


「アキの冷たい目、ちょっとよかったから…………」


「………………………………」


 頭をはたかれた。

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